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社外取締役 岡島悦子氏インタビュー 前編~ 統合報告書で伝えるべきマルチステークホルダーにとってのサステナビリティとは

こんにちは。セプテーニグループnote編集部の宮崎です。

企業のさまざまな取り組みや、そこから生まれる社会への提供価値、また、強みや今後のビジョンなど、企業の価値を多面的に紹介する統合報告書。先日セプテーニグループでは、統合報告書の2021年版をオンラインで公開いたしました。

▼統合報告書 2021
https://www.septeni-holdings.co.jp/ir/library/integrated-report/integratedreport2021_ja.pdf

そこで今回は、グループ執行役員、統合報告書制作プロジェクト責任者の呉さんが、(株)プロノバ代表、当社の社外取締役である岡島悦子さんに、統合報告書2021についての感想や改善点、今後のグループへの期待などをお伺いしました。ぜひご覧ください。

岡島 悦子氏

三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2002年、グロービス・グループの経営人材紹介サービス会社であるグロービス・マネジメント・バンク事業立上げに参画、2005年より代表取締役。2007年、プロノバ設立、代表取締役就任。 株式会社丸井グループ、ランサーズ株式会社、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社ヤプリ、株式会社マネーフォワード社外取締役。20年12月より、株式会社ユーグレナ 取締役CHRO(非常勤)。

インタビュアー:呉 鼎

2010年セプテーニに新卒入社と同時に子会社に配属。2011年セプテーニ・ホールディングスに転籍。経営企画課で投資・アライアンス、中期経営計画策定等を担当。2017年からIR課も管掌、2022年からグループ執行役員としてグループ経営企画・IR領域を管掌しながら様々なステークホルダーとの関わりを通じてグループ全体の企業価値向上をミッションに奮闘中。

社外取締役を引き受けた理由

呉さん:
本日はお時間をいただきありがとうございます。今回で4回目となる統合報告書を発行しました。不十分なところもあると思いますし、毎年どんどんコンテンツをアップグレードしていきたいと思っていますので、社外取締役の立場からいろいろお話をお伺いしたいと思っています。

本題に入る前に、岡島さんが当社の社外取締役に就任された経緯をお伺いしたいです。

岡島さん:
元々セプテーニグループ代表の佐藤さんとお知り合いだったんですよね。ICCの前身団体のニュー・インダストリー・リーダーズ・サミット(NILS)で初めてお会いして、その頃から組織開発のご相談などに乗っていました。その後グループの女性活躍推進のお手伝いもしています。今回の統合報告書に登場していた方の中にも、私が担当した女性リーダー育成塾の1期生がいましたね。そのほか、グループのキックオフに参加したり、若手の育成プログラムを担当したりということもあって、セプテーニグループの社員の方、300人くらいの方と何らかの形で関わっていると思います。

社外取締役としては、ボードを作っていくこと、ガバナンスを固めていくこと、次世代のリーダーを育成すること、ここをかなりお手伝いしてきました。たとえばボードについては、社外取締役に就任して8年目ですが、就任当時は取締役会の構成としては社外取締役は私をふくめて2名だけでしたからね。そこから議論を重ねて今の社外取締役が中心のボードに変化していて、もう隔世の感があるというか。相当建設的な意見が飛び交う非常に素晴らしいイノベーションボードになったなと思います。次世代リーダーの育成についても、いわゆるサクセッションプランと言われるCEOの後継者育成にむけて佐藤さんや上席執行役員の上野さんと議論し続けています。

呉さん:
ありがとうございます。岡島さんはとても影響力のある方ですし、おそらく数多くの引き合いがある中で、最終的に当社の社外取締役を引き受けようと思った理由があればぜひ教えていただきたいです。

岡島さん:
まずひとつは、グループ代表佐藤さんの魅力ですね。佐藤さんとは出会った頃から15年くらい、組織はどうあるべきか、なめらかな組織と人との関係性とは何なのかなど、けっこう深い話をしてきたんですが、その話を通じて見える、佐藤さんが目指しているものが素晴らしいんです。デジタルマーケティングに限らず、セプテーニグループの事業は人材の変化度、人的資本というものがすごく効いてくると思っていて、だからこそセプテーニグループがなめらかな組織と人との関係性について徹底的に向き合う意義みたいなことをすごく感じています。

