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【教員のキャリアシリーズ②】東大卒→大手電力会社からフラメンコ講師への大転身!(ダンスコース講師 やのちえみ)

洗足学園音楽大学の魅力の一つは、多様なバックグラウンドやキャリアをお持ちの教員が多数在籍していることです。本シリーズでは、魅力ある教員の多彩なキャリアをインタビュー形式でお伝えしていきます。

<プロフィール>
やの ちえみ(ダンスコース講師)

東京大学在学中にフラメンコを始める。東京大学フラメンコ舞踏団2期生。
卒業後、大企業に勤めるが、舞台への気持ちが高まり4年後退社。
その後1年弱のスペイン留学へ。帰国後、タブラオやイベント出演の傍ら、やのちえみフラメンコ教室をスタート。
フラメンコ以外のミュージシャンとも交友が深く、音楽的で誰でも楽しめる舞台作りを目指している。



1.大企業を辞めて、スペインへ


ーーまずは、先生のキャリアを教えてください。

私は、宮崎出身で県立宮崎西高校、東京大学の経済学部を経て九州電力に就職しました。九州電力を3年半で退職し、7ヶ月のスペイン留学、その後帰国して27歳の時にフラメンコ教室を開校しました。29歳で結婚出産、育休産休をとりつつフラメンコを続けて、今に至ります。

ーースペインへ行かれたのは、どの様な理由からだったのですか?

入社1年で本店営業部に異動となったのですが、当時はまさに電力自由化が始まる直前で、新しい制度作りや顧客サービスを模索している時期でした。懸命に働いていたんですが、知識や経験、熱意をもって働いている先輩たちとのギャップを目の当たりにして、落ち込む毎日が続くうちに軽くうつ状態になってしまいました。

一方で、フラメンコ業界の方と会っているときは、自分らしく自由でいられたので、自分の気持ちの向く方向に、とにかくここではないどこかに進みたい、と思うようになったんです。会社を辞めるにあたっては、ただ辞めると言う訳にはいかず、親や会社には「フラメンコで生きていきたい!」と言っちゃった感じです。実際は、その時点では、その後のことはそのとき考えよう、と。


ーー元々、会社員の時から、フラメンコをされてらっしゃったんですか。

大学のサークルでやっていて。就職後はあまりに仕事が忙しくて、趣味もままならない感じになっていたんですけど、フラメンコは唯一続けられたんです。月に1度東京に行って、友達に会いがてらレッスンを受けてということを3年間やっていました。フラメンコは気晴らしみたいな感じで、そんなに熱心にやりたかったわけではなかったんですが、たまたまそれしか残ってなくて、辞める時に理由付けとして、つい言っちゃったっていう感じです(笑)。

ーー留学の7ヶ月間はいかがでしたか。

楽な気持ちが持てたし、自由になれた気持ちが強かったです。日本では、常に周囲から注目され、期待もされていて、気を張っている状態。「東大生らしく活躍しなくては」と思ってました。でもスペインでは大学名を知っている人もいなくて、そういうレールから外れることができたというか、自分自身のことも枠に入れて考えなくなって、それが一番大きかったです。

2.イチから作る教室作り

ーー教室は、イチからおひとりで作られたんですよね?

そうですね。待ってる場所がないとお客さんも来ないから、とりあえず近くのダンススタジオを週に2回借りて、ここでやってますと周囲に言っていましたが、最初は生徒さんがいないので、ただ一人で練習をしている状態でしたね(笑)。

ーーそこから、どの様に広がっていったんですか。

最初は、大学のサークルの後輩が遊びに来てくれたり、「とりあえず付き合ってください、教えるを練習します」みたいな感じでやってたんです。その中で一人、二人と入ってくれて、さらにライブ活動を続けた中で、お客さんからやってみたいという方がでてきて、そうやって細々と増えていった感じですね。

フラメンコは、最終的にはソロで踊らないと分からないジャンルなので、「入門でも全員ソロ」と最初から決めていて、教室に入った生徒は、発表会に全員ソロで出てもらうという形にしました。多分、そのシステム自体は日本を探してもほぼ無いと思うんですよ。狙っていた訳ではなく、自分がそうしたかっただけなんですけど、口コミでソロをやりたい方が来てくれて、結果的に他の教室とは違う強みになった感じですね。

ーー本当に、先生が大切にされているところなんですね。
大学の授業でも、最終回は自分で自由に好きなように組み立てて、歌とギターの生演奏の中で、一人ずつ踊ってもらっています。

3.自分で決めてやる


ーー授業では、学生にどんなメッセージを伝えてらっしゃるんですか。


教えた振付の中でもやりたくないことはやらないで欲しいと言っています。自分が踊りたいと思って踊らないと意味がなくて、たとえ振付で教えてもらったものを踊ったとしても、自分のやる意思がないと意味がないと思うんですよね。それは、どのジャンルでも同じだと思いますが、フラメンコは、それが途端に出ちゃう。


