退職代行業者から従業員が退職する旨の連絡が来た。これって適法?
【退職代行×法的整理×対応方法】近年、退職代行業者から従業員が退職したいと申し出ているという旨の連絡があったが、どうすればよいかというご相談が増えています。
昨今では、メディアにもよく取り上げられるようになり、また多くの弁護士も参入する等、ビジネスとして成り立つようになってきており、様々な業者が増え、市場が拡大しているように思います。
本記事では、退職代行サービスに関する法的な整理をし、その上で、実際にどう対応すべきか、皆さんと一緒に考えていければと思います。
1 退職代行サービスとは
労働者に代わり、使用者に対して退職の意思表示を行う等、退職に関する手続きを代行するサービスのことをいいます。
民間の企業が行っているもの(司法書士、行政書士、労働組合がバックにいる場合もあります)や、弁護士が行っているものもあります。
労働者には、退職の自由があり、無期労働契約(いわゆる「正社員」)の場合、労働者から使用者に対して退職の意思表示を行った場合、退職の申入れの日から2週間が経過すると労働契約は終了することになります(民法627条1項)。
そのため、本来であれば、労働者としては使用者に対して退職の意思表示を行えば足りるため、法的なハードルは低いはずです。しかし、なかなか辞めると言い出せない心理的なハードルが高い(あるいは退職をさせないような様々な圧力がある)等から、事実上辞められず、「どうにかして辞めたい」という労働者のニーズがあり、退職代行サービスが成り立っているものと思われます。
2 退職代行に関する法的整理
労働者本人の退職等に関する意思表示を代わりに行うという場合、法的な構成としては「代理」と「使者」の2つの構成が考えられます。
もっとも、民間の企業が退職代行を行うような場合は、本人を「代理」して(代理人として)交渉をすることはできません。これは、いわゆる非弁行為といい、弁護士法72条に違反することになるためです。
そのため、「代理」と構成することはできず、適法に行うためには「使者」として行っているといえる必要があります。「使者」とは、あくまで意思表示を決定するのは本人で、それを伝達するだけの者をいいます。
退職代行業者もHP等でこの点は意識しており、退職代行業者は本人の退職の意思表示を使用者に伝達するだけで、交渉はできない旨を記載しているものも多いです。
たまに、成人していても、親から退職の意思表示が会社にあることがありますが、あれも同様に「使者」として行っているものと整理されます。
なお、弁護士や労働組合として交渉に当たる場合には、交渉権限があり、上記議論は関係ありません。
実務上、退職時の交渉事項として、よくあるものとしては、有給休暇の取得・買取の要求、残業代請求、パワハラ等を理由とした損害賠償請求があります。
「使者」として行う場合は請求自体はできますが、使用者がこれを拒否した場合に、それ以上の交渉はできないということになります。
3 実際の対応方法
(1)退職代行に関する基本スタンス
正直なところ、辞める意思が固まっている労働者を引き留めても良いことはありません。弊所でも相当数のご相談がありますが、退職代行業者を使って退職の意思表示をして来た後に、翻意し一生懸命働いているという事案はないと思います。基本スタンスとしては、退職を認める方向で調整をせざるを得ないかと思います。
(2)本人の意思の確認
退職代行サービスを利用し、会社に退職の意思表示があった際に、まず考えなければいけないことは、本当に本人からの意思表示なのかという点です。実務上は、ほとんど問題となることはないように思いますが、第三者がなりすましている可能性もあるため、確認を取ることが必要となります。
民間の企業が退職代行を行う場合で、書面の中に本人との直接のやりとりを禁止する文言が入っていたとしても、法的拘束力があるわけではありませんので、直接本人に確認をするという方法も考えられます。
もっとも、退職代行業者も会社と本人とが直接やりとりをすることになるのであれば、退職代行サービスの意味が何もありませんので、本人に対して会社から連絡が来ても出ないように伝えているものと思われます。直接本人に連絡をしても繋がらないことが多いです。
そのため、会社としてもスムーズに退職手続きを進めるために、あえて退職代行業者を介して、話をした方が良い場合もあります。退職代行業者を通じて、業務の引継ぎに関する事項や、会社からの貸与物の返還、私物の取り扱い等の調整を行うということもあります。
また、退職代行業者を通じて、本人の署名捺印のある退職届の提出や退職合意書の取り交わしをすれば退職について問題となることは少ないかと思います。
(3)交渉となり得るような事項についてどこまで何をするか
有給休暇の取得・買取、残業代請求等が一緒に付されている場合があります。
まず、有給休暇についてですが、本人から申請があれば基本的には取得させなければいけないものですので、取得させるべきかと思います。そのため、有給休暇の消化後の日程で退職日を調整することになるかと思います。
なお、取得日数に争いがある場合には、一部のみ取得を認める形で、使用者が把握している日数分を消化させて退職手続きを進めることになるかと思います。
残業代請求等についてはケースバイケースですが、争いがある場合には一切拒否する場合もあります。一方で、退職代行に付随して請求してくるケースでは、控えめな請求となっている場合もあり、紛争拡大のリスクを避けるために支払う場合もあります。
なお、グレーな退職代行業者もおり、交渉権限がないのに交渉を行おうとする場合は非弁行為であることを指摘し交渉を拒否する場合もあります。
※退職以外の部分で、多額の金銭的な要求がある場合には、弁護士や社会保険労務士等の専門家に相談された方がよろしいかとは思います。
4 さいごに
急に会社に出てこなくなり、退職代行サービスを使って第三者から退職を伝えることについて、常識のない行動だ、今後のこの従業員のためにも一言いってやりたいと、感情的になられる経営者や人事担当者の方もいらっしゃいます。それは一面ではその通りだと感じます。
一方で、退職代行サービス(3万~5万円前後)を利用される層は、若年層が多く、また退職をするという場面と考えると、安くはない金額であると思います。そういったお金を払ってでも辞めたいという状況になってしまったということも一つ考える必要があるのだと思います。
労働問題の本質はコミュニケーションの欠如の問題にあると思います。退職代行サービスの問題は、労働者が使用者とこれ以上のコミュニケーションを取ることを放棄した場面といえます。しかし、そうなるまでに使用者としても労働者とコミュニケーションを上手く取る方法はなかったのかについて、今後同様のケースが生じないように考える必要があるのだと思います。
<まとめ>
※労働問題にお困りの方がいらっしゃいましたら、瀬戸までメール(seto@kanou-law.com)でお問い合わせください。
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