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元祖「日本スゴイ!」を示した「日本の偉さはここだ」と、それが求められた時代背景

 こちら、1933(昭和8)年10月1日発行の雑誌「日の出」付録の「世界に輝く日本の偉さはこゝだ」は、近年の「日本スゴイ!」の元祖のような本として記録に値します。その中身を見る前に、この付録が出た時代を見てみますと、2月には国際連盟総会で42対1の大差で満州国を認めないとしたリットン調査団報告書の内容が採択されたことから国際連盟脱退を正式に通告、3年後の1936年に脱退となることと、1935年に海軍軍縮条約の期限が切れることから「35、6年の危機」と騒がれていたころです。
 つまり、先の見通しを立てずに主要国として最初の連盟脱退となり、再び列強の建艦競争になればとても資金面で追いつけないことは明らかだが、世界に背を向けた以上、新たな条約の締結はできないー。そんな行き当たりばったりの政治・軍事・外交の状況下、不安を吹き飛ばすかのような企画をーと考えられたと容易に推測できます。

四六版160ページとしっかりした冊子

 さて、どんな内容であるか。まず、鳩山文部大臣が序文を寄せています。日本の国民精神、民族性の有意さを強調し「すべての道は日本に通ず」とまで持ち上げています。それこそ比較しようがないと思うのですが。

文部大臣序文。

 全部を紹介することはできませんが、まずは目次で雰囲気を感じ取っていただければ幸いです。だいたいイメージがわくでしょう。実際に優秀な発明や頑張った人物を織り交ぜつつ、やたら精神性やら魂やらが登場します。

勇敢さ、外人に優る日本人の体、とか。
美的趣味や精神性も登場
科学日本に並び負けじ魂と

 せっかくですので、一部をご覧に入れますと、鳥刺しが日本だけのものと思い込み、とんかつが自慢になっています。そして俳人の床屋もいたでしょうが、床屋全部が俳人でもなかろうに…

いろいろ突っ込みどころが

 そして何といっても軍隊自慢。海軍の場合、兵器自慢もありますが、礼儀正しさ、規律の良さも自慢です。もっとも、それは艦同士の競争があり、負けることに依る制裁が育てていたのですが、それは…

規律の正しさも自慢

 陸軍は山中峰太郎が担当。「むやみに強い」とし、それは互いに強いから、と禅問答のような形を呈していき、そして皇室の存在が強さの源と持っていきます。

むやみに強い陸軍
天皇陛下万歳を唱え奉り死ぬ、のは他国にできないと
そんな調子ですから漫画でも
結局は大和魂
海軍の漫画も「神明のかごがある!」

 軍隊など、いろいろ比べても長所があり短所があります。それで、他国と比べようのない精神性を最終的に持ち出しているのが全体の共通点のようです。
           ◇
 ところで、当時の日本人の意識を知る漫画が「産業日本」と題した見開きの中にあるこの一コマ。満州国は日満議定書も交わして堂々と国家と認めているはずですが、その満州で金や石炭が出れば日本が貧乏でなくなるというのは、つまり満州を対等の独立国とは見ていなかったこと、実際は植民地であったことを、支配者目線で自覚していたことが明らかです。現実として、鉱山の採掘権などが日本にだけは認められていたので、そうなる訳です。

満州のものは日本のもの

 最後に、日本の女性は偉いというエピソード。男性が一切をまかせて旅行に出られることを挙げています。これを逆に、女性が貞淑なうえ、一切の家のことを取り仕切れると自慢の種にしていますが、女性に決定権があるはずもなく、姦通罪は女性だけ罰せられるし、女性の労力奉仕に頼っている生活様式なだけで、結論として「女性が偉い」は無理筋でしょう。

姦通罪は女性だけに課せられたという説明はない

 都合よく切り取った内容でも、まあ、雑誌の付録なんだから別に目くじらを立てるわけではありません。娯楽としてであれば、こういうのもありでしょう。ただ、この冊子の貴重さは、当時の社会の雰囲気をある程度反映しているところにあると思うのです。
 そして、今、日本は世界から孤立しているわけではありませんが、経済をはじめさまざまな分野で陰りが見えます。そのような先行きの見えない不安な状況は、このころと通じるものがあると思えます。そんな中で出てくる「日本スゴイ!」が、事実を超えて他国を見下げることで相対的に満足するようなものであるならば、危険な兆候であると思うのです。

関連記事 日本人の体格美を読む(上)
     日本人の体格美を読む(中)ーこちらの本も一部取り上げ
     日本人の体格美を読む(下)ーこちらでもこの本を一部紹介
     世界の批難を浴びつつこの傲慢さ
     日本ヨイ國神の國を示した掛け軸



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