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ベクションの解説 <序>


妹尾 武治(九州大学芸術工学研究院)
村田 佳代子(神戸学院大学)



if I,  did not vection?

ベクションとは、視覚誘導性自己移動感覚のことを意味する。広域な視野に、一様な運動刺激が提示されると、刺激の運動方向と反対の方向に自己身体の錯覚的な移動感覚が生じる。この錯覚のことをベクションと呼ぶ。ベクションは身近な生活の中にも頻繁に現れる。例えば、電車に乗り込んだ状態で、対面の電車が発車する様子を見ていると、自分の乗り込んでいる電車が動き始めたのではないかと思い、はっとした経験は無いだろうか。これはトレインイリュージョンと呼ばれるベクションの好例である。その他にも、自動車運転において、信号で停車している際に、隣のレーンの車(特に大きなトラックなど)が自分の車よりも先に発進した際に、自分の車が下がってしまったと思って焦った経験は無いだろうか。これもベクションの好例である。

現在では、映画やアミューズメントパークにも、ベクションのCG映像やデジタルデバイスを駆使したアトラクションが多数存在している(徳永ら、2016)。日本を代表するテーマパーク、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン内にあるアトラクション「アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド 4K3D」や「ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー」、東京ディズニーリゾートの「ソアリン:ファンタスティック・フライト」など、多くのアトラクションでベクションの体験を楽しむことができる。

また、家庭用テレビが大型化し、高精細化したことで、アニメーションなどのコンテンツで、ベクションを効果的に用いた作品などが多数存在している。

Train Illusion, made by H. M?. Kanayan.
H. M. KANAYAN

上記は、10年程前に妹尾らが執筆したベクションの総説論文(認知科学)の冒頭だ。この10年で技術と世界は大きく転換し、ベクションの"社会における"
定義や価値が根底から変わったと思っている。

ベクションはなぜ楽しいのか?なぜベクションなのか?その問いの価値は、22年以上一貫して同じだが、その意味を理解する者たちの数が変わってくれた。

our logo,  made by George Hiramatsu.

ベクション(錯覚)は人を魅了する。その初期の作品は、もっぱらアナログなものだった。1895年“Haunted Swing Illusion”というタイトルの論文が、ウッドによって発表されている(Wood、1895)。ホーンテッド・スウィングとは、20人程度が同時に巨大なブランコ状の座席に着き、そのブランコを取り囲む家の内装を模した壁、天井、地面がぐるぐると回転するというアトラクション。つまりビックリハウスだ。最古のものは、Atlantic City’s BoardwalkのAmariah Lakeに1890年代初頭から稼働していた。

1900年にパリ万博が開催される。このパリ万博は、ベクションの博覧会と言い得るようなものであり、ベクションの歴史を語る上で外せないものである。具体的には、シネオラマ、マレオラマ、トランス・シベリアンという三つのベクションを活用したアトラクションが開発された。これらの詳細については青木卓也らによる2020年の日本バーチャルリアリティ学会論文『娯楽コンテンツとしてのベクションの歴史研究』を参照して欲しい(誰でも閲覧が可能である)。

Inspired by Wakiyama Shinji and Tatsuro Ishii.

 1900年にジェームズ・スチュアート・ブラックトン(James Stuart Blackton)が「The Enchanted Drawing」という作品を初めてスタンダード・フィルムに記録したことがアニメーションの歴史における大きな一歩となり、ここから多くのアニメーションが各国で作られ始める。そうした中で、我々が見つけうる限りの現存最古のベクション・シーン(ベクションを起こしうる映像シーンのこととする)は、1915年にアメリカのEssanay Studiosから発表されたDreamy Dudシリーズの「He Resolves Not to Smoke」に見られる。月に登った主人公が、そこから地面に向かって落下する様子が描かれており、このベクション・シーンは16秒にも及んでいた。アニメ表現によるベクション・シーンの登場は、人類が体験出来る移動感覚を大幅に増進した。

the moment we "Lost".


