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意外と知らない卵子の話 セミナーレポート【前編】

こんにちは。セプテーニグループnote編集部の宮崎です。

セプテーニグループでは、サステナビリティ活動の重点テーマのひとつに「ダイバーシティ&インクルージョン」を掲げ、さまざまな取り組みを行っています。

先日、その取り組みの一環で、「意外と知らない卵子の話」セミナーをオンライン配信にて開催しました。登壇いただいたのはフリーアナウンサーの宇賀なつみさんと不妊治療専門クリニック「はなおかIVFクリニック品川」の花岡正智院長。あまり知られていない女性の医学的機能について詳しく説明いただいた後、グループ内から募った質問にも丁寧に回答いただきました。

今回は、そのセミナーの一部を書き起こし形式でお届けします。ぜひご覧ください!

花岡 正智先生:
東邦大学医学部卒業、医学博士、産婦人科専門医、臨床遺伝専門医、周産期専門医。三井記念病院、国立成育医療センター等を経て、2006年はなおかレディースクリニック、2014年はなおかIVFクリニック品川を開院。災害や離島の医療支援にも積極的に携わる

宇賀 なつみさん:
立教大学卒業後、アナウンサーとしてテレビ朝日入社。「報道ステーション」、「グッド!モーニング」、「羽鳥慎一モーニングショー」等を担当した後、2019年に独立。報道からバラエティまで、幅広く活躍する。現在はテレビ朝日「池上彰のニュースそうだったのか!!」や、関西テレビ・フジテレビ「土曜はナニする!?」に出演中。


なぜ「卵子」について知る必要があるのか?

宇賀さん:
本日は意外と知らない卵子の話について一緒に勉強していけたらと思います。

さて、本日セミナーをお聞きのみなさんの中で、ご自身の卵子にしっかり向き合ったことのある方はどれくらいいますか?私自身、体調に多少不調があっても若いからとあまり気にしていなかった、友人には相談しにくいといった悩みがありました。

今日は花岡先生に、このような悩みや疑問についてお話をお伺いしていきたいと思います。先生、よろしくお願いいたします。

花岡先生:
不妊治療クリニック「はなおかIVFクリニック品川」院長の花岡正智です。よろしくお願いします。

普段あまり見る機会のない、顕微授精を行う顕微鏡なども紹介いただきました。

宇賀さん:
それでは最初の質問です。花岡先生はなぜ「卵子」についての啓発活動をしているのですか?

花岡先生:
卵子が私たちと一緒に年をとる、ということをみなさんに知っていただき、若いうちから知識をつけて、将来のご自身のために早くから取り組んでいただきたいからです。

不妊治療の経験のあるご夫婦は、おそらくみなさんの予想よりも多くて、28%くらいいるんじゃないかと言われてるんです。そして体外受精で出生したお子さんの割合は16人に1人くらいと言われています。

宇賀さん:
思っていたよりも多いですね。

花岡先生:
小学校のクラスに1~2人いる計算です。日本では、クラスの中に体外受精で生まれたお子さんがいるのが普通という状況になってきているんですね。

ちなみに日本は世界で一番体外受精を行っている国です。1位の日本が年間45万件、2位のアメリカが28万件という数字です。

宇賀さん:
これは純粋な件数ですよね?日本とアメリカでは人口が大きく違いますが、割合で考えるとどのようになるんでしょうか?

花岡先生:
割合で比べると、日本はアメリカの5~6倍と言われています。すごく多いんです。なんのためにこれだけの件数が行われているか。不妊治療を行う年齢が関係していると考えられます。

花岡先生:
不妊治療をされる方の平均年齢は、アメリカ34歳、日本は40歳。この数字が強く影響しているんです。年齢が高くなると成功率が限定されるので、何回も体外受精を行わなければいけないという現状をよく示している数字だと思います。

宇賀さん:
では続いて、卵子の量についてもう少し詳しく教えてください。

花岡先生:
卵子は、みなさんがお母さんのお腹の中にいるときに500万個くらいあったと言われています。ここが最大値です。

宇賀さん:
胎児のときが一番多いんですか?

