見出し画像

ショート ショートショート 0003

_TSUMAYOJI

 かちゃり。

 玄関の鍵を内側から閉める。

 不用心はいけない。

 結婚三年目の男。一人で留守番だ。

 今日は、昼ごはんを自分で作ってみた。料理は得意ではないけれど、妻が不在のときなどたまに作ることはある。

 野菜炒めに、たまごスープ。デザートの林檎まで。

 テーブルに着いて好きな音楽を聴きがら、料理を口に運ぶ。

 壁の時計を見やると、二時半だった。

「ごちそうさまでした」ひとりごちる。

 立ち上がり、キッチンの戸棚へ。たしかこの辺に。爪楊枝の小瓶を探す。

「あった」

 瓶を掴み逆さにし、チャチャチャのチャ、と小刻みに振る。

 一本の爪楊枝が頭をのぞかせる。

 つまんで抜く。

 おや。

 爪楊枝の先端のあたりに細かい字でなにか書いてある。

 小さくて読みにくい。米粒に描かれた絵を見るかのようだ。

 待ち人来たる

 男は、その意味することを、しばし考えてみる。

 不思議なことがあるものだ。

 音楽は小休止。

 そのとき、インターホンのベルが鳴り響いた。

 モニターを覗くと、そこには知った顔。

「おかえり」と、男。

「ごめん、開けてくれる。鍵持ってないの」

 かちゃり。

「不用心はいけないよ」

「ごめん。もうすこし早く帰るつもりだったのに。待った?」

「あ、そういうことなんだ」

「なにが?」

 妻、用事からもどる。


2018年12月16日 セサミスペース M(Twitter


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?