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地域のつながりを生み出す“接点”になる保育園。仁慈保幼園が、世田谷代田で目指すもの。

4月1日、世田谷代田に認可保育園「世田谷代田 仁慈保幼園(じんじほようえん)」が誕生しました。場所は同日にオープンした「BONUS TRACK」のすぐ隣。小田急電鉄の線路が地下化したことに伴いできた、下北線路街の一区域での開園です。

この仁慈保幼園は園内にコミュニティスペースやギャラリーも併設し、「地域と関わりながら、新たな教育・保育を生み出していく」事をコンセプトにした保育園です。

なぜ、保育園にコミュニティスペースやギャラリーが併設されるのか。仁慈保幼園が世田谷代田で目指すものは何か。同法人理事 兼 園長の妹尾正教さんにお話を伺いました。

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「地域に開かれた保育園」というチャレンジ


――まず最初に、仁慈保幼園が世田谷代田に開園することになった経緯からお聞かせください。

妹尾:僕らに声がかかったのは2年ほど前です。もともと小田急電鉄さんに「ここを地域の人が集まる場所にしたい」という思いがあり、様々な案を世田谷区と相談していたそうです。その検討の中で、保育園が保育園利用者だけでなく、地域の多世代が交流する場となっている、という話題から「地域に開かれた子育て拠点」というアイデアが生まれ、保育園を起点にしたまちづくりが計画されたと聞いています。

――世田谷区には待機児童が多いという問題もありました。

妹尾:待機児童が最多となっていた世田谷区としては、その考えは絶対あったと思います。特に代田・下北沢地区は待機児童が多いと聞いていました。ただそれだけではなく、小田急電鉄さんの思いを遂げつつ、区内だけではなく、全国にも発信できるような質の高い教育・保育を実践する場としていくというコンセプトの元、世田谷区に相談しながら、小田急電鉄さんがいろいろな保育園を視察する中で、僕らに目を留めてくださった。

――妹尾さんとしては、仁慈保幼園にどんな役割が期待されて声がかかったのだと感じましたか?

妹尾:それは我々の運営方針と密接に関わっていると思います。仁慈保幼園の法人としての歴史は、1927年に鳥取県の米子に開園したところから始まっています。100年近い歴史があるわけですが、20年ほど前に教育内容や保育へのアプローチそのものを大幅に改革しました。

従来の日本の教育は、画一的なことが多かったように思います。仁慈保幼園もその中の一つでした。みんなに同じことをさせて、同じ目標に向かわせる。「個性を育てる」と言いながらも、実際の教育内容はその真逆。僕らは「教育のあり方は本当にこのままでいいのだろうか?」と疑問を抱き、画一的なアプローチではなく、子どもひとりひとりの個性に向き合う保育へと変えました。

仁慈保幼園では、子どもが疑問に思ったことに大人がすぐに答えを出さず、保育者も参加しながら子ども同士で議論をしたり、調べたりします。分からないことには仮説を立て、地域の専門家へと話を聞きに行くこともあります。学びのフィールドを園内で完結させず、外にも広げていくことで、結果的に地域と子どもたち、そして園がつながり、さらに園や子どもたちを介して地域の人同士もつながっていく。僕らはそういうアプローチを実践してきました。

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――なるほど。そういった運営方針が、小田急電鉄さんの「地域に開かれた子育て拠点」というコンセプトに合致したわけですか。

妹尾:そう思います。ただ、僕らは“園の外”に学びの場を広げることはできたけど、“園の中”に地域の人も入ってこられるような場づくりはこれまでできていませんでした。だから、この「世田谷代田 仁慈保幼園」では、園内に地域の人も活用できるコミュニティスペースやギャラリーも併設したことで、保育園を接点として、園と地域とのつながり、地域の人同士のつながりを生み出していきたいと思っています。

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子どもたちの日常に文化活動を

――それは結果として、子どもの教育にとってもいい刺激になる、と?

妹尾:そうです。例えば、子どもが芸術に触れるとなったら、いままでは美術館などに見学に行くしかなかった。でも、園内にギャラリーがあれば、日常の中にアートを置くことができる。どの家にも文化はあって、子どもは自宅で流れている音楽とか、両親の本棚とかに影響を受けながら成長します。日常の中でいろんなものを吸収して、自分の価値を育てていくわけです。

ほかにも、コミュニティスペースでは演劇やアコースティックライブの上演も考えています。そういう文化活動が身近で行われることで、子どもたちにとっては刺激になると思いますし、地域の方々にとっても子どもたちからいろんな刺激を受けるでしょう。大げさに言えば、そういう相互の刺激が化学反応を起こして、世田谷代田から新しい文化が生まれていけばいいなと思っています。

――それはカルチャーの発信地である下北線路街ならではのアプローチですね。

妹尾:実際に開園してみると、このエリアには個性的な人がたくさんいると感じます。開園したばかりの頃に入り口に立っていたら、「うちの主人が『園長がロン毛で良かった』と言っていました」と保護者の方に言われました(笑)。個人的にも包容力があり、新たなチャレンジがやりやすい土地だと感じています。

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――園に対する地域からの反響はいかがでしょう?

