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自転車にまつわる話(3) 弟子

私の自転車に関するたわいもない話を、
ただただ書いていくシリーズです。

【登場人物】
私     ・・・30歳頃、賃貸アパート在住
近所の少年 ・・・近所の戸建てに住む少年。
                           私との面識はない。

◆クロスバイクを洗車する

クロスバイク

スポーツサイクルに馴染みのない人には
「えっ?マジ?」
という感じかも知れませんが
多くのサイクリストは
メンテナンスの一環として、
自転車の洗車をします
ええ普通に。

愛車の見た目を綺麗に保つ
というような意味合いもありますが、
洗車しながら、
・各パーツにキズや不具合は無いか、とか、
・消耗品や各パーツに劣化は無いか、とか、
普段は気づかないような所に目が届く、
立派なメンテナンス機会なのでございます。


季節は忘れましたが、
その日はとても天気の良い休みの日でした。

クロスバイクを購入し、
一応、スポーツサイクルオーナーの端くれ
となった私は、
「たまには洗車するか」
と、
バケツに水をたっぷり汲み、
洗車時に必要なセットをカゴに入れて、
駐輪場的なところまで降りていきました。

戸建ての方であれば、
自宅屋外の水道ホースから、
ジャブジャブと水を流せるのでしょうけれど、
当時の私は賃貸アパート暮らしであったため、
こうして、
バケツに汲んだ水と、スポンジ、
台所用中性洗剤
を使って、
チマチマと洗車していたのでした。


◆近所に住む少年が帰宅

私の住んでいたアパートは住宅街にあり、
隣近所は、同じようなアパートであったり、
一軒家であったりが、混在している地域でした。

長年住み続けているわけでもない、
賃貸アパート住まいとあって、
さすがに、戸建てのご近所さんとは
まったく面識はありませんでした

その日、私がスポンジを泡泡にして、
「フンフーーン♪」

クロスバイクを洗車していると、
斜め前の戸建てに住む小学生(低学年くらい)
と思われる少年が、
自転車に乗って帰宅しました。

実際はMTBタイプ


ただいまー!」

外にまで聞こえる元気な声でした。

「そうじゃそうじゃ。
 チビッコはそのくらい元気でないとの。」

と、
好々爺よろしく
微笑ましく思いながら洗車を続け、
洗い流す水が足りなくなったので、
一度、部屋までバケツに水を汲みに戻ったのでした。


◆師匠これで良いですか?

バケツに水を汲みつつ、
部屋に戻ったついでに、ほんの少しの間、
チョロチョロっと何かして、
また自転車のところにもどると、
そこには驚きのの光景が。


少年が(少年の)愛車を洗車していた


しかも、
バケツにスポンジ。
私と全く同じスタイルで洗車を開始していたのだった。

近所の兄ちゃ・・・
いやオッサンから

少年は学んだのだ。
愛車(自転車)は洗車してあげるものなのだと!

少年は学んだのだ。
バケツとスポンジがあれば、
愛車を洗車してあげられるということを!

その行動力というのは、
持って生まれた気質なのか。
なかなかどうして、やるじゃないか少年。

弟子

師匠!
こういうことですね!?
こういうことですね!?

師匠

技は教わるもんじゃねぇ。
盗むもんだ。
四の五の言わず、手を動かさねぇか。

そ〜うだ。
そ〜の手つきだ。

見てみろ。
愛車もいい顔になってらぁ。


と、
私のしょーもない三文芝居は置いておくとして、
ボカァ、驚いちゃったね。

ついさっきですぜ?
少年が帰ってきたのは。

そんで、私が自転車を洗っているのを見て、
すぐに行動にうつしてみるところが、
純真無垢な少年らしく、実に可愛らしい。

そして、
自分の宝物を大切にしようとする
その心意気や良し。
非常に好感が持てる。


私は、
洗車してるの偉いねぇ
とねぎらいつつ
洗剤は台所の洗剤で良いよ。
お母さんに言ってもらっておいで。
(若しくは、この洗剤使うかい?)

と、

よっぽど声をかけようと思ったが、
今のご時世。

近所の得体の知れないお兄さ、、、
オッサンと関わりをもつことを、
親御さんが心配するかも知れないな。。

と勘繰ってしまい、
直接声をかけることはやめておくことにした。

代わりに、
終わりかけていた洗車を、
少しだけやり直し、
少年に見えるように台所用洗剤の容器を置いて、
スポンジを泡泡にして見せたのだった。

あわあわ〜

少年はそれを見て
洗剤が必要だということに気づいたのか、
「お母さ〜ん!」
と声を出しながら、
家の中へと消えていった。

そうじゃ。
それでいいんじゃ。
ワシが教えることはもう何も無い。
サササササ

(-----翻訳-----)
お母さんが登場して、
「うちの息子に変なことを教えないで下さい」
なんて言われたら困るから
今のうちにバックれよう、、、

ー師匠翻訳機ー

クロスバイクの泡泡(あわあわ)を流し終えると、
師匠はそそくさと、部屋に戻る(バックれる)のであった。


◆終わりに

先日、
自転車マンガ「かもめ☆チャンス」を読み返していたら、
主人公の更科二郎が群馬CSCで、
渾身のアシストを決めた後、
自転車屋の娘、晶(あきら)ちゃんが、
そっけない態度の更科にこんな事を言っていた。

「最初に手取り足取りロードの乗り方
  仕込んでやったの誰だと思ってる?
  この業界、最初についた師匠には
  一生逆らえない鉄則があるってのによォ」

かもめ☆チャンス 15巻 STAGE .155 より

ほほう。
そんな鉄の掟があったとは。

思い起こせばあの、
クロスバイク洗車の一件から、
かれこれもう10年以上経つ。

あの頃元気一杯だった少年も
今やもう成人し、
立派な青年になっていることだろう

自転車を大切に思い、
見よう見まねで洗車を覚えた、
かつての少年は、
もしかすると今も自転車が好きで、
ゴリゴリのローディーに成長しているかも知れない。

仮に。
仮にもし、そんなことがあった場合、
大人になった祝意も表しまして、
かつての、あの少年
こう伝えてやりたいと思うのでございます。

「さあ脚が終わるまでワシを鬼引きするんじゃ。
  この業界、最初についた師匠には
  一生逆らえない鉄則があるんじゃぞ。」

〜せにょ かつての少年へ より〜


おしまい

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