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本と旅する京都 第四回 宇治お茶の旅-堀井七茗園

慌ただしい毎日のなかで、心を落ち着ける時間を本とともに過ごす。最近、少し本との付き合い方が大人になったような気がします。同じように、昔はせっかくの京都だからと綿密に計画を立て、あちらこちらを訪れた観光地を本を携えじっくりと楽しむ。自分の心と向き合いながら、ゆったりとした時間を過ごす、SENSE OF WONDERの本と旅する京都のご提案です。

 爽やかな風を受けながら宇治橋を渡り、平等院の参道を横目に歩くとどこからともなくお茶の良い香りが鼻をくすぐります。日本人でありながら、知っているようで知らないことが多い『日本茶』を訪ねて、茶所宇治に降り立ちました。

おしゃれなロゴの暖簾をくぐって堀井七茗園さんへ

 宇治平等院のほど近くに店をかまえる堀井七茗園ほりいしちめいえん。室町時代から続く奥ノ山茶園を守りお茶の栽培を手掛ける一方で、茶葉を合組ごうぐみ(ブレンド)し、小売店に卸す問屋の役割を担い、もちろんこのお店で様々なお茶を購入することができます。
 今回は、堀井七茗園6代目園主の堀井長太郎さんと、7代目堀井成里乃さんに宇治のお茶の魅力について伺いました。

たくさんの抹茶が挽かれているいる光景は圧巻

 まず、案内してくださったのは、お店の裏手にある製茶場。ドアを開けるとさらに濃くなった抹茶の香りとともに、たくさんの石臼が並び、抹茶がひかれている様子は圧巻です。驚いたことに、ひとつの石臼で1時間にひける抹茶はなんと40gほど。よく販売されている小さな抹茶缶にして約1つ分なんだそう。目を丸くする翠さんを見て、長太郎さんからさらにクイズが飛び出します。
「茶摘みの時期に茶の芽を1㎏摘んで、実際に飲むお茶になるのは何gくらいだとおもいます?」
「500、、いや300g!」
正解は約150gほど。しかも、新芽のころは1㎏摘むのに、だいたい4時間程度かかるそうです。五月の下旬になると葉も大きくなり、短い時間でも量が摘めるようになるけど、美味しさが分散し味が薄くなるそう。

本物のお茶の葉で製茶について教えてもらう

 「命が出てきて最初の部分だから、栄養価も高いしエネルギーが詰まっているんですね。それを手間暇かけて手摘みして、加工して、お抹茶にひいて。こんな話を聞くと、お茶をゆっくりゆっくりセレモニーのように大事に飲みたくなりますね」と翠さん。どんな味がするんだろうと期待が膨らみます。

抹茶「成里乃」

 店舗内のお茶室に移動して、お話を伺いながらお抹茶をいただくことになりました。今回点てていただいた抹茶は「成里乃」。堀井七茗園では、足利義満の時代に開かれた「宇治七茗園」のうちのひとつ、奥ノ山茶園を守り続けています。この茶園で栽培されていた約1500本の在来種の茶の木から、足掛け20年の歳月をかけて、後世に残すべき品種の発見に取り組み、誕生した品種がこの「成里乃」です。

抹茶「成里乃」をお薄でいただく

 お抹茶をひと口飲み、つぶやくように「美味しい」と翠さん。今まで飲んだお抹茶の味と全く違い、苦み渋みが少なくクリーミーな味わい。この「成里乃」は、テアニンという旨味成分が他の緑茶の2倍ほどあるそうです。足利将軍が飲んでいたお茶の木のひとつが、もしかしたらこの茶の木につながっていると想いを馳せると、茶の木とこの味わいを残し、守り、後世に繋いでいくことにロマンを感じます。

 そして、この「成里乃」という名前は、実は7代目の名前から命名されたものです。数年前にお店に戻られたという成里乃さん。現在は事務仕事や仕入れに同行し、合組みは目下勉強中で「堀井七茗園の味を決める合組と仕入れが大事になってくるのですが、この味筋を何より大切に守っていきたいと思っています」と語ってくれました。


6代目長太郎さんから7代目成里乃さんへと確かに引き継がれていく

 宇治に根付いたお茶の心は、親から子、6代目から7代目へとしっかりと受け継がれていました。今を生きる私たちが、こうしてお茶を楽しむことができるのは、日本茶800年の歴史のなかではほんの一瞬ですが、途絶えれば終わり。こうして、連綿とつないでいってくださることに感謝をしながら、お抹茶をいただきました。

堀井七茗園
住所 宇治市宇治妙楽84
電話 0774-23-1118
営業時間 9:00~17:00 定休日 土、日、祝日
公式サイト https://horiishichimeien.com/

出演=松尾翠 撮影=若松亮 撮影補助=岡田亜理寿 文=佐賀裕子 スタリング=Madam Yumiko 撮影協力=松林俊幸


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