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生活都市・世田谷ではじまる、ビジネスのあたらしい育て方――「ネイバースクールSETAGAYA」開校します!

緑が豊かで、暮らしやすい。そんなイメージが強い世田谷で、起業家・経営者のチャレンジを応援するプログラム「ネイバースクールSETAGAYA」がこの夏スタートします。

アイデアの発端になった、補助金事業「SETA COLOR」(2021〜)の振り返りから、なぜ世田谷でビジネススクール? どんなことをするの? といった開校の背景など、「ネイバースクールSETAGAYA」のディレクター陣と世田谷区のメンバーがディスカッション。事務局より、座談会の様子をお届けします🕊

きっかけは、想像以上の「連帯」の価値への気づき

千田 弘和(以下、千田):
補助金事業「SETA COLOR」、無事2021年度を終えましたね。みなさんお疲れさまでした!
2022年度版も今まさに進行中ですが、初めての1年間を経て、最初のイメージと今の感想など、どうでしょう?

中西 成之さん(以下、中西さん):
事業者さんの採択において意識していたのは、「なぜこの事業者を支援するのか?」と聞かれたときに、きちんと理由を言えるようにするということ。30事業者すべての方に対して明確な採択理由があったので、採択期間中「この人が新しい道を切り開いてくれるだろう」「このチャレンジが、区内の別の事業者にもインパクトを与えるだろう」という期待や応援の気持ちをもちながらプロジェクトに向かえました。
そして今振り返ると、実際にどの事業者さんもそれぞれ新しい展開に進んでいて、次年度以降のロールモデルにもなり得ていると思うし、期待通りだったという手応えがあります。

中西 成之さん|世田谷区経済産業部商業課 課長。世田谷歴21年。

宮城 正裕さん(以下、宮城さん):
当初は、専門家の“伴走”といっても、一般的なハンズオン支援同様に“アドバイス”するような感じになるのかな……なんて思っていたのですが、大きな間違いでした。

実際に取り組むなかで思ったのは、「人との出会いで事業はつくられている」ということです。専門家との出会いはもちろん、事業者同士の横のつながりの価値を感じました。

30事業者と専門家の全体で集まる機会は2回程度でしたが、Slackで個別に「あの事業者さんとつないでほしい」「こういう人を探している」といった連絡をいただいたり、事業者さん同士で飲みに行って事業の連携のアイデアを話していたというエピソードも耳にしました。

職場の同僚とも違う、物理的な距離の近さや小規模事業者という共通項があるからこその連帯ってある気がするんです。加えて、世田谷には生活に対してアプローチする産業が多いから、業界や職種が違っても、地元の事業者同士近しい目標に向かっていたり共感できることが多かったりして、そうした面も連帯のしやすさや盛り上がりにつながったのかもしれません。

宮城 正裕さん|世田谷区経済産業部商業課。世田谷歴11年。

「事業成長に不可欠な知識」をまちで学べるように

中西さん:
今回「スクール型のプロジェクトをやろう」と言い出した理由のひとつには、この横のつながりを後押ししたいという気持ちがありました。学校って、同窓生同士一緒に何かやろう! と勢いがついたり、卒業してしばらくしてからも何かの拍子でつながりが生まれたりする縁があるじゃないですか。そういうものが世田谷でも生まれるといいなと思ったんです。

千田:
そうですね。それに加えて、昨年度の事業者さんとの活動を経て思ったのが、ある程度共通する「事業に必要な知識」があるということ。基本としてこういうことみんな学べたらいいのに」みたいなことがあって。
例えば「会社をつくるためには何が必要か?」といった事業立ち上げにおける課題解決や、SNSやデジタルマーケティングの基本など、多くの方が近しい悩みを抱えていたんですね。そこで、「基本的に学んでおいたほうがいいこと」を、事業者のフェーズごとに一緒に学べる場をつくるといいのでは? という話になりました。

高橋 秀紀(以下、高橋):
事業者さんとの伴走では、BS/PL(貸借対照表、損益計算書)の作り方や読み方を教える場面もありました。一対一のメリットもありますが、ベーシックな情報は必要な人が集まってみんなで学び、一対一ではたとえば「ずっと温めてきたアイデアを実践する」「事業の仕組みを変える」といった場にすると、より事業を前進させられる気がします。

高橋 秀紀|Mindful Partners株式会社 Stage Upコンサルタント
中小企業の経営改革・再建、事業承継コンサルティングなど多面的に中小企業の経営に関わる。

世田谷でビジネスする魅力って?

――ではネイバースクールに参加する事業者さんは、どんな人をイメージしていますか?

宮城さん:
本音をいうと、業種や業態などどんな事業者さんでも構わないと思っています。ただ、世田谷に何らか想いがあって事業をはじめているということが大事かなと。個人的には、その想いのフックはどこにあるのかということに興味があります。それを知って今後に生かしていきたいんです。

中西さん:
「生活密着型産業」がまちにあることが、世田谷の生活都市としての魅力を高めていると思っています。ようは小規模な飲食店や小売店などですね。

世田谷とひとくちに言っても、世田谷線の走る世田谷エリア、最近開発が盛んな代沢エリア、奥沢〜用賀の玉川エリア、成城や船橋を含む砧エリア、八幡山など北側の烏山エリア……こんなに個性ある地域があります。
店の入れ替わりは様々あると思いますが、個人経営の事業がチェーン店に置き換わってエリアごとの個性が均一化されてしまっては先詰まるでしょう。だから、そこに新しい価値をもつ事業者が入り、化学反応を起こし、次のステップに地域みんなで変わっていく――なんてイメージを議論したりしています。

