神山まるごと高専(仮称)とセプテーニグループに共通するアントレプレナーシップの正体を探る<前編>
こんにちは。セプテーニグループnote編集部です。今回は、今期からグループの理念浸透プロジェクトの責任者をつとめる、セプテーニ・ホールディングス コーポレートデザイン室の加来さんからの寄稿記事をご紹介します。
今回の記事は前編となります。どうぞご覧ください!
コーポレートデザイン室の加来です。
セプテーニグループはミッションとして「ひとりひとりのアントレプレナーシップで世界を元気に」を掲げています。このミッションに基づき、より社会全体に価値を提供するための活動の一環として、企業版ふるさと納税を活用し、神山まるごと高専(仮称)*の開校を寄付で支援しています。
神山といえば国内における地方創生の成功事例の代名詞とも言えますが、我々がアントレプレナーシップの解釈として多用している「コントロール可能な資源を超えて機会を追求する」ことを実践している地域。そして「神山まるごと高専(仮称)」はこれからの新時代を担うアントレプレナーを輩出することを志す新しい学校。
ということで、寄付のほかに何か貢献できることがあるのではないかと思い、セプテーニグループとの重なりやコラボレーションの可能性を模索するべく関係メンバーとともに神山に赴き、現地を視察させていただきながら(一財)神山まるごと高専準備財団代表理事の大南 信也さま、神山にお住まいでB&B On y va(オニヴァ) & Experienceオーナーの齊藤 郁子さまにお話しをお伺いしてきました。
加来さん(写真左):
2006年セプテーニ新卒入社。ネット広告事業のクリエイティブ部門などを経験した後、新規事業コンテストを通じて2018年にグループ会社としてサインコサインを設立。「自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す」を信念に掲げ、覚悟の象徴となるネーミング、ステートメントやロゴデザイン、企業理念・個人理念などの共創事業を手掛ける。
セプテーニグループ全体のコーポレートブランディングを推進するコーポレートデザイン室、グループ新規事業創出を支援するセプテーニ・ベンチャーズ取締役も兼務。
大南さん(写真中央):
1953年徳島県神山町生まれ。米国スタンフォード大学院修了。帰郷後、仲間とともに「住民主導のまちづくり」を実践しながら、1996年頃より「国際芸術家村づくり」に着手。全国初となる住民主体の道路清掃活動「アドプト・プログラム」の実施(1998年~)や、「神山アーティスト・イン・レジデンス」(1999年~)などのアートプロジェクトを相次いで始動。2004年に「日本の田舎をステキに変える!」をミッションとするNPO法人グリーンバレー設立。理事長を務める。町営施設の指定管理事業や、町移住交流支援センターの受託運営、ITベンチャー企業のサテライトオフィス誘致など活動の幅を広げながら神山のまちづくりを進める。現在はグリーンバレー理事と神山まるごと高専設立準備財団代表理事を務める。
齊藤さん(写真右):
大阪府箕面市出身。外資IT企業勤務から、心機一転、徳島県神山町へ移住。築150年の元造り酒屋を改装し、フレンチビストロ “カフェ オニヴァ”を2013年12月にオープン。スタッフ一同で訪ねたオーガニックワイン生産者のワインを提供。年間160日のみ営業し、残りの200日は、森作りや耕作放棄地を開梱、里山暮らしの知恵や技術習得に力を入れている。コロナウイルス対策のため、一組限定の体験プログラムを提供する宿にビジネスへと転換。
枠と変化
加来)
まずは、大南さんが神山に学校をつくることになった経緯について教えてください。
大南さん)
僕は神山生まれ神山育ちで、東京に住んだりシリコンバレーに2年間住んだりもしてましたが、絶対に帰ってこいという父親の命令に素直に従い、神山に戻ってきました。20代に過ごすカリフォルニアは天国なんよね。空気もさわやかだし、4月から9月まで雨がほぼ降らない。野外の活動を計画しても、天候で中止になることはないから、サクサクっと進む。夏は暑いけど木陰に入ったらさわやかみたいな。そんな場所で二年間暮らして神山に戻ってくると、人間関係も含めてジトっとして梅雨のような感じなんよな。窮屈だなと。
