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教職課程は履修すべき? 音大で教員免許を取った私が苦労したこと

大学で「教職」を履修するかしないか問題。多くの大学生、特に音大生が最初に抱える悩みのひとつではないでしょうか。私自身、音大入学時にとても悩みました。

「免許だけは持っておきなさい!」と両親に言われていましたが、私は教員の道を全く考えていなかったので、教職を履修する必要性がわからなかったし、せっかく音大に入学したのに音楽と向き合う時間が教職によって削られていくこともすごく嫌だったんです。しかし、音楽で生きていける人なんて本当に一握りだという現実に、大きな不安を覚えていたことも事実で……。

あれこれ悩んだ挙句、将来への不安から教職課程の履修を決意。そして、無事に中学校・高校の教員免許を取得したのですが、今は幸いなことに音楽の仕事に携われているので、ある意味“免許を所有しているだけ”です。実際に使ってはいません。
 
それって、教職を履修した意味あったの?

この記事では、洗足学園音楽大学の教職課程を経験した私が感じたことや思ったことを書いていきたいと思います。参考までに読んでいただけると嬉しいです!


そもそも“教職課程”とは

洗足学園音楽大学では、教職課程を履修することで中学校教諭一種免許状(音楽)・高等学校教諭一種免許状(音楽)を取得できます。

音大では音楽が専門なので、音楽の先生の免許を取得することになりますが、免許を取得したからといって教員になれるわけではなく、教員になるためには「教員採用試験」に合格しなければいけません。教職免許を取得するということは、あくまでも“教員になるためのスタートラインに立つ”ということなのです。

しかし、このスタートラインに立つのがなかなか大変なんですよね……。

音大の生活は、言うまでもなく音楽漬けの日々。一方で教職課程は、さまざまな規則を暗記したり、授業を行うための指導案を作成したりと、事務的な要素も絡んできます。そのため、実際に通っている学校はひとつだけれど、2種類の学校で勉強している(自分の専門分野を学ぶ学校+教員免許を取得するための学校)ような感覚でした。

教職課程の授業って?

引用:洗足学園音楽大学

こちらは教職課程の授業一覧がまとめられている表。大学を卒業するための単位は124単位なのですが、それとは別に教職の単位を取得していくことになります。
当然のことながら、教職でも試験があります。さらに「介護等体験」という介護実習や集中講義、最後の山場である「教育実習」などもあり、教員になるための試練がモリモリ!

3週間の教育実習で作成・使用した資料や指導案たち。改めてみると、やっぱりすごい量…(笑)

教職を履修する人は多いのですが、中には途中で辞めてしまう人もいます。この後の生活を知ってもらえれば、多くの人が教職を履修する理由、そして逆に辞めてしまう人がいる理由もお分かりいただけるのではないでしょうか。

待ち受けている生活は…

進学するコースや人によって異なりますが、私自身(電子オルガンコース)が最も忙しかったときの生活をざっくりとまとめてみました。

毎日、こんなに詰まっているわけではありませんが、1~3限まで埋まっているのは日常だったように思います。当時は教職の課題やレッスンの課題、練習などで時間が足りず、教職を履修せずに1日中音楽と向き合えている人が、正直とても羨ましく感じることもありました。

洗足では教職科目が大体1限に入ってくるため、朝9時から大学へ行かなければなりません。そこまで朝早いわけではありませんが、夜遅くまで練習・作業しがちな音大生にとっては、かなりきつい……。

こちらは使っていたノートの一部。 試験前になると徹夜で必死に勉強していました。覚えることも本当に多い!

模擬授業のために作成していた指導案と授業資料。 興味を持ってもらえるような授業にするために、いろいろと工夫して頑張っていました。

私のクラスの模擬授業では、先生・授業を受講している他の仲間たちから
フィードバックがもらえました。嬉しいお言葉もあったけど厳しいお言葉もいただき、ちょっぴり凹んだことも。

「教職ピアノ」という授業もあります。暇があれば練習していました。授業も試験も、主にみんなの前で弾き歌い(ピアノを演奏しながら歌うこと)をします。これ、1回でも単位を落とすと教育実習に行けなくなるんです。ヒヤヒヤしながら頑張りました!

……いかがでしょうか。本気で教員を目指している人にとっては素晴らしい環境だと思いますが、音楽の勉強と並行してこのような生活を続けていたら、嫌になって辞めてしまいたい気持ちもわかりますよね〜。正直、今の私でも、この頃に戻りたいとは思いません。

教職免許への考え方が変わった“ある言葉”

しかし、そんな私がなぜ最後まで教職課程を履修できたのか。将来が不安だから〜とかそういった理由もありましたが、何より大きかったのはある言葉で教職を履修することへの考え方が変わったからです。大学1年生のとき、教職の授業中に先生がこんなことを仰りました。

教職の免許を取得することは、あなた達が既に持っている“音楽”という武器に“教職”という新しい武器を増やすということ。別に使わなくてもいい。ただ武器さえ持っていれば、いつでも戦うことができるから。でも持ってなければ、何もできない。

その言葉を聞いたとき、今までのモヤモヤがスッキリしたことを覚えています。免許を取得するなら、使う機会がないと意味がない。当時の私には“武器を増やす”という考え方はありませんでした。

しかし、免許を取得していれば、教員になるためのスタートラインに立つことができて、進路の選択肢も増える。もし教員採用試験に落ちてしまっても、機会があれば非常勤講師として教育現場で働ける

将来のことが明確に決まっていたわけではなかった私は、先生の言葉で「増やせるものなら増やしておきたい。すぐには使わないだろうけど、いつでも戦えるようにしておきたい!」と思うようになりました。