 ウォルト・ディズニーが監督するアニメーション作品にも、ベクション・シーンは数多く登場する。ウォルト・ディズニーが最初に立ち上げたアニメーション映画スタジオ「Laugh-O-Gram Studio」における作品にも、ベクション・シーンはしばしば見られる。特に1922年の「The Four Musicians of Bremen」には、7分程度の作品だがベクション・シーンは90秒以上登場しており、砲弾に乗っての空中移動など、非現実的な移動体験の共有をし、作品のテンポ感を向上させるような演出となっている。さらに、ディズニープロダクションの草創期の人気アニメ作品、1929年の『蒸気船ウイリー』や『Mickey’s Choo-Choo』にも、主人公ミッキーの主観視点での移動場面が描かれており、ベクションが生じうるシーンが存在する。

日本では、1917年に国内初のアニメーション映画が制作・公開され、ここから日本のアニメーションの歴史が始まることになる。現存最古の日本のベクション・シーンと考えられるものは1924年、ナカジマ活動写眞部によって制作された「教育お伽漫画 兎と亀」に見られ、亀やうさぎが走るのに合わせてカメラワークが移動し、ベクションが引き起こされる。また、製作年・作者が不詳である「浦島太郎(仮)」は1924年よりも古い時代に制作されていた可能性もあり、その場合、浦島太郎が船で海を渡るシーンが日本における最古のアニメーションによるベクション・シーンと考えられる。


月 兎
「ずっと浦島太郎の話がしたかった…」
ミナモ シズカ ニ カオル


 ちなみに、この頃「ベクション」という表現(の源泉)が世界で初めて登場している。Fischer and Kornmüller (1930)の論文中に、彼らによって下記の表現がなされている。

「移動していることの絶対的感覚、体が動いていることの感覚。我はこの感覚をA. Tshcermak (1928, 1930)の示唆に基づいて、“ベクショネン”と呼ぶこととする。」 (p. 276)(ドイツ語の原著を著者が抜粋して翻訳した)。

 このベクショネンがベクションの語源となっており、その後、英語のVectionへと変遷したようである。 (Palmisano et al., 2015)。


Sensorama, the other side of the Matrix, i.e. Monad.

1962年には、Morton Heilig によって画期的なVR没入体験が提供される。Sensoramaという装置が開発されたのである。感覚を意味する「sence」とジオラマ「giorama」から名付けられたVR体験ゲーム機であった。着座した状態で、フード状の視覚刺激提示部に頭を入れ、バイクのハンドルを握り、錯覚的な移動を体験するというゲームであった。ベクションの視覚刺激に加えて、聴覚刺激としてのエンジン音、触覚刺激としてハンドルの振動、さらに顔に前方から風が当たった。嗅覚刺激も同時に提示され、ピザ店の近くではピザの匂いがする、という多感覚を総合的に刺激するVRマシンであった。Sensoramaは時代を先取ったものであったが、装置の維持費用と初期投資の大きさの問題から、広く浸透するには至らなかった。しかし、多感覚を全て刺激するという概念は2010年代になり、再度その考え方のベクトルの重要性が理解されており、改めて、Sensoramaの先見性が注目されている。

フライト・シミュレータを一般人に体験させるコンテンツが1980年代にディズニープロダクションによって制作された。『スター・ツアーズ』というアトラクションである。『スター・ツアーズ』は、レディフュージョン社製のフライト・シミュレータを応用させたアトラクションで、1987年に、アナハイムのディズニーランドに設置され、1989年には東京ディズニーランドにも設置された。多くの一般人から人気を博し、その後10年以上にわたって人気アトラクションの一つであり続けた。著者も少年時代に、このアトラクションを好み、何度も乗車した記憶がある。この技術は、東京ディズニーシーの「ソアリン:ファンタスティック・フライト」にも見られるように、現在でも多くのアミューズメントパークにおいて、ベクションを活用したアトラクションの中で活用されている。個別に発展はあるものの、現在のベクションアトラクションはこの時代にその基本構造が完成していたと考えることが出来るだろう。

 1970年代に入ると半導体価格の大幅な低下によって、ゲームセンターなどの業務用ゲーム(アーケードゲーム)の形で、一般の人々にもベクションが遊ばれるようになった。

DRIVE MOBILE(Sega, 1968)やMoto Champ(Sega, 1973)はコンピュータゲームというよりは、アナログゲームの範疇であるが、オプティカルフローを用いた最初期のゲームとして特筆すべきものである。DRIVE MOBILEは、道路が描かれたベルト状のスクリーンを水平に設置し、ローラーの回転によってベルトが奥から手前に流れることでオプティカルフローによる移動感を演出している。

