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2023年1月の記事一覧

マドラー

マドラー

マグカップに放り込んだ氷が
もう跡形もなく熱湯の中に消えた
私は時々そんな風に
私の中の記憶と感情が
溶けて吸収されることを思い描く
避け難い事態は受け入れ難いまま
いつの間にか膨れ上がっている
私の身体を巻き込んだまま

孤独には中毒性がある
ペシミストは依存症だ
延々と耐え難い状況を作り出し
孤独を舐めて過ごしてる

かつて暗闇で
それだけを糧に生きたから
ああそうかわかったぞ
私達は胎内で幸

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なんだ

なんだ

「何を期待してるの」
まるでかわいくない犬を追い払うように
彼等がそう言う時わたしは
「なんだママじゃないのかよ」
という副音声を聞く

そして私の胸の裡では
「お前が期待し過ぎだろ」
という落胆と同時に
小馬鹿にされた憤怒が湧いてくる

受容の交換はどうやら困難らしい
そもそも意思確認を怠っている
「互いに批判しないこと」は
「手を出さないこと」と同じぐらい
簡単に破られてしまう暗黙の了解だ

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短歌集 雪

短歌集 雪

1.さっぽろが わたしのために やってきた
匂いのちがう 雪にがっかり

2.除雪車と 雪ふむ音しかない夜に
誰をめざして 歩いていたのか

3.寒波だと 波などぬるい ぬるいのと
道民気取る 未練のままに

4.体しか 褒めない親に よく似てる
握れど擦れど 冷たい指先

5.無くしたの 今日の薬をどこかにね
衝動買いの帳尻合わせか

6.見てもいや 触ってもいや どうしたい
なりたかったの 雪

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誰かのもの

誰かのもの

それはまるで
型違いの輸血のように
私を蝕む
誰かの感情

私に合わないのだ
私の身体はそれを
私としては扱わない
拒絶が私を蝕む
私を壊す

だからそれを
私の腕に刺さないで
私の首に刺さないで
私の鼠径部に刺さないで
私の口に入れないで
無理矢理押さえつけたりして

私は私を自分で治せるから
どこかの誰かきっと神様とかが
私の心臓を動かし血液を流し
私の細胞を操って
血と骨と肉を作り
皮膚を着

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私が私だと思っていたものは

私が私だと思っていたものは

人形が好きだとか人間が嫌いだとか
ブラコンだとかマザコンだとか
末っ子で甘えたがりで我儘だとか
器用だとか不器用だとか
素直じゃないとか我が強すぎるとか
すぐキレるとか我慢強いとか
頭がいいとかわるいとか
センスがいいとかわるいとか
綺麗だとか汚いとか

色んな人から言われて
自分で分析し続けて
私が私だと思っていたものは
たぶん
全部
ぜんぶ
真っ赤な
うそっぱちで

私が心から私だと思えるもの

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たんじょうび

何が欲しいと聞かれて
あんなに毎日
あれがないこれがない
なんとかしなきゃと焦っていたのに
欲しいものはもうひとつも
思いつかない

たんじょうび
昔は何をねだったっけ
ひとつ覚えているのは
寒い中お気に入りのキャラクターショップで
たくさん小物を買ってもらったこと
何が入っていたかは覚えてない
でもあの袋はずうっととっておいた
あの日の嬉しさを
忘れたくなくて

きっと未来はなんとかなって
誰の

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滅びの町

壊れていく町を
眺め泣いていた
何も出来ない
僕だけがいた

死んでいくのは
醜いことか
叶わない夢は
汚いか
負けた犬は
弱いか

終わる命
流れる血
壊れた夢
負けた背中

美しい
美しいんだ
この目には

ニット

ニット

まるで控え目にお祈りをするような恰好で
袖を持ち上げ干されている私のセーター
何を祈っているのだろうか
敬虔な灰色のニット

まるごと

丸ごと食べるのがよい、らしい
小魚、野菜、玄米…
そうねだから
私のことも

この孤独の中に
入ってきて欲しいとは思わない
孤独ごと包んで

あたためて欲しいんだ
ティーコゼーみたいに
シャトルシェフみたいに

私の孤独を包んで
二人の間の空気をあたためるように
そこにいて

そうよ雪だって
かまくらにすればあたたかい
形が大切なのよ
それはナイフにだってなる

固く握って投げたりしないで
お願い

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