街角女子図鑑#3 一人時間を楽しむ彼女
とある映画館でのこと。ガヤガヤと騒がしい入口付近で一際輝いている女性がいた。
長身にキリリとした顔立ちにショートヘアが爽やかで、コートや服装選びのセンスが彼女の魅力を引き立てていた。
一方、傍らのカップルや女性の2人連れたちは時代遅れのダウンコートやヨレヨレのトレンチコートといった、どう見てもオシャレとは言い難い様子なのだ。
どうして、こんな差があるのか考えてみた。
例の彼女は、自分の魅力も欠点もすべて受け入れ、潔くそれを晒しても問題ないよう慎重に服装を選んでいる。
髪型も彼女の小さな顔によく合うナチュラルなショートヘアだ。毛先が少しはねているようなセットも好感が持てる。
カップルに注目すると、女性は歳には不釣り合いのニットワンピースで寒々しく足を見せつけ、折れそうなヒールを履いているのを必至に恋人が倒れないよう腕を組んで支えている。
恋人は恋人で家着にそのままジーンズを合わせて、おじさんが着るみたいなシルエットの少しダボダボした微妙な丈のジーンズに古ぼけたパーカーを着て、一等地を闊歩している。
何ともTPOをわきまえているとは言い難いカップルだ。
そして、その横の女性の2人連れたちはノロノロと歩いては周囲の迷惑も考えず入口付近を陣取り、惜しげも無くだらしない服装を一張羅のような顔をしてすましてる。
ヨレヨレのトレンチコートにチュールスカートを合わせて、40代のおばさんみたいに髪を束ねて安物のショルダーバッグを下げている。
隣の彼女はやけにオーバーサイズのショート丈のダウンジャケットを下半身を隠すようなロングスカートを合わせていて、どうにも歩きにくそうだった。
そう、素敵な彼女とそれ以外の人の違いとは、他人が横にいるのをいい事に手抜きの限りを尽くしていることなのだ。
「この人なら、こんなもんでいいだろう」と心を許しているのかもしれないが、その気の緩みが服装や全体の雰囲気を台無しにしている。
仮にも、ここは東京の一等地にある映画館なのだから、それに見合う格好を選んだ彼女は断然優雅で美しいのだ。
その場に応じた装いが出来てこそ、素敵な大人の女性なのだと、この日、映画館で観た彼女から教わったような気がした。
もともとの雰囲気も自分自身への理解があるからこそ、服装選びに活きてくる要素なのだろう。
私には真似できるような出で立ちでは無いものの、彼女のように自分に似合うものを丁寧に選んで、素敵に着こなしたいと心の底から思ったのであった。
穂波せら(Serra Honami) 画家・俳優・映画コンシェルジュ・ライター。 自由と猫を愛するスナフキン似の人。座右の銘は「押してダメなら引いてみよ」