見出し画像

お年玉窃盗事件


「お年玉~♬」

小学1年生の私は、ルンルンで財布を開けた




お金を貯めるのが好きな子供だった

特にお正月は、一気に財布が潤う。伯父さん叔母さん祖父祖母、果ては両親の職場関係者、とにかく大人に媚を売る。そして稼ぎまくった。

約2万円だった。特に欲しいものは無い。ただお金を眺めるのが好きだった。

ピンク色のお気に入りの財布。お金を入れるのが楽しくて仕方なかった


「……!?」


驚きすぎて声も出なかった


無い

私の2万円…

私のお正月ボーナス2万円…

なんで?


驚きが悲しみに変わる。現代風に言うなら、ぴえん。いや、ぴえん通り越してぱおんだ

驚きは悲しみとなり、そして怒りに変わる


ワタシノ… ニマンエン…


小学1年生というと、親に泣きつきそうなものだが、当時の私は冷静であった。子供でも、本気で怒っているときは冷静になるものだ。

そして、犯人の目星も付いていた


父だ  アイツしかいねえ


父は昔からギャンブル好きで、借金を重ねていた。共働きの母に金をせびる様子は、日常茶飯事だった。祖父母や他の親戚にも借りていた。ハッキリ言うと、金に関してはクズ太郎だ。実の子供の財布から金を抜く姿も、悲しいことに想像できる。

とはいえ、念のため他の家族にも事情聴取を行っておくことにした


まず母だ

台所に立つ母に事情を話すと「お母さんは知らないなあ。ちゃんと探したの?」と証言。あまり問い詰めると、夕飯を食べさせてもらえない可能性があるので、私はすんなり引いた。

兄(高校生)、姉(中学生)に対しては絶対的な信頼を置いていた。本気で疑って、兄妹の絆に亀裂を生むわけにはいかない。二人にはそれとなく聞いてみた。二人ともNO。


やっぱり アイツしかいねえ 帰ってきたら問い詰める

心に固く誓った


父は仕事後にパチンコに行くことが多く、帰宅時間が遅い

眠い目を擦りながら待っていた


22時頃、やっと帰ってきた

私はすぐさま父に駆け寄り「私のお年玉!取ったでしょ!!」と問い詰めた

「取ってないよ」と言う父からは、パチンコ店独特の臭いがした。嘘がバレバレなので、私は諦めず問い詰め続けた


「明日、返すから」 5分ほど問い詰めて、父はそう言い捨てた



せめて謝れよ


今の私なら、強烈なビンタの一つでもお見舞いするところだが、当時の私にはそんなこと出来ない

涙と鼻水を垂れ流しながら、父をただただ責めた





あれから17年経った今も、2万円は返ってきていない


だが、父には感謝している。お金に関してはクズ太郎だったが、暴力は振るわなかったし、彼なりに子供のことを大切にしていた。父は走るのも趣味で、地元の駅伝大会のメダルや賞状が、実家に沢山ある。父が走る姿が、私は好きだ。体型もずっとスリムなままで、太った姿を見たことがない。かっこいい父だと思っている

給料のほとんどをギャンブルに溶かしていたが、子供3人を育てるための、最低限のお金は出していた。多額の借金も、そろそろ完済するそうだ。父曰く「子供に自分の借金を背負わせたくない」らしい。彼なりの、子供への愛情なのだと思う。こう考えると、私が責め立てた2万円など、ちっぽけだ



全てのことを踏まえ、水に流さず、やっぱり2万円、返してほしい













この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?