長期投資家からみたセプテーニグループ【後編】
こんにちは。セプテーニグループnote編集部の宮崎です。
企業のさまざまな取り組みや、そこから生まれる社会への提供価値、また、強みや今後のビジョンなど、企業の価値を多面的に紹介する統合報告書。
▲セプテーニグループがオンラインで公開した統合報告書2020。今回で3回目の発行。
長期投資家からみたセプテーニグループ【前編】では、厳選投資を行うあすかコーポレイトアドバイザリーの田中さんに、長期目線で企業価値を評価する際のポイントや、そもそも統合報告書をどのように捉えているのか等をお伺いしました。
後編では、統合報告書2020についての感想や、今後の期待について詳しくお伺いしています。ぜひご覧ください。
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もっとナラティブに書いてもいい
─ さきほど、人を重視する風土や取締役会のマトリックスについてのコメントを頂戴しましたが、その他に当社のレポートの感想はありますか?
年々進化しているなと思いましたね。価値創造モデルも去年に比べると少し変えているじゃないですか。わかりやすくなっている印象を持ちましたね。去年まではデジタルマーケティング事業とメディアプラットフォーム事業だけだったのが、今年から新たな事業セグメントが加わっていたり、エンパワーのところが詳細になっていたり。わかりやすくなってきていて、読んでいて腹落ちします。
他社さんの統合報告書の中には、感性的な訴求が強いものもありますけど、セプテーニさんの統合報告書って、英語でいうナラティブ(※)という感じがします。
(※)語り・物語の意味。storyに比べて、一人ひとりが主体的に語るイメージの言葉。
ただ、オールドエコノミー(※)の大企業の方々が作り込んでいる統合報告書の活字の多さと比べると少ないですよね。肝心なところはもっと説明してもらってもいい気はしますね。
(※)古くからある従来型の経済や産業、また企業形態やビジネスモデル。
冒頭でも話しましたけど、中でわかっていることについて、外はほとんどわかっていないと思ったほうが良いと思うんです。
たとえば「つよく、やさしく、おもしろく。」のところ。後ろのページですごく詳しく書いてありますけど、「つよく、やさしく、おもしろく。」って、なんで必要なのか、なんで選んだのかって、あんまり書かれてないんですよね。たぶん御社のすごく重要なコアバリューから来てるはずなんですけど。
さらに言うと、去年はコアバリューの下部構造にCSRを置いていましたよね。今年はその位置が変わっている。多分その変更の背景には思いがあるはずなので、その思いのところをもっとナラティブに書いたら良いんじゃないかなと思いますね。
それから今回、新たな事業セグメントが価値創造モデルの中に加わっていますけど、この新たな事業セグメントの開発が御社の「アプリケーション」領域で重要になってきているという話だと思うんです。これってマクロが変わってきていることや、コロナが影響していたりすると思うんですけど、そのあたりがもう少し読み手に伝わると、さらに御社が見ている未来図みたいなものがわかるんじゃないかなと思います。
▲統合報告書2020の価値創造モデル。コアバリューを表す概念として「つよく、やさしく、おもしろく。」を紹介しています。また強みを「OS」、事業領域を「アプリケーション」と表現しています。
─ 「つよく やさしく おもしろく」もそうですし、ミッションの「ひとりひとりのアントレプレナーシップで世界を元気に」もそうなんですけど、我々は昔から比較的ハイコンテクストなフレーズを用いてきた会社なんですよね。
良い意味で、詳細の部分はあまり説明しない、という感じなんです。ただその反面、自分たちが考えていることはこうだ、ということを伝えたいという思いはあるので、ナラティブという表現でお話いただいたのは、個人的にはとても嬉しいですね。
あえて解説を入れない、というのが御社の社風なんですね。社員の方が自分で考える。
─ そうなんですよ。解釈は一人ひとりが考える。アントレプレナーシップという言葉もさまざまに解釈できるんですけど、それぞれが思うアントレプレナーシップを発揮して、それぞれが担う領域でちゃんと成果を出そう、そんな感じで解釈を委ねられているようなイメージでしょうか。細かく定義してしまうと、狭まってしまうこともあるかなと思うんです。とはいえバランスも重要だとお話をお伺いして思いました。
▲ミッションについてはこちらの記事もぜひご覧ください。
そのまま書いたら良いかもしれませんね。あえて縛らないんだと。それも一つの企業文化だったりするじゃないですか。
ミッション経営やビジョン経営をしている企業さんを見ていると、社会の要請に対して、ミッションやビジョンが古くなってきている会社があるんじゃないかなと思ってるんですよ。コアな社員の方々が大切にしていきたいミッション・ビジョンに対して、いま企業に求められているものがもっとインタラクティブになっているというか。