これって何なんだろうと思って考えてみると、田舎の「枠」だなと。枠をはみ出すと途端に打たれるという窮屈さが苦痛で。神山とアメリカの良いとこ取りをしたような空間ができたら、自分たちも枠はありながらもその中で手足が延ばせる、余白のある心地良い世界が生まれるに違いないと思った。枠を押し拡げることで、今まで田舎社会で起きなかったようなことが起きるはず。
だけど、人間は変化することって怖いんよね。そのままの方が楽やし安心できる。でも変化することの面白さを知った人は、むしろ変化することが楽しくなる。自分自身も変われるし、周りがどのように変化していくのかも楽しめるようになる。そういった変化を追い続けていった結果、いろんな人とのつながりが生まれ、次世代型の学校づくりをすることに発展していくことになりました。
加来)
なるほど、ありがとうございます。今日はセプテーニグループと神山まるごと高専の重なりを探っていきたいと思っています。「変化」は我々の中でもとても良く出てくるキーワードでして、社会環境やデジタルの業界においても、当たり前が変化することはよくあります。当社のグループ会社にかつて「迷ったら変化の大きい方へ」という行動規範があり、今でもOB・OG含めてファンの多い言葉です。
僕らにとっての「アントレプレナーシップ」とは「変化」と「仕組み化」という一見相反していることを常に同時にやり続けることかなと思ってます。変化を起こしつつも、その変化を誰でも使えるように論理的に仕組化するということをフレッシュにやり続けていく姿勢は、神山まるごと高専の「テクノロジー×デザインで人間の未来を変える学校」というコンセプトにも通じるところがあると感じました。
迷ったらワクワクの大きい方へ
加来)
枠と余白を大切にしながら変化してきた神山ですが、今後どのように変化させていきたいとお考えでしょうか?
大南さん)
枠でいえば、究極はなくすってことなんやな。なくなれば拡げる必要はないんよね。という、枠のないようなところに少しずつ近づきつつある。人間社会には当然枠は存在する訳だけども、枠が見えなくなってしまえば、結果的にオープンになったり寛容になったりする。枠がなくなる領域まで少しずつ近づきつつある気がする。「迷ったら変化の大きい方へ」ということだったけれど、僕自身は「迷ったらワクワクの大きい方へ」と思ってる。
加来)
僕もそう思います。まさに「テンションが上がる方を選ぶ」を自分の規範にしています。「ワクワク」を選んで枠を拡げる、ということでしたが「ワクワク」を拡げるにあたって意識していること、工夫していることはありますか?おそらく「ワクワク」を選ぶこと自体が難しい場面もあると思うので。
大南さん)
うーん、ある意味人間の意識の問題かな。一歩ずつ前に進まなかったら何も変わらないから少しずつ丁寧に動いていくことが大切。焦ったらいいことは起きないので、丁寧に積み重ねることは、一見時間がかかるように見えるけれど、結果的に早く目的地に到達できると思う。まさに急がば回れ。
加来)
時間がかかるということを前提に積み上げてきたからこそ、今があると思うと非常に勇気づけられます。
大南さん)
セプテーニグループの皆さんと僕らの違いは「仕事か仕事ではないか」ということなので、僕たちは結果的に時間の制約を受けない。会社から成果を求められているわけではないので。高齢者の方たちが趣味でゲートボールをやっていても彼らに成果を求めることはないよね。なんのためにゲートボールやるの?とは言わない。僕たちはゲートボールの代わりに変化を求め、一歩一歩を積み重ねてきたら、いつの間にか拡がっていって結果的に社会に影響を与え始めた。
加来)
現在の課題について聞こうと思っていましたが、その質問自体意味がないものだと思えてきました(笑)
大南さん)
うーん、ないな。課題ってなんですか。別に取り立てて課題だからどうしようという向き合い方よりも、変化を追い求める中で気づいたら課題が解決されていたという言い方のほうが合ってる気がする。
加来)
それこそが真の課題解決かなと思いました。課題は解決するものではなく結果的に解決しているものだと。
大南さん)
神山町の場合はサテライトオフィスをつくるというアイデアありきで動いていたわけではなく、変化を追い求めたらサテライトオフィスと称するものが出来上がっていた。世間一般ではサテライトオフィスという形からスタートするので、順序が逆なんよな。「サテライトオフィスを成立させるには」という方向から入ると、誘致のための優遇策を考えなきゃとか、同じ思考に陥ってしまい、アウトプットは無味乾燥な「ワクワク」しないものになってしまう。枠に収まってワクワクがないから、伸びしろもない。
