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【読書記録】最近読んだ小説のお話! Part.01-『楼蘭』『姫君を喰う話』など-

 この記事は、タイトルの通り「最近読んだ小説」を語るものです。わたしは、なにか一貫した目的で小説を読まず、さらに短篇集の場合は、別の小説を挟みながら少しずつ読んでいくタイプです。そのような読書スタイルがゆえに、この記事もまた決まったテーマがありません。

 しかし、ひとつの目的として、本記事を読んでくださる方々の「読書ライフ」の一助になるよう、「好き!」を前面に押し出した「感想文」を書いていきたいと考えています。また、読みやすさを重視したいので、できる限り短い文章にまとめたいと思っています。だとするならば、前置きはここまでにして、わたしの「好き!」を思う存分書いていきましょう。

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 井上靖(1907~1991年)の『楼蘭』を読みました。漢と匈奴の勢力争いが激しい、中国西域の地にある「楼蘭」という国が、両大国の勢威の前に翻弄されるというお話です。本作は短篇小説なのですが、それを感じさせないほどに、「楼蘭」という国の歴史と運命の記述がぎっしりと詰まっており、とても密度の濃い歴史小説でした。

 人というより「楼蘭」という国を中心にした外交史でもあり、地域史でもあり、年表を映像化したような作品です。

 井上靖の小説を読むのは、これで二作目です。最初に読んだのは『波紋』です。風変わりな性格を持った将来を有望視されている男子学生が、許されざる恋に落ちてしまう事件と、その一事が彼の周囲の人々に与えた影響を描いた短篇小説です。なので、わたしの「初・井上靖」は、歴史小説ではありませんでした。

 パソコンと対座しているデスクの横の本棚には、『後白河院』が並べられており、いまだ積読のままです。最初に挑戦する井上靖の長篇小説は、この作品になるかもしれません。

 ところで、芥川龍之介(1892~1927年)の『西郷隆盛』を読み直したのですが、本作は歴史を研究することに対する示唆にあふれた一篇です。いわゆる「史料批判」をテーマにしたお話です。最後の「種明かし」まで興味は尽きません。わたしのオススメの一篇でもあります。

 芥川龍之介の小説を一作でも読んでしまうと、彼の短篇小説をいくつか再読しなければ気が済まなくなります。『首の落ちた話』『蜘蛛の糸』『手紙』『三つの窓』――など、短篇集を本棚から抜き出して耽読していました。

 宇能鴻一郎(1934年~)の短篇小説『姫君を喰う話』は、そのタイトルからは想像できない導入からはじまります。「貪食家」を自称する男が居酒屋で飲食をしているシーンから入り、彼の食へのこだわりが書き連ねられていきます。もちろん、「姫君」を食べているわけではありません。

 彼の食通ぶりに大幅に紙幅が割かれたあと、「貪食家」の男の隣の椅子にひとりの僧侶が座ります。これを機に、「姫君を喰う話」が展開されていくのかと思いきや、相手の肘が当たることに腹が立った男が、この僧侶に対して、長々と下世話な話をしかけるのです。食へのこだわりと同じくらいの熱量で詳しく書かれているため、読み進めるのに根気が必要でした。

 饒舌な「貪食家」の男の話が終わると、ついに僧侶が経験した「姫君を喰う話」が展開されていきます。彼が話しはじめると時代が一気に下るという、実験的ともいえる演出がさらりと入り、純愛の暴走とも呼べる事件が語られていくのです。

 かなり人を選ぶ作品だと思いますが、例えば、夢野久作(1889~1936年)の小説が好きな方にはたまらない一篇かもしれません。

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 さて、このままだと長くなりそうなので、タイトルに「Part.01」と記入して、ひとまず擱筆させていただきます。近い内に「Part.02」を投稿することができたらと思っております……!

【参考文献】
・芥川竜之介『蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇』岩波文庫、1990年。
・芥川龍之介『或阿呆の一生・侏儒の言葉』角川文庫、2018年改版。
・井上靖『補陀落渡海記――井上靖短篇名作集』講談社文芸文庫、2000年。
・井上靖『楼蘭』新潮文庫、2010年改版。
・宇能鴻一郎『姫君を喰う話――宇能鴻一郎傑作短編集』新潮文庫、2021年。

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