ESGやSDGsもそうですよね。社会に何を還元していくかを少しでも明確に打ち出して、しっかりコミュニケーションしていくことが求められているじゃないですか。企業には、何を実現するのかという視点や、自分たちのサービスで社会にこう貢献したい、こういう社会を作りたいという思いがあるはずで、それがもっと見えてもいいのかなとも思いますよね。コアにまったく変わらないものがあるとしても。
御社の統合報告書も、1ページ目にコアなバリューについての記載がありますけど、もっと書いてもいいのかもしれません。社内の方はそれぞれに考えてわかっていると思うんですが、外から見るとよく見えない、というのはあるかもしれないですから。
▲企業理念・行動規範の紹介ページ。
─ 同じようなご指摘を社外取締役の方にもいただきました。社会へのインパクトや、事業を通じてもたらしている価値を、次年度以降さらに表現したいと思っています。まさにいま社内で模索しているところです。
良い悪いではなくて、いま御社で持っているものが、等身大できちんと読み手に伝わることが重要だと思うんです。繕う必要も無いですし。たぶんもう御社の中にあるはずですよね。
価値創造モデルの進歩と改善点
─ ありがとうございます。さきほども何度かお話しいただいた価値創造モデルについて、今回相当細かく、一つひとつの文章も言葉の定義もかなりミクロな議論をして去年からアップデートしたんですが、ここについて何かアドバイスがあればお伺いしたいです。
実は去年、「事業を通じて人と産業をエンパワーする」というのを読んでいて、ちょっと消化不良感を持っていたんですね。これってどういうことなんだろうって。そういう意味では今回5つの軸が加わったことで、こういうことを考えているのかとわかるようになりました。それは良かったと思います。
ただ、おそらくこの価値創造モデルって、相互に影響を与えあうものですよね。スタティックな静的なものじゃなくて、影響しあって御社のバリューを強化していくものだと考えて作っていると思うんですよね。つまりエンパワーそれ自体が、御社のビジネスモデルを強くしていくようなものだと思うんです。でもその有機的な結びつきがまだちょっとよくわからないんですよね。
▲右側のオレンジの円が、エンパワーの具体的項目として統合報告書2020から加えられました。
この5つの項目についても、少しステージやレイヤーが違うものが混在している気がしています。なんでこの5つが大切なのか、必然性が見えてこないというか。この5つって、他社さんに置き換えても通じるでしょうし、ビジネスをやっていく上での共通のコアバリューだと思うんですよね。
セプテーニさんっていうデジタルマーケティングの雄、まだまだ成長・変化していく過程にある企業が、人と産業のエンパワーを目指したときに、なぜこの5つが選ばれたのか。
ナラティブに書くというのも一つの手法だと思います。それから業界環境みたいなところ、こういうマクロの変化の中ではこの5つがないと自分たちの存続が危うくなるという必然性のようなものを説くとか。説明や理由はいくつかあると思うので、その必然性が見えたら、御社の価値創造モデルがより強力なものになるような気がするんですよね。きっと御社の中ではつながってるんでしょうけれど。
─ そうなんです、つながっているんですよ。
アントレプレナーシップを持った方とテクノロジーがコアバリューで、社会の変化がこのように起こっていて、それを3つの方向で攻めていくんだと。で、人と産業を事業を通じてエンパワーする、いまエンパワーされてないところをエンパワーするのかな・・?ここで止まっちゃうんですよ。去年はエンパワーってなんだろうってところで止まっちゃったんですけど(笑)
─ 一歩進んだということですね(笑)
さきほどデジタルマーケティングの雄とコメントいただきましたが、個人的には「セプテーニ=デジタルマーケティングの会社」と見られるところから脱却したいと思っているんですよね。「GANMA!」もありますし、to C向けサービス含めいろいろな新規事業も増えてますので。そんなこともあって「ユーザのQOL向上」が入っています。
それから我々はコロナ禍に出社率を10%以下に抑え、ニューノーマルな働き方に移行しながらも業績を上げ続けることができているんですけど、これって社員の働きがいのような、自分たちが大切にしてきたこと、作りあげてきたものによって世の中をエンパワーしているということだと思うんです。そこもしっかり表現したかった、というところが去年からの進化ポイントです。
だからこそまだ模索している状況でもあります。有機的なつながりを表現できると、当社なりの強みをさらに打ち出せて良いですね。
次が楽しみですね。
企業価値についての目線
それから、御社のいまの統合報告書に、もし欠けているものがあるとすると、それは企業価値についての目線かなと思うんです。