それから女性リーダー育成塾などを5年ぐらいやらせていただいた中で、おそらく100人ぐらいの方にお会いしたんですよね。育成塾の受講生の女性メンバーもそうですし、メンターとして入ってくださった清水さん(グループ上席執行役員  Septeni Japan株式会社 代表取締役社長)や神埜さん(グループ上席執行役員 Septeni Japan株式会社 代表取締役)や岡田さん(グループ執行役員 コミックスマート株式会社 取締役)など、いまグループ執行役員として活躍している方々とか。広告業界という比較的マッチョな世界に身を置いているけど、みなさんものすごくチャーミングだったのが印象的で、同時にすごく伸び代を感じました。みんな、もっと力を出せるんじゃないの?と。それで何かお手伝いしたいと思ったんですよね。AI人事の構想についても結構早めから伺っていたので、経営×人事という文脈で結構やれることがあるなと感じた、といったほうが近いかもしれません。

岡島さんと第4期女性リーダー育成塾のメンバー、メンターのみなさん

岡島さん:
たくさん引き合いがあるというのは僭越ながらその通りなんですけど、お手伝いさせていただくかどうかは、ほぼほぼ全て経営者で決めています。経営者が素晴らしい方なのか、そしてコーチャブルかどうか、ちゃんと深く議論をさせていただける方か、そういったところを選んでいます。

10Xを打ち出したことで、目指す世界観、規模感がよくわかるようになった

呉さん:
ありがとうございます。改めて岡島さんが当社社外取締役に就任されるまでのこと、そして就任以降の貢献範囲がこのインタビュー記事を読む方に伝わると思いました。
ではさっそく統合報告書のお話に移りたいと思います。実は今回の統合報告書、社外のさまざまなステークホルダーから非常に良い反応をいただいておりまして。一番反響が大きかったのは、取締役会・監査役会と執行役員それぞれのパーソナリティマトリクスでした。セプテーニグループらしい、独自性があっておもしろいだけでなくちゃんと中身があると評価いただいています。

統合報告書2020から開示をスタートした取締役会のパーソナリティマトリクス
統合報告書2021では新たに執行役員のパーソナリティマトリクスを掲載

一方で、改善点として指摘いただいているのは、事業についての深掘りです。たとえば事業セグメント毎の戦略やKPI、市場環境認識やリスク事項は何かなど。ここは来期以降で改善したいポイントです。統合報告書に出てくるメンバーの顔ぶれも多少広がりが出てきたとは言え、まだまだ「新卒入社のベテラン男性」レイヤーが多いので、ここはもう少し多様性を持たせたいと思っています。率直にご覧になって、統合報告書2022はいかがでしたか?
 
岡島さん:
結構いろいろありまして。まず10Xを打ち出したのはすごく良かったんじゃないかなと思います。目指す世界観、規模感的なものがすごくよくわかるようになったと思うんですよね。このままいっても駄目だよ、非連続の成長をしないとこういう大きな成長カーブにはならないよと。企業集団としてみなさんが、デジタルマーケティング事業やマンガコンテンツ事業の次の柱となる事業を作る、みたいなことをやっていかないといけないということがかなり可視化されたと思います。あそこはすごく良かったですね。

それから2点目は、ガバナンス以外にもつよく、やさしく、おもしろい社外取締役が登場するところ。ICCなどの社外のイベントに行くと、結構羨ましがられるんですよね、佐藤さんと社外取締役だけでパネルセッションができるんじゃないの?と。そういう多様な社外取締役たちが要所要所で、かなり前のめり感を持って、ボード3.0に近い状態でこの統合報告書に入っているところを、投資家の方あるいは株主の方にも読んでいただきたいです。株主のみなさんに選んでいただいた私たち社外取締役が、こうやって付加価値を出している、というのを伝えられるという意味でも、パーソナリティマトリクスやコメントを含めてうまく使っていただいていると思いました。

コーポレート・ガバナンスに関して朝倉さん、髙岡さんにコメントいただきました
岡島さんには人材育成の仕組みや課題についてコメントいただきました

呉さん:
なるほど、ありがとうございます。その他、ここはもう少しよくなるのでは?というのはありますか。

人的資本については、持っているアセットをうまく表現しきれていない

岡島さん:
課題点は、大きく言うと一つなんですけれども、人的資本のところはとても気になっていて。ここは正直、私たちが持っているアセットをうまく表現しきれてないなと思います。報告書の各所に積極的な人的投資とか人的資本の積極投資といった言葉がたくさん出てくるんですけど、それがいくらで、どんな付加価値を産んでいるか、ということをあまり書けていない印象です。人的資本という言葉とAI人事という言葉が全くリンクしておらず、もうちょっと言うと人的資本とAI人事と付加価値創出の3つがバラバラになってしまっていて、まさに統合されていない状態です。

AI人事には二つの側面があって、配置やオンボーディングなどを含め社内の人たちの人的資本をうまく使うためのツールという論点と、このツールをHRテックとして社外にも売っていく、事業にしていくという2つの文脈があると思うんですけれど、どちらもうっすらしてしまっていて、これが書ききれていないのがすごくもったいない。