世田谷で生まれ育った人がそのままこの土地で起業して、仕事しながら暮らしていく……みたいなスタイルが広がっていくと嬉しいですね。それで国際競争に勝てるのか!? みたいな話は、いったん置いておいて(笑)。

千田:
ユニコーン企業を目指すのではなくですね(笑)。でもそれなんか分かる気がします。三茶WORKは事業開始から半年経たずにコロナ禍になったんですが、世の中にテレワークの潮流もできて職住近接の価値が認知され、生活都市のアイデンティティをもつ世田谷に、働く場所としての価値が現れた感覚がありました。

世間で「働き方」が変わり、「世田谷で働く」という選択肢が「世田谷で事業をする」という規模まで広がるイメージをもったときに、「世田谷区から創業するってなんか面白そう」と思ったんですよね。世田谷でインキュベーションをやりたいという気持ちにはそんな背景もあります。

千田 弘和|三茶ワークカンパニー株式会社 共同代表
複数企業を創業、自身の経験をもとにエンジェル投資にも従事。「楽しいを仕事にする」を理念に、ご縁ある方々と様々なプロジェクトを実践する。

世田谷で描くみらいの経済

千田:
世田谷区の経済産業部の大きな命題は、区内の事業者が増えるとか法人からの税収どうこうではなく、基本的には世田谷区民の生活の質が向上するとか、そのための経済をよくするということなんでしょうか?

中西:
この春作った新しい条例「世田谷区地域経済の持続可能な発展条例」の最終的なねらいは、完全にそうですね。産業なり経済なり、区民の生活をどう支えていくかにフォーカスしています。

(1)区民生活を支える多様な地域産業の持続性の確保に向けた基盤強化を図ること。
(2)誰もが自己の個性及び能力を発揮することができる働きやすい環境を整備し、起業の促進及び多様な働き方の実現を図ること。
(3)地域及び社会の課題の解決に向けてソーシャルビジネス(地域及び社会が抱える課題の解決及び収益の確保の両立を目指して取り組む事業をいう。以下同じ。)の推進を図ること。
(4)地域経済の持続可能性を考慮した事業活動及びエシカル消費(人、社会及び環境に配慮した消費行動をいう。以下同じ。)の推進を図ること。

「世田谷区地域経済の持続可能な発展条例」第3条(基本的方針)より

千田:
単なる企業誘致はしない、と。

中西:
「持続可能な地域経済の発展条例」という名称にしているとおり、産業振興は柱のうちの一つであって、地域の課題を解決するという話も柱に入っています。産業が単に富を生み出すというだけではなく、「地域・社会をつくっていく」「地域社会の一員として地域の課題はみんなで解決しよう」といったまちづくり的な視点も含むのです。

これらを意識して「産業政策・経済政策」に取り組むのが経済産業部のミッションなんですよ。

――ネイバースクールの開校や参加者さんの活躍自体が、世田谷のまちを魅力的にすると言えそうですね

宮城:
区と三茶WORKとコラボレーションできたのがとても貴重だと感じています。ネイバースクールの企画や運営は三茶WORKが担当し、参加者の相談窓口や修了生への補助金(条件あり)を区が担当するという今回の座組みは、民間と行政のそれぞれカバーできない領域をお互い交差しながら支援していけるので。

中西:
スクールの参加によって、普段なら交差しないような新しい人との出会いがあるでしょうし、文字通り世界が広がると思うんです。地域で活動することで人脈も広がったり、ご自身の挑戦が前進する。そんな期待を参加者にはしてほしいし、そうした活動が世田谷に増えると思うと私自身楽しみで、応援したくなります。

吉田亮介:
その「応援」って、実は大事なことだと思います。

ベンチャーキャピタル(VC)から投資を受けると、企業側は否応無しに上場を目指すことになるし、VC側も投資先が上場しないと回収できないのが今の現状ですよね。基本的に一つの道しかないわけです。
でも、例えば地域の中で「将来の規模を見据えて投資する」ではなく「応援したい」という気持ちベースの株主がいたら、上場だけを目指さなくてもいい新しい仕組みの地域経済ができるんじゃないかと。

吉田 亮介|三茶ワークカンパニー株式会社 共同代表
不動産企画会社、経営コンサル会社等を経て現職。“WORK”を軸にした事業づくりを行う。

千田:
応援してくれる人が手に届く距離にいることの良さってありますよね。それとまた違う視点で最近思うのは、「世田谷区もチャレンジャーである」ということです。世田谷区って、人口と世帯数が23区最大のわりに、「産業」という側面では未開拓な点がある。

区内で活動している事業者も世田谷区自体も“チャレンジャー同士”なので、「肩組んで一緒につくっていく」というのはすごくわくわくする。世田谷区は、「我々もチャレンジャーですオーラ」を出していくと結構おもしろいんじゃないですか(笑)? 「失敗してもいい」という挑戦のベースの姿勢を、事業者にも役所内部にも発信するメッセージになる。

つまり何が言いたいかというと、このネイバースクール事業自体、世田谷区の挑戦ですよね。この夏から参加する事業者のみなさん、僕らもチャレンジャーなんです。一緒に頑張っていきましょう!


構成・文=原口さとみ(SETA COLOR運営事務局)


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