妹尾:一見、保育園っぽくない建物なので、最初はここが何の場所なのか分かりにくかったみたいです。たくさんの方が「ここは何だ?」という感じで写真を撮られていました。でも、僕らは保育園に対するそういう既成概念こそ崩していきたいんです。

――園を囲む塀もすごく低いですよね。子どもの背丈よりちょっと高いかな、くらいしかない。見学させていただいて、外から地域の人が子どもたちを眺めている光景が印象的でした。

妹尾:もちろん、セキュリティの問題はあります。ただ、世の中の保育園や学校が地域との間に壁を作っている中で、僕らはセキュリティ面を解決したうえで、できる限り開いていきたい。おそらく、ここまで地域に対して開かれた施設は、教育業界においてあまりない試みだと思います。

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大人がいきいきしている姿を見せることが良い教育になる

――施設を作るうえで大切にしたことは何でしょう?

妹尾:子どもたちのより良い保育に資する、ということが第一義です。そのうえで言えば、やはり「開く」ということと、もうひとつはコミュニティスペースやギャラリーの具体的な用途を決めすぎないことですね。最初から「このスペースではこれをやります」と決めてしまうと、かえって使いづらい空間になると思いました。

だから、いろいろな意見はあったものの、あまり決めすぎずに、ある程度は自由に活用できるような空間づくりを心がけました。ここは商業施設ではなく公共の場所なので、地域の人のさまざまな要望に応えられる場所である必要があります。

――「〇〇のための場所」として作ってしまうと、地域にニーズがなかったら使えなくなってしまいます。

妹尾:どんなニーズがあるかは、僕らが実際に動いて、地域の方々の想いがわかってきて初めて見えてきます。いまはそのスタート地点にようやく立ちかけているところですね。それに同じ下北線路街といえど、下北沢と代田では住民の方々の意識も微妙に違います。そこをちゃんとわかっていないと、地域に受け入れられる園にはならないでしょう。

――「子ども向け」ということは考えなかった?

妹尾:「子どもの教育に資する施設」と「子ども向けの施設」はちょっと違うと思います。コミュニティスペースやギャラリーは、子どもに向けて何かをやる空間ではなく、あくまで、ここにいらっしゃる方々が自分らしさを発揮できる空間にしたい。そういう大人たちと子どもが接点を持つことで、子どもが成長していく。子どもは大人を通じて社会を見ていますから、大人が自己発揮している姿を見せることが良い学びになると思っています。

――施設の設計においても、あくまで実現したい理念から発想しているわけですね。

妹尾:そこは強調したいですね。「保育園という箱ありき」で発想したわけではないんです。園内のギャラリーの2階にはアトリエもありますが、それも「アートを展示して終わり」ではなく、作家の方に園内で制作もしてもらいたいからです。その姿を見せることも、子どもたちには刺激になる。ゆくゆくは子どもたちと作家の人たちが一緒に何かを作るということもやってみたいですね。

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地域と一体になった施設を目指す

――コロナ禍の影響もあり、先々の見通しには不透明なところも多いですが、今後の展開の予定などございますか?

妹尾:まず子どもたちがより良い保育を受けられるようにする。それが大前提で、あとは先ほどから申し上げてきたように、僕らから「こういうことをやりたい」と発信するだけでなく、地域に入り込むことで、「こういう企画をやってほしい」という要望が集まるようにしていきたい。そのうえで演劇や音楽、写真、絵画や造形など、いろんな表現者の方々にも入ってきてもらいたいです。

少し前に、新型コロナウィルスの影響で帰国できなくなったイタリア人作家の方がいらっしゃいました。その方は写真家で画家でもあるんですけど、この施設を見て、来年あたりにここで子どもたちと生活をともにしながら作品を制作してみたいと言ってくださった。

そういうことができるようになれば、子どもたちにも作品を手掛けてもらい、園全体をギャラリーのようにして、地域の方々に見てもらうといったこともできるんじゃないかと思っています。保護者の方にもさまざまな表現者がいらっしゃいますから、親と子の新しいかたちの交流にもつながるでしょう。

もちろん、まだ開園したばかりなので、できる範囲から一歩一歩、ではありますが、お隣に「BONUS TRACK」のような面白い場所もありますし、最終的には園内だけでなく、下北沢、代田の街全体と一緒になった大きな企画もやっていきたいですね。

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妹尾正教 さん(写真右)
鳥取県米子市にある仁慈保幼園を始め、多摩川、世田谷、そして今回取材させていただいた世田谷代田の仁慈保幼園を運営。40~50年後のより良い社会のために、現場の保育士と共に、保育の新と真を問いながら探求し創造し続けている。

世田谷代田仁慈保幼園スタッフの根本京子 さん、菊地みぎわ さんと共に。


撮影/石原敦志 取材・文/小山田裕哉 編集/木村俊介(散歩社)


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