私は株式投資家ですから当然株価に関心があります。でも株価を無理やり上げていくのを求めるのが長期の投資家ではないと思っていて。以前佐藤社長にも話したんですが、合理的に算定しうる企業価値を上げていってほしい、というのが長期にわたって投資する立場の希望なんですよね。企業価値が上がれば、株価は後から必ず上がってくるはずなので。
いまのコーポレート・ファイナンス(※)という企業価値を定義する学問は、どちらかというとオールドエコノミー向けになっているところがあって、御社がよって立つようなビジネス環境にそのままあてはめることはなかなか難しいと思うんですよ。
(※)企業価値の最大化のために、いかに資金調達、投資すればよいかを分析・検討し、実行すること。 また企業活動を行うために必要となる資金を金融市場から調達する活動の総称として用いられることもあり、コーポレート・ファイナンスの目的は、企業価値最大化のための財務手段を考えることにある。
とはいえ、企業価値を長期にこのように上げていこうと思っているんですという思い、そしてその説明は必要だと思うんです。その上で、長い期間に渡って私達と付き合ってみませんか、というのを投資家にアピールするのが良いと思うんですよね。
次の四半期はわからないけれども、5年10年で自分たちは企業価値をこう上げていきたいと思っている。それはフワっとした話じゃなくて、こういう組み立てになっています、だから私たちと付き合いませんか、と。それっておそらく、従業員の方や取引先の方にとっても重要なことだと思うんですよね。
ただそれをどう表現するのかが難しくて、御社で考えていただかないといけないところなんじゃないかと思うんです。以前佐藤社長から聞いた、いま6~7兆円の市場規模の広告業界はこう変わっていくと考えていて、その中で自分たちがこういう役割を演じて、その中でこれぐらいの存在感を作っていきたい、というお話がすごく腹に落ちたんです。この企業とこの経営者の方であれば、長い時間ご一緒できるんじゃないか。そう思った覚えがあるんですよね。
大手や歴史ある会社と必ずしも同じ手法である必要はなくて、何かこう、読み手あるいは聞き手が共有できるような形で、企業価値をどう上げていくかというフレームワークや考え方みたいなものを入れられると、すごく魅力的で、より読む価値がある統合報告書になる気がするんですよね。
─ 非常に核心めいたご指摘をいただきありがとうございます。
失礼かなと思いつつ、言うならそこかなと思いました。それ以外は努力のあとも拝見できますし、御社らしい統合報告書だなと思って読ませてもらってます。
─ IR的な課題感でもあって内部でもいろいろと議論を進めているんですが、資本市場に対して今開示している収益やNon-GAAP営業利益目標以外で約束できるKPIをまだ打ち出せていないので、まずはそこかなと思いました。そこをコミットしますという打ち出しができると、定性面の話と、定量的な目標を結び付けられると思うので。
もちろんそういったKPIを共有、コミットいただけるとすごく嬉しいんですけど、なんでしょうね、事業なので上手くいくときもいかないときもあると思うんですよ。それは長い視点でみればしょうがないと。
でも大切なのは、企業価値を自分たちはこう定義していて、それをこう上げていこうと思っている、というところじゃないかなと思うんです。
いわば自分たちはこういうマップに従って山を登っているんだと。いまはしんどいけれど、自分たちが目指している道はこのルートで、いまこのあたりにいるんだと。そういうのがわかるだけですごく価値があると思うんですよね。良い悪いは別にして、自分たちが持っているマップや目指したい目的地が見えていること、そしてそれがブレているのかブレていないのか、というのは極めて重要な気がしています。
─ なるほど。アドバイスいただいたことを活かして、次年度以降、ステップアップしていきたいと思います。社外取締役とはまた違う観点もあり、資本市場の方からの意見はとても参考になりました。本日はどうもありがとうございました。
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* 編集後記 *
株主の方、取引先の方、就活生の方、社員、社員のご家族など、さまざまなステークホルダーのみなさまに、セプテーニグループという企業を総合的にお伝えする役割をもつ統合報告書。
今回の記事とあわせて統合報告書を読んでいただくことで、少し違った目線で統合報告書をご覧いただけるのではないかと思います。
また、インタビュー後に呉さんから「この記事がきっかけとなり、セプテーニグループのみなさんに、資本市場のプレーヤーの存在を少しでも身近に感じてもらえるとありがたいです」というコメントがありました。
事業会社で顧客向き合いを担当していると、資本市場の方々の存在をリアルに感じる機会は少ないのではないかと思います。
ステークホルダーのみなさんにとって、統合報告書とこの記事が、等身大のセプテーニグループを感じ、新たな側面を知っていただくきっかけになれば嬉しいです。