だから、人によって踊る長さが全然違ったりしますよね。実際は「覚えられなかった」という理由で短くなる学生も多いですけど(笑)。熱心な子は、教えたものを全部きちんと詰め込んできて、たっぷり踊ったりするし、それはその人の選択なのでどちらもいいと思うんです。自分の教室でもそうだし、それはもう子育てとかでも同じ。万事においてやりたいという思うことを自分で決めてくれと言っています。

ーーなるほど。生きざまと一緒ですね。

そうですね。一生の大部分を我慢してる状態で生きるより、気負いなく自分らしく自由でいられる世界に行かないといけない、と思って会社を辞めていますからね。企業に勤めたことは非常にいい経験になったし、今でも応援してくれている先輩もいて、それはそれでとても良かったと思っています。

4.一生懸命やっていると言い切れるもの

ーーダンスコースのキャリアについて、学生に伝えたいことは何ですか?

何でもいいんですけど、一生懸命やってると言い切れるものを作って過ごして欲しいと思っています。学校でも、アルバイトでも、旅行でも自分が大事だって思うものなら何でも良くて。「あれやんなきゃいけないんだけど・・・」、「これ本当はやんなきゃいけないんだけどね・・・」って言いながらぼんやり過ごすのは避けて欲しいですかね。

私は、接客業のアルバイトを沢山やっていたんですけど、人といるのは好きじゃないのに、接客業は向いてると感じたし、楽しいということに気づきました。色々アルバイトをやってみると、意外とこれは向いてるとか、これは駄目だとか、こっちは好きじゃないんだなということが分かってきて、その結果、スペインから帰って来てからもとりあえず明日のご飯を食べるためのお金は稼げたし、むしろ楽しく働いてました。今があるのは、大学時代にバイトをいっぱい経験した結果だなとも思います。

ーー人といるのは好きじゃないのに接客業が向いていると思ったのは何故ですか?

お客さんが本当に言いたいことは何かなって思いながら話を聴いて、だったらこうしましょうと提案して、当たると喜ばれるっていう、お客さんが喜んでくれると嬉しいというのは勿論あるけれど、パズル的にも面白いんです。当たった!みたいな。これって本業の踊りでも一緒。どんな私を見せたらお客さんは喜んでくれるのか、こういう私かな?それともこういう私かな?って。踊りも接客業も考えてることは一緒です。

5.本業と副業

ーー自分の楽しさをちゃんと分かっていて、副業できるって良いですよね。

大学在学中も卒業後も、「音楽1本で食べていけないと恥ずかしい」みたいに副業を否定的に捉えないで欲しいと思っています。音楽で食べていけてないからバイトしてるんだと思っちゃうと辛いじゃないですか。そうじゃなくて、音楽をやってる自分と好きな職種でアルバイトしてる自分は同じ価値。思いつめて、本当は音楽1本にならなきゃいけないと思わなくてもいいのにと思います。

ただ、その風潮は、私たちや私たちの上の世代が作ってしまったのかもしれませんね。芸に身をささげてナンボ、みたいな風潮。学生から「ダンス以外の道に進むことを先生には言えないと思ってた」と言われたことがあって。どんな道に進んでもいいし、バイトも一つの仕事として楽しく働けばいいじゃんって思っています笑。自分もコロナ禍で、すごく実感したんですよね。

実は、本業を休まなきゃいけなくなってしまって、その時はパン屋さんでバイトしてたんですけど、パン屋さんは逆にめちゃくちゃ忙しかったんですよ。ボーナスまでもらって。こうやって二つ柱があれば、どっちかが調子悪くても、どっちかがあるって思える。心の余裕が全然違う。みんな普通に副業やっても良いんじゃないかと思います。普通に副業やって普通にそれをおおらかに言えるようになるといいなと思うので、学生にも、副業は全然恥ずかしいことじゃないから誇り高くやろう、と言いたいです。そこでも好きなものを見つけて欲しいなと思っています。

6.洗足、ダンスコースの魅力

ーー最後に洗足やダンスコースの魅力を教えていただけますか。

毎日、週5で朝から晩まで踊ることができるという状況はすごいなと。ここに来た学生は音楽やダンスが好きで来たはず。好きだっていうものを見つけた状態で入ってきて、それをとにかく4年間やって、卒業後も続ける、続けないを含めてそのことを考える時間があるのがいいなと思います。だから、本当にこれと決めたものを一生懸命毎日毎日やりたいと思う学生にとっては、すごくいい環境だろうなと思います。そこを極めて踊りの仕事に就きたいって思うのもいいし、やりきったんで他の仕事に就きたいですっていうのもいいと思います。本人がその気であればやり切るぐらいやれる環境があるというのは、洗足の魅力ですね。

ーー本日は、本当にありがとうございました!


▶▶洗足学園音楽大学:https://www.senzoku.ac.jp/music/

▶▶キャリアセンター:https://www.senzoku.ac.jp/music/about/senzoku_support/

Text by キャリアセンター