プロの演奏家になるために。管楽器コース・新井秀昇先生が思う、“自ら仕事を作り出す”ことの大切さ
洗足学園音楽大学の魅力の一つは、多様なバックグラウンドやキャリアを持っている教員が多数在籍していることです。本シリーズでは、魅力ある教員の多彩なキャリアをインタビュー形式でお伝えしていきます。
ひたすら練習に明け暮れた大学生活
──大学生の頃、どのような生活を送っていましたか。
プロの演奏家になりたくて洗足へ入学したので、大学の4年間はひたすらその目標に向かって頑張っていました。とにかく練習して、練習して、練習!その合間に音楽をたくさん聴いて、その後にまた練習!みたいな生活でしたね。
そのうえでチャンスがあればコンクールやマスタークラスに応募したり、さまざまなコンサートにも出演したり。自分を高められるシチュエーションを見つけては、片っ端から挑戦していきました。
──大学入学時点では「プロの演奏家になる」という目標が定まっていたとのことですが、音楽の道に進もうと決められたのはいつ頃でしょうか。
音楽を始めたのは中学1年生の頃に吹奏楽部へ入ったことがきっかけです。それまでは楽譜も読めませんでしたし、専門的に音楽を勉強したことは全くなかったんですけれど、楽器と出合ったらその楽しさに目覚めてしまって。
最初はテューバを吹いていたのですが、中学2年生になったタイミングでユーフォニアムと出合い、どんどん音楽にハマっていきました。その頃に「これで将来やっていきたいかも……」って思い始めて、中学3年生になったときには「音大に行きます」って周りの先生や親に話したことを覚えています。
卒業後は収入の9割がアルバイトによるものだった
──プロのミュージシャンを目指す中で、卒業後の不安や進路に迷われた瞬間はありましたか。
進路に迷った瞬間は1度もありませんでした。音楽以外のことを1回も考えたことはないですね。ただ、大学を卒業した直後はなかなか仕事がなかったので、卒業後の1年間は収入の9割がアルバイトによるものでした。その頃は、やはり不安でしたね……。
でも、周りにいた先輩方の姿に勇気づけられました。収入が苦しいところから一つずつ着実に実績を積み重ねて、実力も上げていって、演奏家として生活できるようになる。そんな先輩方の姿をたくさん見てきたからこそ、「きっと道は開ける」と信じてひたむきに頑張れたように思います。
──卒業後、ご自身の活動が軌道に乗り始めたと感じられたのは、どのようなタイミングだったのでしょうか。
何を以て軌道に乗ったかというと難しい部分ではありますが、やはりタイミングというより地道に活動を続けて少しずつ知っていただけるようになったということかと思います。加えて言うならば、アルバイトがメインの収入だった頃に、日本管打楽器コンクールで入賞したんですね。それで全てが変わったってわけではないけれど、そこから今まで以上に自分の名前と顔を知ってもらえる機会が増えてきたんです。
社会人2年目の年は1年目よりも音楽の仕事ができるようになって、3年目は2年目よりも増えていって……。大学を卒業してから4年目に、アルバイトを辞めて音楽だけで生計を立てられるようになりました。洗足の講師として働かせていただくようになったのは、ちょうどその少し後くらいの時期です。
ユーフォニアムは仕事の絶対数が少ない楽器なので、自分から積極的にさまざまな活動を起こしていったことも覚えています。たとえば、自分自身で演奏会を開いてみたり、小編成のアンサンブルやソロ演奏を行う際に作曲・編曲を行なってみたり。コツコツと続ける中でそれぞれの活動が上手く結びつき、少しずつお仕事へと繋がっていきました。
一時期「セルフプロデュースが大切」とよく言われていたと思いますが、自分自身で仕事を作り出していくというか、音楽活動を続けるうえで「やってみたい!」と思うことにとことんチャレンジしてみるのはやはり大切だと感じています。
“吹くために書く”が現在の礎に
──新井先生は現在も作曲・編曲活動に取り組まれていますよね。曲作りを始められたきっかけについて教えてください。
よく「作曲家としても」というように仰っていただくことがありますが、僕はやはり演奏家であって、「作曲家として売れたいぜ!」とかそういうつもりで始めたものではありません。どちらかと言うと、自分の演奏活動に付随した形で曲作りを行っていたんです。
こんなメロディーを吹きたい、こんなハーモニーで吹きたいっていうイメージが自分の中に生まれる。しかし、探してもそのような曲がなかなか見つからない。じゃあ自分で書いちゃおうかっていうところが、曲作りを始めたきっかけでした。具体的にセルフプロデュースを意識していたわけでもなくて、本当にもう“吹くために書いていた”って感じですね。
曲作りに取り組んでいくと、だんだん周りの友達から気に入ってもらえて、じゃあ今度僕のためにも、私のためにも書いてっていう風に言ってもらえるようになって。今は一般の方からも作曲の依頼をいただけるようになりました。
──「吹きたいイメージがあったら、自分で書く」に至る柔軟な発想力と行動力、とても素敵だと感じます。しかもそれが現在のお仕事にも繋がっているという。
たまたまそういう流れで現在も作曲のお仕事をさせていただいておりますが、洗足に入っていなかったら今のような活動はしていないと思うんです。出会った先生方や仲間から受けた影響は非常に大きくて、特にサクソフォーン奏者の平野公崇先生(管楽器コース)が担当されていた即興演奏講座はとても印象に残っています。即興演奏をしていくうちに自分でクリエイトする面白さにハマっていって、そこから自分で曲を作りたいという気持ちが強くなりましたね。
また、作曲自体のレッスンは受けたことがなかったのですが、作曲家の伊藤康英先生(管楽器コース・作曲コース)には楽譜に書かれた、音楽そのものの“読み方”や”面白さ”について、たくさん教えていただきました。どういう意図でこの音が使われているのか、こんなハーモニーだからこのメロディーはこう歌ってみては、とか。
伊藤先生のおかげで楽譜を読む面白さに気づいて、いろんな曲を読んでいくうちに、たとえば「こんな感じで書くと、こんな音が鳴るのか」と思えるようなことが増えてきたんです。そのときに得られた多くの気づきや発見が、今の活動のベースになっています。
音楽と向き合った時間は人生を豊かにしてくれる
──コロナ禍の影響もあり、進路に悩んでいる洗足生は多いかと思います。そんな学生に向けて、新井先生からメッセージをお願いいたします。
みなさん音楽が好きで洗足に入学されたと思います。音楽大学で思い切り学べる4年間、まずは目の前にある音楽をがむしゃらに楽しんで、ひたむきに取り組み続けて欲しいです。
そのうえで音楽の道に進みたいなって思うかもしれないし、別の道を志すことだってあるかもしれません。さまざまな選択がありますが、たとえ「自分には違う道かな」と思っても、学生の頃に頑張った経験が何かで活かされることは必ずあります。
また、音楽の道から離れたとしても、音楽は一生の友であり、その楽しみは決してなくなることはありません。この先もずっと自分の人生を豊かにしてくれる。だからこそ、せっかくの4年間、ぜひ一生懸命に“音楽”と向き合い続けてみてください。
あわせて読みたい:
Text and Photographed by 門岡 明弥