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恍惚

 白いレースのテーブルクロスの上に置かれた、金色のろうそく台。その上では音も立てずに火が揺れている。フロアはふかふかの絨毯で、しかしながら土足のウエイトレスが上品に行き来している。ピントを目の前の君に戻したところ、君の顔は電球色の照明に照らされて、僕の視界の主役に躍り出た。まぶたを閉じた君ははまつげの長さを一層際立たせている。目元のラメは、証明の光を受けて星のように輝いている。スポットライトを浴びた彼女の顔の陰影は、くっきりとした造形を印象付けた。僕は形どった手を動かせないまま、再び奥のテーブルのろうそくへとピントを合わせた。息が次第に詰まり、外界の音が遮断され、心臓はハイギアードし始めた。眼球が飛び出そうなほどの力強い脈打ちを感じ始めた頃、焦点の外で君が目を開いたのが分かった。頬を一筋、ラメを乗せたキラキラが伝うのも分かった。ろうそくが一層灯火を強くした気がしたとき、彼女は言った。
「喜んで。」



「恍惚」
センテンスミキチ

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