加来)
本丸から入ろうとするなってことですね。
大南さん)
そうそう。
テクノロジー×デザイン×起業家精神
加来)
あえての質問になりますが、神山まるごと高専での学びのテーマにテクノロジー×デザイン×起業家精神を選んだ背景を教えてください。
大南さん)
普通、中学を卒業したら、大学に進学するために普通科に入っていく。当然1年か2年までには理系か文系かに分ける。そもそもその区分自体が僕にとって必要性が分からん。文系の人が文章を書くのがうまくて、理系の人はディスカッションも不得意であるということ自体が全然合理的ではない。
加来)
まさに呪いですね(笑)
大南さん)
文系と理系という枠を超えて、シンボルとしてデザインとテクノロジーを学ぶことで起業家精神を育てる。
加来)
セプテーニグループ代表の佐藤とともに今後、グループに必要なのはどんな人か?という議論をしたことがあるのですが、彼のなかではアートとサイエンスのバランスが良い人を育てたいとのことでした。デジタルマーケティングにおいてはどちらかというとサイエンスを重視する傾向にあると思っていますが、アート的な側面を増やしていきたい今日この頃です。
若者が神山まるごと高専で学ぶことが必要だということは非常に共感しているのですが、大人にもより多様なインプットや学び直しの機会が必要だと思っています。大人に対してもテクノロジー×デザイン×起業家精神の教育をしていく予定はあるんですか?
大南さん)
結局、そういう状況になったら、学ばせるというよりも気づく人が出てくると思う。人間って「気づき」を持てる唯一の動物で、いろいろな経験を蓄積することで、ある出来事に出会った瞬間に「気づく」人が現れる。「気づき」はその人の心の中の変化なので、教えられないんだよね。ある現象が起きても、自分のなかで腹落ちしなければ線でつながらない。
オニヴァの近くの長屋に、河野のおばちゃんという90歳の方が以前住んでいて。裏側の 寄井座がアーティストのアトリエとなっていて、おばちゃんが尋ねて行くんよね。
その河野のおばちゃんが、アトリエに通い始めて2~3年経つと、作品展示を見て「去年よりも今年の方が面白い」って言い始めたりするんよ。それってある意味気づきで。さらにおばちゃんは毎日制作風景を見ているうちに、「アートって途中経過が面白い」などと話し始めるんよ。誰からもアートの鑑賞方法なんてものを教えられていないはずなのに。そうしたものの見方が芽生えてくる。面白いよね。
加来)
いい話ですね。非常に共感します。そういった中で高専をつくるという行動のきっかけについても教えてほしいです。
大南さん)
最初に感じる将来的な広がりよな。これってとんでもないことが起こるんじゃないかなと。Sansanの寺田さんに出会った時も、面白くなるかもしれんという予感がした。
寺田さんが2010年の9月25日に初めて神山に訪れて、神山町で社員が働けたら最高だと思うので、どこか場所ないですかという依頼があって、1週間で所有者との交渉をまとめ、10月14日には東京から社員が3人やってきました。
加来)
10年以上前の日にちを覚えているのはすごいですね。
大南さん)
今朝何を食べたかは忘れちゃいますけどね(笑)。寺田さんが神山にサテライトオフィスを置くことを考えたのが、東日本大震災の半年前でした。震災後にBCPの関係でサテライトオフィスを検討し始めた会社はたくさんありますが、震災前からサテライトオフィスの可能性に気づいてたのは普通ではない。すごいと思う。
加来)
直感に従うことは根拠を説明できないので、非常に怖く、やらない理由を探したりしますが、直感を信じることの大切さがよくわかる事例ですね。
大南さん)
当初は補助金をもらう訳でもないので、自分の判断で即断即決できたのが大きかったと思う。言うなれば、趣味の延長線上でやっている感覚。趣味の説明など求められないし、補助金をもらっていたら説明責任が発生し、充分に説明が出来なければ打ち切られてしまう。Sansanが入った場所も個人的に所有者と交渉しただけやから自分たちの責任範囲で動ける。そうした自由度の高さが神山の強みにつながっていると思う。
後編へ続く
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