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「具体」と「抽象」について

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「抽象的思考が大切」だとか「具体と抽象を使いこなす能力を鍛える」という言葉をよく聞く。
 なるほどたしかに、といった感じだが、"具体"と"抽象"というのはそもそもどういう意味だろうか?

抽象とは何か?

 抽象というのは、いくつかの特徴を捨てる(頭の中で度外視する)という手続きを踏むことだ。この特徴を捨てる手続きを捨象と呼ぶ。

 実は、言葉というものはすでに抽象性を孕んでいる。というのは、すべての概念は抽象の過程でつくられるからだ。
 たとえば、"リンゴ"という言葉・概念は、一つ一つ手でさわれる実物のリンゴをしめくくるリンゴ一般をさしている。さらに、"フルーツ"という概念になると、リンゴやバナナやブドウなどをひっくるめた、より抽象された概念だ。
 実物のリンゴから捨てられた特徴は「ちょっと曲がっている」とか「ちょっと青っぽい」といった、「リンゴかどうか?」には関係の弱いものだ。そういう特徴が捨てられて、「甘い果実」で「かじると歯茎から血が出る」という、リンゴであることに強く関係する共通の特徴が残った、概念の"リンゴ"一般になる。

 加えて重要なポイントが、言葉などの抽象概念は自然界に存在していない、ということだ。抽象概念は、自然(世界)を把握するために、私たちが作り出した便利な道具である。

具体とは何か?

 具体は抽象の逆の意味だ。手続きでいうと、具体の過程では捨てられた特徴を戻すことだ。
 リンゴの例なら、概念のリンゴに色や味の個性という特徴を戻してやり、実物のリンゴにしてやることだ。リンゴ(概念)が抽象、リンゴ(実物)が具体ということになる(注1)。

注1)ちなみに、椎名林檎は概念である、とよく友達が言っていた。

具体と抽象は相対的な関係

 しかし、リンゴ(概念)はいつも抽象というわけではない。
 リンゴ(概念)とフルーツの関係を考えてみると、リンゴ(概念)は具体となり、フルーツが抽象となる。

 また、抽象の仕方も一様ではない。捨象の仕方が異なれば、抽象物も異なる。
 例えば、リンゴ(実際)は一気にフルーツという抽象化をしてしまうこともできるし、「赤いもの」という抽象化もできる。

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(図:具体と抽象の関係性)

 すなわち、具体と抽象というのは、固定的・絶対的なものではなく、相対的な関係を表している。

 言語を扱う人全てが抽象化能力を持つと述べたが、ある概念とある概念がどのような具体と抽象の関係にあるかを適切に捉える能力は人によって差がある。例えばペットボトルとガラス窓が今ぱっと目についたので、「ペットボトル」と「ガラス」で考えてみよう。「ペットボトル」を抽象化すると「プラスチック」になる。この「プラスチック」と「ガラス」は「工業材料」という概念に抽象化できる。一方で、「ペットボトル」と「ガラス」は共に「人間の作り出した道具」という抽象化が可能である。「めっちゃ便利」という抽象化をしてもいい。
 また、このような具体と抽象の関係性で結ばれた概念をネットワークのように頭の中に持っていて、自由に使えるというのも能力だ。この能力を向上させるには、日々、物事を観察して様々な特徴を捉えておくという訓練が必要だろう。

抽象が包んでいる具体は何か?

 フルーツ一般を食べる人はいないが、「フルーツを食べている」と聞いても違和感はない。
 これは、"フルーツ"という抽象概念が現実のリンゴを内包しているためで、リンゴをかじっているときには「フルーツを食べている」と言うことができる。

 けれども、"正義"とか"美しい"という概念になると、どうだろうか? 「彼は善い人間だ?」というのはどういうことか?
 これらの概念が現実の何をどのように内包しているかはずっと複雑になる。
 このような複雑な概念(抽象)は、現実(具体)のものをどのように含んでいるかを注意して使う必要がある。"国益"などの言葉もそうだ。その中身をよく吟味するように注意したい。「国益を損なう可能性がある」というのは、一体どういうことだろうか? 国というのはそもそも何なのか? 国益を損なう私たちは具体的にどう損をするのだろう? また、そのメカニズムや根拠は何なのか? ということを考えてみる必要がある。

物事を抽象化して捉えることの意義

 物事は、抽象化することによって、客観的に捉えることができる。
 例えば、1つ1つ異なるリンゴ(実際)もリンゴ(概念)として捉えると、共通の扱いができる。

 また、抽象化のうち、質を捨象して量を抽出する操作を定量化という。

 定量化は物事を客観的に捉える非常に便利な手法なので、自然科学において広く使われている。定量化することによって、いつ誰がどこで見ても1リットル、1キログラム、1時間は同じになる。

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