花岡先生:
そうです。女性の卵子は、胎児の時に数が出揃っていて、生まれたあとは減っていくだけなんです。新しい卵子が出てくることはないとされています。ちょっと寂しいと感じるかもしれませんが、例えば脳の中枢神経の細胞や心筋の細胞は新しく作られないタイプの細胞なんです。そういうグループの細胞の一つだと考えてもらえれば良いかと思います。

花岡先生:
こちらは先程説明したことを具体的に数字で表した図です。お腹の中にいる赤ちゃんの時に500万個くらいあった卵子は、生まれた頃には100万くらいに、生理が開始する頃には10万くらいになると言われています。時間とともにどんどん減っていくんですね。

宇賀さん:
こうして見ると、どんどん減っていくのがわかりますね・・

花岡先生:
ちなみにこのたくさんの卵子の中で、受精するチャンスのある卵子は400個くらいと言われています。10代後半になって卵子を排卵するようになって、閉経が近くなって排卵しなくなるまでの年数 ✕ 月1回の排卵、つまり年12回を計算すると400回くらいになるんです。すごく低い確率なんです。このセミナーを聞いているみなさんは、こういう少ないチャンスの中から生まれてここにいる。そう思うと、こうしてお話をできること自体がすごく素晴らしいことだと思います。

次はいますごく注目されているAMHについて。AMHは、卵子の数を表してくれる採血データなんです。採血すると、同じ年齢の方に比べて卵子が多いのか少ないのか、年齢相当なのかがわかります。

花岡先生:
このグラフはAMHについて表したものです。年齢とともに卵子の数が減ってくること、そして個人差が大きいことも示しています。

卵子の若さと出産率

宇賀さん:
では次の質問です。卵子の妊娠能力は、妊娠や不妊にどのくらい影響するのでしょうか?

花岡先生:
卵子の妊娠能力のみならず、卵子の若さがすごく影響します。卵子は新しく生産されないので、私たちと一緒に時を刻んでいくし、私たちと一緒に年をとっていくものなので、これに伴って、出産率は低下していくんですね。

花岡先生:
そのことをよく表しているグラフがこちらです。上のブルーの線が提供卵子による体外受精での出産率です。提供される卵子なので若い方の卵子なんです。ピンクの線は自己卵子、自分の卵子の場合の出産率。こちらは年齢とともに出産率が下がっていくのがわかります。一方提供卵子、若い卵子の場合は、年齢が進んでもあまり出産率が落ちないんです。卵子が年齢にすごく影響を受けているのが如実にわかるグラフです。

次の表を見てみましょう。

花岡先生:
こちらは、出産に至るまでにどれくらいの卵子が必要なのかを表した表です。年齢が進むと出産率が落ちるので、たくさんの卵子が必要になるということを示しています。

年齢と妊娠の関係

宇賀さん:
では続いて。年齢による妊娠能力の低下には、個人差があるのでしょうか?

花岡先生:
個人差はけっこうあります。同じ年齢でも見た目の若さが人によって異なるように、妊娠能力についても個人差があります。大きな要因は、体質的なことや遺伝的なことです。でもそれだけでなく、生活習慣によることも要因だと言われています。それから過去の妊娠歴も関係しますね。過去妊娠したことがある人は、そうでは無い方に比べて有利です。いずれにしても年齢が強く関係することは間違いありません。

宇賀さん:
では続いて、私たちが自分の妊娠能力について知る方法はありますか?

花岡先生:
さきほどご紹介したAMHの表を再度みてみましょう。

花岡先生:
卵子の量自体はおおよそ見当をつけることはできるんです。年齢に比べて卵子が多めなのか少なめなのかは血液検査でわかります。ご自身のことを知るひとつの検査として受け止めていただいて、5,000円から1万円くらいの金額でクリニックで受けられますので一度受けていただいても良いと思います。知ることはとても大切なことだと思いますので。

ただ卵子の量を知ることと、妊娠できる力そのものを知ることは少し違いますので注意が必要です。いま妊娠できる力そのものを測る検査は無いと言われています。

不妊治療について

宇賀さん:
続いて不妊治療について教えてください。不妊治療ってどれくらいの費用や期間がかかるんでしょうか?

花岡先生:
不妊治療にはタイミング法、人工授精、体外受精の3つのステップがあります。ここでは体外受精について説明します。

※必要書類や費用はクリニックや内容によって異なります

花岡先生:
まずは治療に入る前に、これだけの検査や同意書が必要になります。料金の目安は40万円から90万円くらいです。

※費用はクリニックや内容によって異なります

花岡先生:
やり方と採取する卵子の個数によってこれだけの幅が出てきます。具体的な流れも大切なので説明しますね。まずは生理中に来院いただき、超音波検査と採血をして、この周期に採卵を行っていいかを決めます。その後3回から5回くらい、卵がちゃんと育っているか、熟しているかの確認のために来院いただきます。注射の量もその時々の状況にあわせて打つなど、確認しながら前に進んでいきます。

※クリニックによって内容が異なる場合があります

花岡先生:
そして切り替えという操作が必要になります。育ったと思った卵が未熟卵だったということもあるんです。なので外から人為的に未熟卵を成熟卵に切り替える操作が必要になります。だいたい36時間くらい必要だと言われています。その後手術で卵子を迎えに行きます。ここまでが一つのプロセスです。

※クリニックによって内容が異なる場合があります

不妊治療クリニックの選び方

宇賀さん:
では続いての質問です。不妊治療の際、クリニックをどのように選択すべきですか?

