ツキガキレイ、ですね。
#テレ東ドラマシナリオ #コンクール #ドラマ #テレビ東京
(キャスト)
津来垣 レイ(25)素朴な雰囲気の女性。事務職
小林応助(27)レイの彼氏的存在。
(ストーリー)
〇外
土砂降りの雨。
レイM「この世界に『すき』という言葉は存在しなくなった……らしい」
〇応助のアパート
イケメンの青年・小林応助(27)がソファで寝ている。
テーブルの片づけをしている津来垣 レイ(25)。
レイM「そんな言葉、使う機会がなかったから――存在しなくなったことすら知らなかった。だけど、だけど今は」
レイ、応助を見て、笑顔に。
〇回想・バル・飲み会~2次会
立ち飲み形式で、数名がワイワイと集まっている。
隅っこでウーロン茶を飲んでいるレイ。
応助「……こういう場、苦手?」
レイ「え。すみません。いや、そう……ですね」
応助「合コンって何でしょうねぇ。ほとんどが初対面なのに酒を笑顔で飲まないといけない場」
レイ「不思議な時間でした……」
応助「1次会のゲーム、楽しめました?」
レイ「……はい」
応助「(微笑み)参加してなかったじゃん?」
レイ「すみません」
応助「今日20回くらい『すみません』って言ってる」
レイ「ごめんなさい」
応助「『ごめんなさい』は9回目」
〇応助のアパート
皿を洗っているレイ。
レイM「それから何度かの食事をして、何度かのお泊りをして、89回目の『すみません』を言ってきた」
応助、目を覚まし
応助「ありがと」
レイ「ううん、平気」
タオルで手を拭いている。
外、雨が止む。
レイM「決めた。今日こそ私の想いを伝えなきゃ」
〇外
虹が出ている。
レイの声「あのね、応助君」
〇応助のアパート
2人、ソファに並び
レイ「伝えないといけないことがあるんだけど……」
応助「いや、俺のほうから――」
レイ、応助の手を握り
レイ「(首を振り)私、その言葉言ったことがないから、言わせて!」
応助「分かった……」
レイ「この感情を言葉にできなくて――すみません」
応助「90回目だ」
レイ「夏目漱石が、ある言葉に例えたことまでは知ってるんだけど」
部屋に釣竿道具が飾ってある。
レイ「!」
レイ、応助を見て
レイ「釣りは――釣りはカレイですね? 釣りはカレイですね、だ!」
応助「……違うって。俺がやってるのは、ブラックバス釣りだし」
レイ「!」
応助「ナニ……?」
レイ「栗はキライですね……?」
応助「食べられるけど」
レイ「次はカレーでいい?」
応助「うん、お願い」
レイ、頭を抱える。
〇外
日の入り、夜になっていく。
〇アパート
レイ、空を見る。
レイ「!」
応助、スマホを見て、驚いている。
応助「ちょっと、電話出てくる!」
レイ「思い出したの、聞いて!」
応助「電話――」
レイ「伝えたいことがあるの」
電話の声「誰? 応助~?」
レイ「え、女の人?」
応助「いや、違くてさ――彼女が急に」
レイ「彼女……?」
応助「いや、その――(舌打ちし)」
レイ、立ち尽くし――。
レイ「わ、私は何なの……?」
応助、電話を切り
応助「今切った。切ったから君が彼女!」
レイ「は? 何それ」
応助「そういうヤツだって知ってたんでしょ」
レイ「…………」
レイ、涙を滲ませてしゃがみ込む。
レイ「君とかじゃなくて、ちゃんと名前で呼んでほしい」
応助「だから――レミのこと、ツキガミレミのこと、俺はちゃんと――」
レイ、驚いた表情。
レイ「私……そんな名前じゃ……」
応助「え……」
レイ「……ツキガキレイ。私は――ツキガキレイです。あ!!」
レイ、ハッとする。
〇イメージ
辞書がペラペラとめくれる。
月の解説とともに、夏目漱石の一文も書いてある。
好き=「月が綺麗ですね」の一節――。
レイの声「私は――ツキガキレイです」
〇イメージ明け。アパート
応助「ありがと。そう言ってもらえて――」
レイ「(複雑に)いや、そうじゃなくて訂正するた――」
応助、レイにキスをする。
レイ「!」
レイ、涙を一滴こぼしつつ――。
レイM「言葉なんて、所詮はただの言葉だけだ。『すき』だろうが、『月がきれいですね』だろうが、『ツキガキレイです』だろうが――その言葉自体に意味はないんだ」
応助「レミ……俺からも言わせて。ツキガキレイですね」
レイ「……」
レイ、涙を拭いてキスを返す。
レイ「(無理やりな笑顔で)うん、ツキガキレイですよ」
応助「(笑顔で)」
応助、再びスマホに着信。
レイ「私は――ずっと、ずっとツキガキレイですね」
〇外
着信音がぶつ切りに。
綺麗な満月が光っている。
(おわり)
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