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「マッチはいかが?」

「、、、」

今日も凍傷しなくてすむ。

蒸し暑い熱帯夜の都市をエンジンをふかせて自身の存在を機械音でしか表現出来きずに走り抜けるバイク、
バカみたいに笑って体の一部分美としてを晒し、視姦されとりすまして下着を濡らす歩く女、
満員電車の地獄を決まった服で乗り越え、従わされてることを自覚しないで流す汗を誇りにする哀れなサラリーマン。

なんて冷たい世界なんだ。
誰も「自分」というものを持っていない。
ただ時代という風に乗って流される帆船でしかない。
漕ぐ力を無くし無心に方向を決めずに進む幽霊船のような、その鉄面皮の人間に埋もれ、私は今日も「この世」というランニングマシーンを走り続けるように、ただその冷たい世界でもがくけど、変わりやしない。

私も幽霊船だ。
舵を取る力、言ってしまえば操縦士という「自分」がいない、そんな空虚なゴミでしかない。

そもそも操縦士として舵の前に立たされても眺めてるんだけなんだろうな、私は。

哀れだな、私。






もう夕方か。

カタカタカタ、、、。



「渋谷で暇してる人、DM来て欲しいな(*´`)
                        
                          #裏垢女子 #円光 #高校生」



投稿完了。

あ、もう来た。
みんな早いなー。
私は嬉しいけど。


「円光キモッ」
 
暇だね君


「童貞奪ってください、おねがいします」
 
鏡を見てきな、童貞くん


「写真ください」
 
投稿見てねー。
ハイ次。


「返信しろよヤリマン」
 
我慢しろよサル







チャラン♬

「画像が送信されました。」
 
ちん凸なら殺すぞ。

お?PayPayじゃん。
金額も投稿通り。
おっけ、合格

「ありがとうございます♬︎♡
  お時間合わせますよ!!(   ^ω^)」

「20時にハチ公前でおねがいします。」

「わかりました!(◡‿◡ฺ✿)
  写真通りの服装ですので、声をかける際に
『マッチはいかが?』と言ってください!(*ᴗˬᴗ)ペコッ」

「了解です。よろしくお願いします。」







「マッチはいかが?」

「、、、」
私は頷いた。

驚いた。脂ビタビタのおじさんかと思ってたけど、
シャツが似合う色白のおにいさんが来るなんて。
20、、、にも満たないな。
18,19?
まぁでもなんでもいいや、かっこいいし。

今日の温もりはこのイケメンからいただくことにしよう。

私は彼に筋肉痛になるくらいの笑顔と声を作って男の人の求める女の子を演じた。
普段の私を知る人ならこれを見て卑下するだろう。
それぐらい格差があって、情けないと思われる姿だからさ。

いつかの"温もり"が言ってたな、
「情けなくないよ!むしろ俺のために気遣ってくれたんだから!」

ありがとうね。
でもその役を嫌で演じてる訳じゃないんだ。
嫌われたくないの。たとえ一夜の相手でもね?
自分を認めてくれる「誰か」が欲しい。

自分は一人でいられるし馴れ合いなんてする気は無い。
けど、時々独りが辛い。
その寂しさに耐えきれなくなった時いつも身体を温めてもらってる。
ただ、心から落ち着きたい。それだけなの。

そんな自分を見て情けないと思うのも仕方ないだろう。
普段の私は他人に無関心で、会話をしても相手の気持ちを知らずに話し、行動をしている。
そんな私に恨みを持たないわけない。
悪口なんて慣れた。もう「悪」口ですらない。
涙を流すための水はもうとっくに枯れてる。
いや感情の方かな?

孤独になると、人って変わるもんだね。

現場についた私たちはそそくさと準備を進める。
 
当然、行為に至る前のシャワーはマナーとして女である私が先に風呂に入る。
 
オシャレなジャグジーが付いてる広い空間で生温い水を浴びる。

「いつまでこのシャワーみたいな、
  触れたら流れていく関係に続けるんだろ。」

いつの間にかそんな皮肉をして自分の孤独を突きつけてた。

「いや、そんなことない」

ベットで温もりを与えてくれるあの人がいる。
大丈夫、私は1人じゃない。
不安になることなんかない。
そんな悲しいこと考えないで、大丈夫だから。

そう言い聞かせて、私はタオルを巻いてベットに向かった。

「先に入らしてくれてありがと!空いたよん!」

「、、、。」

彼は何も言わない。

「?」

、、、。







、、、、、、。






、、、、、、、、、。













気づけば、私はベットに全裸で大の字で寝てた。

「、、、。」

身を起こして辺りを見た。
そこには彼はいなかった。

あるのは吸殻が残された灰皿と、空いた避妊具の袋。
幸い、お金は机に置いてあった。

「『幸い』、、、、ね。」




温もりなんかない。
私は一人なんかじゃない。


私はずっと「独り」なんだ。



私は深紅の涙流し、深い眠りについた。

「暖かい、、、。」

私は寒さに包まれた。


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