“教員免許”を取得することのメリット・デメリット

“武器を増やす”とはいえ、そう簡単に決断できるものではありません。何事もメリットばかりだったらいいのですが、デメリットも必ず伴うもの。ここでは、私が感じたメリットデメリットをまとめてみました。

メリット①:将来の選択肢が増える

音大生に限った話ではありませんが、特に音大生は将来に不安を感じる人が多いのではないでしょうか。私自身、そうでした。当時の私は何か明確な夢があったわけでもなかったし、何より在学中にコロナ禍になってしまったため、将来への不安はどんどん大きくなるばかり。振り返ってみると、「人生って何が起こるのか本当にわからないな」と改めて感じた時期でもありました。

そのときに感じたのは、将来の選択肢を増やしておくことの大切さ。まず教員免許さえ取得しておけば、何か起こったときに「全く仕事がない」という状態は回避できるので、そういった意味でも選択肢を増やしておくことは大切だと思います。もちろん、保険的な意味合いだけで教育現場に立つのは良くないと思いますが、少しでも教える仕事に興味があるのなら、「教員」の選択肢は持っておいた方がいいかもしれません。

メリット②:免許取得の過程で多様なスキルを身につけられる

教員になる・ならないは関係なく、免許を取得する過程でさまざまなスキルを身につけられる点もメリットだと感じています。

⚫︎人前で話すことへの苦手意識が薄くなる
教職を履修していると、模擬授業などで人前で話す機会が多々あるため、たとえ苦手意識を持っていたとしても思ったことをしっかりと伝えられるようになります。つまり、面接などの試験にも強くなれる!ということ。

私自身、教職を履修する前までは、人の前で話すことや面接などはあまり得意ではなかったのですが、模擬授業などで鍛えられたおかげで以前より緊張しなくなりました。このスキルはどんなお仕事でもプラスに働くと思います!

⚫︎スケジュール管理やマルチタスクが得意になる
音楽と教職の2つを両立させていかなければいけないですし、適度な息抜きの時間も必要なので、自然とスケジュール管理やマルチタスクが得意になります。というか、そうしなければ手が回らない……といった言い方が正しいかもしれません(汗)。以前、私が実践しているスケジュールやタスク管理についての記事を書きましたので、ぜひご覧ください!

⚫︎資料作成が速くなる
模擬授業の指導案(授業の構成、進め方等を記載したもの)や授業内で使う資料作成、保護者の方へのお知らせ文の作成など。日々、資料作成の特訓をしているような感じなので、WordやPowerPointなどのソフトの扱いにも慣れていきます。

私はこのお陰でタイピングが速くなり、あまり時間をかけずに大抵の資料などは作成できるようになったため、役立っているな〜と実感する機会が多いです。このスキルは、音楽業界に限らずプラスに働くのではないでしょうか。

メリット③:仕事の幅と人脈が広がる

教員免許を持っていると、意外な部分でその恩恵を受けることがあります。たとえば、音楽教室講師のお仕事でも、教員免許を取得していることで優遇してもらえる場合があるのです。教職と音楽、仕事としてどう関係あるのか……と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、不思議なことに「繋がった!」と思う瞬間が出てくるもの

また、教職の先生方とのご縁が、大きな力になることも。「音楽で仕事をする」といっても、実力と同じくらい“人との繋がり”も大切です。洗足で教職を担当されている先生方の中には、音大卒業後にプロのオーケストラに入団した先生元劇団四季に所属しておられた先生などもいらっしゃいます。

私自身、教職でお世話になった先生からお仕事をいただく機会もあるので、結果的に教職課程を履修したことが音楽の仕事にも活きていると感じています。

デメリット①:忙しすぎる!

教職課程はとにかく忙しいですもし教職を履修するなら、覚悟は必要かもしれません。

諸事情があれど「教職を履修する」ことは一般的に「教員を目指している」ことになります。教員採用試験を見据えて授業が進められますし、介護等体験や教育実習にも行かなければならないので、覚悟がないと最後まで履修するのは難しいと思います。

デメリット②:戻ってこない「教職履修費用」

きつかったら辞めればいいと思っている人もいるかもしれません。もちろん辞めることはできますが、支払った分の教職課程履修費用は戻ってきません。

また、辞める前までに取得した教職単位もゼロに! これはすごくもったいなくて、お金・単位・時間の全てを捨ててしまったことになります。

デメリット①で「覚悟」という言葉を使いました。簡単に辞めることはできるけれど戻ってこないモノも大きいので、履修するにしても辞めるにしてもやはり覚悟が必要だと思います。

与えられた時間は、みんな平等だからこそ

教育実習の最後に担当クラスの皆さんいただいた寄せ書き。本当に嬉しかったし、今までの苦労が吹き飛んだような感覚がありました。

ここまで教職課程についていろいろと書いてきましたが、私はメリットの方が多かったので、教職を履修して良かった!と思っています。ですが、教員を目指していないのなら、やりたいことを極端に我慢してまで、無理して免許を取得するために頑張らなくても良いとも思っています。

教職課程の履修はお金も時間も労力も必要ですし、最後までやり遂げるのは簡単ではありません。しかし、「自分の武器を増やして、いつでも戦えるようにしておくこと」は、何をするときも大きな自信となり、支えになってくれることも本当です。

教職を履修するか、しないか。どちらも正しい選択だと思いますが、4年間という時間の使い方をしっかりと考えたうえで、後悔のない選択をしてもらえたらと思います!

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Text by 呼野 阿美香