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少しの想像力があれば

88歳の母が時折、愚痴を言う。
その話はとても同情する、またその話、何度も聞いたわとは言えない。

父の介護は35年に及んだ。
姑も同居していたので、すべてに於いて遠慮しながら生活してきた。
父の妹弟の目もある。
このような環境ということを頭に置いておいて読んで欲しい。

母の学校の同級生は連れ立って旅行をする。
「A子ちゃんも一緒にどう?」
母は、行きたくても行かれない。
誘ってくれるのは構わない、そこまではいい。
旅先から母へ電話をかけてきて、
「今、綺麗な景色見てるのよ、A子ちゃんも来れば良かったのに」
そんなことを話すのだ。
母は適当に受け答えするが、心の中では虚しさと悔しさが募り、
自分が情けないやら何やらで溢れかえる。

この時の事を母は88歳になった今でも思い出したように話す。
子どもの手が離れて時間がつくれそうな頃に父は重度障害者になった。
それは運命のようなものだからどうすることもできないが、
旅先から楽しそうに電話をかけてこなくてもいいのに、
母は本音ではそう思っている。
私には友達だから話しやすいんでしょと言うけれど
それが強がりで言っているのはわかる。
心に刻まれた傷は生涯消えない。

旅先から電話をかけてきた友達に悪気はないが想像力は欠けている。
なぜA子ちゃんが一緒に行かれないのか、
その理由を考えれば旅先からわざわざ電話をかける行為には及ばないだろう。嫌がらせなら別だけれど。

想像力を少し働かせることで人を傷つけないことができる。
自分が愉しい時間を過ごしているその同時間に
辛い時間を過ごしている人もいることを忘れたくはない。



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