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SFラブストーリー【海色の未来】1章(後編)−1

過去にある
わたしの未来がはじまる──

穏やかに癒されるSFラブストーリー




☆テキストは動画シナリオの書き起こしです。

動画を再生しながら、ぜひBGMつきでお楽しみください♪

(Youtubeの方が内容先行しておりますので、お時間の許される方は、再生を続けてnote数話分を先読みすることもできます。)

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思えば中学生の頃から、曲を作り、歌っていた。

だけど誰かに聞いてもらうこともなく、書きためた曲をひとり部屋で歌うくらいがせいぜいだった。

歌は趣味でいい……高校生になってもそう思っていたわたしは、

音楽とまったく関係のない道に進むことにした。

それが大学に入った、ほんの数日後……

すり鉢状の講義室でたくさんの学生と一緒に授業を受けている自分に、
耐えられないほどの違和感を持った。



──わたし、このまま大学にいたらダメだ……。


ふいに自分が本当にやりたかったのは音楽だったんだと、気づいてしまったのだ。

悩んだけれど、思い切って学校をやめたいとお母さんに電話をした。


『考えが甘すぎる』

『今さらなにを言ってるの』


予想どおりの言葉で責められた。

でも、気持ちは少しもゆらがない。


──やっぱり音楽をやりたい……。


ほどなくして大学をやめたわたしは、都内の音楽スクールに通いはじめた。

お母さんに愛想をつかされ仕送りもなくなり、バイトをしながらのスクール通い。

過労で入院したこともあったけれど、そんなことは平気だった。

その頃のわたしは、本気でやれば音楽で生きていけるとまっすぐに信じていた。

だけどスクールの仲間たちの進路がわかれはじめると、楽しかったはずの音楽がわたしを苦しめるようになる。


突然スクールをやめて会社員になった、歌がいちばんうまかった先輩。

あっという間にスカウトされてデビューした、音程がいつもフラットにぶれる癖のある後輩。

それから……何回チャレンジしても、校内オーディションですら評価されないわたし。


──いったい、なにがよくて、なにが悪いんだろう。

なにが受け入れられて、なにが受け入れられないんだろう……。


やるせない現実を突きつけられ、心が波打つ日々を何年も過ごした。


そして、ようやくわかった。


──もう、あきらめろってことなんだ。


それからは、なぜか歌おうとするときだけ、声が出ないようになってしまった。

まるで、あきらめる理由を与えてくれたみたいに──。


はじめは驚き、戸惑ったけれど、別に歌えなくてもいいと開きなおってしまえば問題はなにひとつない。

わたしが歌わなくなっても、世の中は変わらない。


空は高く、雨も降るし、風も吹く。

あたり前の毎日が、あたり前に続く。

そんな日々を、いつの間にか淡々と受け入れている。


──これでいいんだよね。

新しい生活をはじめよう。音楽のことなんか、ぜんぶ忘れて……。


わたしは目を閉じ、しばらくのあいだ外から聞こえてくる雑多な生活の音に耳をかたむけていた。



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数日後──

明け方に二度寝をし、うっかりそのまま眠りこんでしまった。


──やたら明るい……。何時なんだろう……?


ぼんやり部屋の壁時計に目をやると、お昼をとっくに過ぎていた。


──ずっと寝てたってこと? ウソでしょ?


ひょっとして時計が壊れてるんじゃないかとうたぐってしまう。

だけど、もちろんそんなはずもなく……。


──なんでそんなに寝られるかな。信じらんない。


──自堕落。これこそ自堕落だ……。


引越しをしてからこの数日、どこも行かずに引きこもっていた。


その結果、好きに寝て好きに起きる生活が、身体にすっかり染みついてしまっている。


バイトとレッスンに明け暮れていた頃は、そんな生活がどれほど幸せかと思っていた。


だけど、実際にそうなってみると幸せな気持ちでいられたのはほんの短い間だけ。

あとはもう、動くのも嫌になるようなダルさだけしか感じない。


──今日はなにしよう……。


しんとした部屋でひとり天井を見あげる。


アパートの両隣は空室で、下の住人はほとんど部屋にいないらしく、毎日気が遠くなるくらい静かだ。

その静けさの中で、ぐーっとお腹がむなしくも盛大な音を立てる。


──うあー……なんか買ってこないと……。


ここ数日で、非常食にと買い置きしていたカップ麺もレトルトカレーも、ぜんぶ底をついている。

食べものは食べるとなくなるという現実。

なにも食べなければお腹がすくという現実。

今までは意識もしていなかった、そんな避けようのないあれこれ。


──このままじゃ、ダメだよね……。


勢いをつけて、えいっと身体を起こした。


──貯金だって、そんなにないんだし……。そろそろ仕事、見つけなきゃ。


遅まきながら、先のばしにしていたバイト探しをはじめる決意をする。


──よし、新生活のスタートだ……!


わたしは立ちあがり、思い切り大きく伸びをした。



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【海色の未来】マガジンもございます。目次代わりにお使いいただけますと幸いです。


あらすじのわかる予告編はこちら
https://note.com/seraho/n/n0a0d07c52bf0


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