だから、人的資本の話は本来サステナビリティの一部なんですが、まだCSR的な文脈で書かれているというか。社員の働きやすさや働きがいを作っていく、ということはわかるんだけど、それがどう営業利益の成長に繋がっていくのか、という点がこの文脈からはちょっと読めないと思います。

私が社外取締役をつとめている丸井グループは昨年からかなり議論を重ねて、人的資本を数値化してきました。今まで人件費と言っていたものと研究開発費と言っていたものの実態をもうちょっと明らかにしましょうということで、研究開発に入れるものをもっと増やし、それを人的資本投資と言っている感じなんですね。

https://www.0101maruigroup.co.jp/pdf/settlement/2022_large_meeting_02.pdf
▲61ページに人的資本投資の再定義について説明があります。

具体的には共創投資と言ってスタートアップや新規事業にエース級の人材を送り込んでいるので、その人たちの人件費。それから事業会社を超えて職種変更を実施しているので、その人たちの1年目の人件費。たとえば小売からフィンテックに異動するとやっぱり1年目はなかなか稼働しづらいと思うので、そこを人件費ではなく投資と考えて、研究開発費に振っているということですね。

人的資本投資は全部で77億円ぐらい。この77億円の効果、リターンについて先日2つの方法で開示をしました。1つはベンチャーキャピタルの投資回収モデルを参照して償却期間を10年で試算して、2026年には収入がコストの5倍になっていますというもの。それからIRRという指標でも試算しています。

※IRR:投資資金をどれくらいの期間で回収できるかを考慮し、投資の効率性を測る指標

https://www.0101maruigroup.co.jp/ir/pdf/conf/2023/conf_2023_1q_02.pdf
▲44ページからリターンについての説明があります。

マルチステークホルダーにとってのサステナビリティ

もちろん時間軸があるのですぐ成果が出るわけではないんですけど、今みたいな10年のモデルでも5年のモデルでもいいと思うので、人的投資した分をどんなふうにリクープできるのかをちょっとお示しできるといいなと思うんですよね。

同じやり方をする必要はないと思うんですけど、たとえばgen-ten(※)をきっかけに事業立ち上げをしている人の人件費、電通グループとの業務提携の一環で先方に出向している人たちの人件費分を投資と考えて、そこからどんなリターンが出てきそうなのかを開示できるといいなと思います。

(※)gen-ten:毎年開催している社内新規事業プランコンテスト。事業実現への意欲が高く、かつ事業プランが高く評価された場合、インキュベーション専門の子会社にて事業化にチャレンジできる。

あるいはAI人事を活用した配置や育成支援によって、育成期間がかなり短くなっていると思うんですけど、新卒入社の人たちの育成期間がどれぐらい短くなっているのかとか。1人当たり売上なども測れると思うので、何らか事業収益的なものにリンクさせて表していけると良いですよね。

セプテーニグループは人が強いよ、人材が競争優位性だよとか、人的投資にすごく力を入れてやっていますとか、いろんな育成プログラムをやっています、と書くだけだと「?」になっちゃうので。事業収益とリンクさせたリターンの開示があると、配当じゃなくて人的資本に資金を回して正解だよねってなっていくと思うし、それが本当のマルチステークホルダーにとってのサステナビリティであり、本当の意味でのウェルビーイングだと思うので、そこを目指していけるといいかなと思います。

呉さん:
マルチステークホルダーにとってのサステナビリティ。まさにそこが当社のサステナビリティ委員会として目指しているところです。特定のステークホルダーにとって望ましいことが、他のステークホルダーにとっても良い影響になるような、循環型のサステナビリティを目指したいという思いを会社として持っています。

岡島さん:
CSR委員会をサステナビリティ委員会的にアップデートして、マテリアリティも決めていただいたのは素晴らしいと思います。ここからKPIを決めると聞いていますけど、今のままだと、今日の議論のような感じにならないかなと思うんです。投資家のみなさんが見て、やっぱり労働分配性を上げていかないといけないよねって思っていただけるようなものが理想ですよね。人件費、労働の対価という意味ではなくて、未来への投資として人的資本投資、と統合報告書でうまく表現した方がいいんじゃないかなと思っています。
 
呉さん:
ありがとうございます。非常に難易度が高い課題ですが、しっかり向き合っていきたいと思います。

岡島さん:
セプテーニグループにはデータもしっかり溜まっているし、できる素地はあると思いますよ。

後編へつづく

#統合報告書 #インタビュー #サステナビリティ #セプテーニグループ