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#09 わかりやすく釉薬を語ってみたい…今回はちょっと化学的(3)

 瀬戸は伝統的に灰をベースに釉薬を作ってきた土地です。という話を続けてきました。
 ちょっと知れば普段の器がもっと楽しくという話をしたいのですが、釉の話は深いので難しくなりがちですいません。今回は近代的な釉調合の話。

 昔は釉の調合は「〇〇灰1杯に、××石を×匁…」みたいな感じだったようです。調合していたメモ書きは暗号のようです。書いた本人以外にはよくわからない秘伝のレシピっぽい感じです。原料の名前も今ではわからないこともあるし(入手できない場合も)、灰が水に溶けている場合は濃度もわからない、そもそも1杯が何の杓か枡か大きさもわからなかったりもあります。乾燥状態で「〇〇石を〇〇グラム、××を××グラム」になればまだわかるかもですけど。
 じゃあ現代の釉調合はどうやってそのレシピを残しているかと言うと(もちろんすべての作り手さんがそうしていると言うわけじゃないですよ)、ゼーゲル式というものを使うことが多いです。

 今、釉薬の勉強をしていこうとするとたぶんこのゼーゲル式を覚えることになります(きっと)。化学が苦手な人はここでサジを投げるかもしれません(多いかも)。でも、陶芸を学ぶためにどこか学校に通ったという方なら馴染みがあるはずです。
 自分は2年間愛知県立瀬戸窯業高校の専攻科というところで陶芸を学びました(平成の初めの頃です)。最初の1年は課題にそってこのゼーゲル式で調合を計算、調合した釉薬でテストピースを作り焼くを(毎日のように)ひたすらやっていました(たぶん当時の自分なら「やらされていた」と書いていたかも)。結構な量になった当時のテストピースは今は大事な財産となっています。2年目は自分の決めたテーマでさらに大量のテストピースを焼きました。

 さて、「ゼーゲル式って何がいいの?」ということです。
 具体的な詳しいことは別の場所で学んでいただくとして、ここではどんなものかだけを簡単に紹介します(そんな深い場所まで皆さんを案内はしませんのでご安心を)。

化学分析表。通常使われる釉の原料の化学的な分析値がわかります。

 まず、さまざまな釉の原料が化学的に何を含んでいるかという化学分析表を手元に用意します(ちゃんとした原料屋さんなら用意してくれていると思います)。福島長石も朝鮮カオリンも釉に使われる原料はほぼそこにリストアップされています。もちろんさまざまな灰も分析表に載っています。それら原料それぞれがCaOとかSiO2とかAl2O3などなど化学成分として(2とか3は化学式でちっちゃく書いてあるやつです。ここでは小さいのが出ないので普通サイズの数字になってます)どのくらい含まれているかがモル比で書かれています(モルとかまで出てきましたが、化学が苦手な方ももう少し付き合ってくださいね。モルがわからない場合は……調べてくださいね)。
 釉薬はこの化学式(ゼーゲル式)で表現出来ます。ゼーゲル式の知識と化学分析表があれば、「ワラ灰3に福島長石7を混ぜた灰釉」も化学式で表現出来ます。もちろん逆も出来ます。もしいつもの釉薬を調合しようとして、最初に使った原料が入手出来ないとしても、ゼーゲル式がわかっているなら他の原料から同様の調合が可能です。

左から4番目のテストピース
①ワラ灰3に福島長石7を混ぜた灰釉を作るとして
②化学分析表を使ってゼーゲル式に表すとこんな感じ
③それをワラ灰使わずに他の原料で調合してみるとこんな感じになるはず

 ゼーゲル式をしっかり理解しておけば「あれ?何か今回の調合、焼いたらちょっとおかしいぞ!?」という場合でも、原因を見つけるのも対応するにも近道になります。また、ちょっと変化を加えたい場合もいじり方のヒントも見つけやすいのがゼーゲル式と思います。
 知っていれば(深くも浅くも)現場で便利なゼーゲル式。陶芸の現場では化学式が結構使われている……意外でしょうか。

 で、前回の灰釉の話でも出ましたが、その灰の化学分析値が分かれば、他の原料を用いて合成も出来ます(合成○○灰になります)。ただし、本当の灰には含まれている(分析表やゼーゲル式に現れない)微量な成分までは再現出来ないわけで、そこが天然物の魅力とも言えます。

まとめ
 釉の世界は深く広いですが、ゼーゲル式は迷わないためのコンパスになるかも(テストピース作りの指針)。
 学生時代は電卓(PCなんてなかったもん)片手に化学分析表広げてコツコツ計算していましたが、今はAndroidのアプリで簡単計算(iOS用はないみたい)も出来ちゃうみたいですよ。
 あとおすすめ。ゼーゲル式初心者にはむずかしいけれど、ある程度分かった後に見るとすごくわかりやすい梶田絵具店さん(なんだかんだといつもお世話になっています!)の釉薬調合についてYouTube。参考になりますよ。

 釉の調合の話はどんどん深みにはまりそうなので一旦終了です。

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