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労大ハンドブック春闘2022(労働大学出版センター)読後評

機関紙用に労働組合役員向け学習資料の読後評という依頼があったので、ウンウン唸りながら作成。
少しでも現場の青年の実際に感じている気分や生の声を入れ込むことを意識したけど。。。


労大ハンドブック春闘2022(労働大学出版センター)

わたしは自治体職場で働いています。労働組合で2022春闘にあたり、学習資料として本書を手に取りました。

本書では2022春闘情勢と課題が整理されています。課題は大きく分けて二つあります。一つは「コロナ禍の2年間ですっかり傷んでしまった雇用と賃金の回復」です。
新型コロナ感染症は基礎疾患を抱える人ほど重症化リスクが高いと言われていますが、それと同じく、コロナ禍以前から雇用が不安定で賃金が低かった労働者ほど生活への影響が深刻です。  

自治体の職場で働くなかで、家賃や光熱費の支払いが困難なほど生活に困窮する住民と関わることがあります。これは、当人の努力不足等の自己責任で片付く問題ではなく、労働者が企業等のコストカットのため次々と非正規に置き換えられたことによる格差の拡大が背景にあります。
本書の中でも、1997年からの23年間で、「ワーキングプア」と呼ばれる年収200万円以下の労働者が351万人増加し、労働者全体の22.2%を占めているとのデータが示されています。

わたし自身も、リーマンショック・東日本大震災の影響の残る2011年に就職活動を経験しましたが、例年に比べて新卒採用者が絞られている時期でもあり、「内定切り」という言葉が流行したのを覚えています。
何10社も不採用となり、やっとの思いで現在の職場に採用されましたが、本当に運が良かっただけだと思います。

多くの求職者が一生懸命に努力しても正規職員のポストは限られており、採用されても厳しい賃金状況で苦しい生活を強いられています。
現在の状況はコロナ禍によって生み出された一時的なものでなはなく、わたしたちが目をそらしてきた社会システムの矛盾が表面化したということだと思います。

もう一つの課題は「日本の賃金下落に歯止めをかけ、雇用の改善と格差の是正を推し進めるとともに、労働者全体の賃金・労働条件を底上げが必要」というものです。
日本の賃金は長年に渡り低下しており、近年では韓国にも平均賃金を抜かれ、話題となりました。実質賃金はピーク時から16.2%も下落し、本書で示されているデータでも20年以上に渡って賃金の低迷が続いているのは先進国では日本だけだと明らかにされています。

一方で、自民党政権による法人税の減税等の優遇政策により、大企業が史上最高益を更新し、株主配当が大幅に増加しています。大企業の安定は、一部の富裕層の富の増加にしかつながらず、大多数の労働者の生活改善は労働組合による要求と闘いでしか勝ち取られないことが改めて確認されています。

また、このコロナ禍を「絶好のチャンス」として、合理化が推進されていることにも警戒が必要です。オンライン会議やテレワークの活用は通勤時間の負担減や、長時間労働の縮減等、労働者側のメリットもあるとされていますが、通信環境の整備が自己負担となったり、労働時間の管理があいまいになる危険性があります。
何より、職場の仲間と隔絶され、労働者個々の孤立を招き、業務の抱え込みやメンタル疾患の危険性も報告されており、ここでも労働組合によるチェック機能を強化し、使用者側の都合による合理化に立ち向かっていく必要があります。

長い歴史を持つ春闘ですが、賃上げのほか、非正規労働者の処遇改善、長時間労働・過労死の予防、ジェンダー平等や、新たに「デジタル革命」「気候変動」への対応など、社会の変化に対応していかなくてはなりません。

先日、本書を学習資料として地域の労組青年部役員の青年たちと学習会を開催しました。第2章の「賃金とはなにか」を中心に読み合せと討論をしましたが、ある仲間からは「人事評価の時期が10月になっているが、自分の仕事は年度末にならないと成否が判断できない。評価面談も毎回5分ほどで終わり、正当な評価がされているとは思えない」「このハンドブックを読むまで、この不満を労組に相談するという発想がなかった」と話していました。
また、賃金の水準について、連合の試算する「労働者が最低限の生活を営むのに必要な賃金水準」と、政府が家計支出の標準としている人事院の「標準生計費」の差について討論しました。夫婦と子どもひとりの世帯の年間必要生計費が、連合で月額34万6389円、人事院は20万5820円となっています。連合の試算は現在の生活に照らし、ある程度納得できるものの、人事院の試算はわたしたちのように地方に住んでいる労働者から見ると納得のいくものではなく、「これでは生活ではなく、ぎりぎり生存しているだけになる」「働いて寝るだけの日々を想定しているのか」という感想がありました。今回の学習会を開催してみて、このような実態討論の場をもっと作っていかなければ、労働者がどんな状況に追い込まれているかをわたしたち自身が認識することもできず、労働組合へ押し上げていくこともできないと思いました。

報道では、連合の芳野会長が「今春闘では労働組合が『人への投資』を積極的に求める『未来づくり春闘』だ」と発言し、春闘方針でも「今こそ『働くことを軸とする安心社会』の実現に向けて、働く仲間の力を結集し現状を動かしていくべき時である」とされています。
しかし、地域においては、連合の取り組みは単発の宣伝行動や労組役員同士の情報交換に限られ、職場の組合員や未組織労働者に届く運動にはなっていないのが現状です。
わたしもこの本で学んだことを職場や地域の仲間と共有し、小規模でも学習の場を作り、少しでも国民春闘の前進のために運動していきたいと思います。

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