花岡先生:
実際にどこに通うかはとても大事です。自由診療なので、クリニックそれぞれでやり方が違います。たとえば排卵誘発の方法にもいろいろあって、体に優しく刺激して少ない卵子を取る方法もありますし、出来る限り刺激してたくさんの卵子を取り、チャンスを増やす方法もあります。私たちのクリニックではたくさん取る方法を採用しています。

自由診療は、その人にあった治療法を選択できるという点ではすごく良いことだと思います。みなさまのスタイルにあわせて治療に取り組める先生が見つかるのが理想ですね。

宇賀さん:
では次にいきましょう。私たちが今日から始められることはありますか?

花岡先生:
年齢とともに卵子の量と妊娠能力は低下するということを知る、認識する。これが今日から始められることの第一です。ちょっとみなさんの想像とは違う内容かもしれませんね。いろいろな要因で、すごく影響を受ける方、ほとんど影響を受けないまま年を重ねる方もいますが、知ることは本当に大事です。知らないと自分の中で選択肢が出てこないんです。選択いただくために、決断いただくために、ちゃんと知ってほしいと考えます。

花岡先生:
具体的に知ってもらったら有用だと思うのは、先程ご紹介したAMH検査です。卵子の数が同じ年齢の方に比べて多めなのか少なめなのかは知っていても良いのではないかなと思います。私たちのような専門のクリニックにはAMH検査だけを希望する方もいらっしゃいます。自宅で検査できる簡易キットも出はじめています。定期的にご自身でAMHを測定する時代もやってくるかもしれませんね。

それからもう一点がクリニックに足を運んでほしい、ということです。不妊治療のクリニックって、一定期間お子さんができない不妊の方が行く所だと思う方がたくさんいるんですが、実はそうではないんです。クリニックとしては、お子さんを願うのであればいつでも来てほしいと思っています。思い立ったら吉日です。

卵子凍結について

宇賀さん:
まずは気軽に先生に相談してもいいかもしれませんね。それでは最後に、最近話題の卵子凍結について教えてください。

花岡先生:
卵子凍結のことを私たちは「卵子のタイムマシン」と呼びます。タイムマシンに乗って、私たちの望む未来に卵子を運ぶ、そんなコンセプトです。卵子凍結におけるタイムマシンの正体は、凍結して冬眠させておくことです。たとえば若いうちに卵子をとっておいて液体窒素を使って凍結する、ということです。

もともとは医学的卵子凍結が行われていました。卵巣の手術をしたり、抗がん剤を使ったりすると、卵巣の機能を著しく損なってしまうことがあるんです。そういうケースのためにあらかじめ卵子をとっておきましょうという方法でした。

現在は「選択肢」と呼べる状況になってきました。医療技術が進み、安全に凍結できるようになってきたからです。新しい時代の幕開けなのかなと考えたりします。

ただ、卵子凍結万々歳というわけではありません。将来の妊娠を約束するものではありませんし、思っていたより卵子の数が必要になることもあります。また順調に妊娠し、結局必要にならない可能性もあります。また忘れてはならないのが年齢です。卵を移植するときの年齢に応じて、妊娠中毒症や妊娠糖尿病などの妊娠時の合併症はどうしても増えます。このようなことも目を背けてはいけない事実です。まずは信頼できるクリニックの先生を見つけ、相談するのが一歩です。

ちなみに卵子凍結を受け付けているクリニックはたくさんありますが、そのクリニックでしか凍結した卵子を活用できない場合が多いです。卵子を凍結するだけではなく、将来精子と卵子を体外受精させて受精卵を作って移植することになるので、使うときのことも考えてお付き合いするクリニックを選ぶと良いと思います。

卵子凍結は、ご自身の状態を把握した上で慎重に判断してほしいと思います。ただ、現状を知るからこそ選択肢になるし判断もできるということには変わりはありませんので、知ることはとても重要だと考えます。

宇賀さん:
花岡先生、ありがとうございました!

後編(質疑応答)へ続く

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