1976年になると、Night driver(Atari)やFonz(Sega)といったゲームで、近くの像は遠くの像と比べて大きく描くという遠近法的な表現で、一人称に近い視点で擬似的な奥行き方向の運動感覚を表現できるようになった。

Space Harrier

 その後こういったサブカル媒体(ゲームやアニメ)は、CG(Computer Graphics)という表現技法を獲得し、さらに移動場面の表現の幅を増して行った。新しい移動方法の発明が、新しい移動体験を産み、その移動撮影によって、体験が共有された時代から、新しい移動表現(アニメーション&CG)が、実撮影不可能なほどの、新しい移動体験を提供する時代へと変革された。例えば、火山の火口や、極小の瓶の中への突入移動や、体内に飛び込むような移動場面、火星まで飛んで行くことや、とんでもなく複雑な回転移動も可能になった。ベクション表現が実体験を追い越した。

Now many young ask me, which is the real?

アニメーション中のベクション・シーンについては、徳永らが行った研究を紹介したい。ベクション・シーンを、表現技法(手描き、CGと手描き、CGのみ)で分類し、そのシーンで得られるベクションの主観的強度をプロットすると、1960年代から70年代においては、手描きのみの表現が圧倒的であり、かつ得られるベクション強度も弱かったことがわかる。80年代以降、CGが手描きに交えて用いられるようになり、得られるベクション強度も増大していく。2000年代以降は、CGのみの表現も多くなり、得られるベクション強度も極めて大きくなっていく様子がグラフからわかる(徳永ら, 2015 & 2016)。


4DXは、 2013年に名古屋市の中川コロナワールドに日本で初めて導入されて以来、日本でも展開を見せている。4DXを世界初導入したCJ CGVは、臨場感を演出する次世代型映画上映システムとしてさらに、「ScreenX」を2012年に開発した。ScreenXは観客の正面だけでなく、その両側面を合わせた3面に映像が投影され、視野全体に映像を提示できる上映設備であり、日本を含め世界中の映画館に拡大を見せている。また、この4DXとScreenXを掛け合わせた上映システム、「4DX with ScreenX」が2017年に開発・公開された。日本でも、2019年7月にキュープラザ池袋内のシネマコンプレックス「グランドシネマサンシャイン」に国内初導入される。視野全体への映像の提示と、触覚・嗅覚への刺激によりこれまで以上に観客は迫力ある体験型の映画を楽しめるようになった。

 2020年以降、VRは主にヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いて行われている(Palmisano et al., 2015; Kim et al., 2015; Riecke, 2015; Keshavarz et al., 2017)。それは、その方がリアルだから。


What is real?


『幼女戦記』などを制作したアニメーション監督、上村泰は2019年時のインタビューで、「間もなくVRアニメ」が登場すると言っていた。2021年秋『リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様』は、ファンの個人的な選好に応じて2パターンの3D CGアニメーションが制作された。そこでは同一の場面の異なる視点からの描画が試されている。空間自体を全て作り込み、キャラクターにも3Dのモデリングがなされているため、もはや観客は好きな場所から、その空間を眺めることが可能だ。これがVRアニメである。同期して、メタバースの急激な浸透によって、VR空間への興味の高まりが起こっている。

2021年に開催された東京パラリンピックの閉会式では、片翼の少女の飛行機がベクション映像のプロジェクションマッピングによって、空を飛んだ。多様性。弱者にそのままの姿で自己移動感を与える。

 そして、2024年。

パリ五輪。

圧倒的事実として、物理世界では時間が経過し、モノは変わる。

松岡修造さえも、何かをさました。覚めるために、いまは眠らねばならない。動けない自分はそのためにある。だから自分を守れ。

それでいい 大丈夫だ
手を繋ぎにいく 待っていて

ガンディーの不服従は、社会主義革命の本質。実行手段。
星の種たちは、今まさに革命を起こしている。



バカヤロ!気づかせちゃってどうするんだよ!
      
        たけちゃんマン


 

ベクションとは何か?

その「感性」をとらえたい。

 その目的の前であれば、方法論を限定する必要はない。脳でも身体でも、心理学でも、言語でも、アートでも文学でも。求めるべきだと思う。

 

 

科学におけるベクションの歴史

ベクションに関する科学的な記述は,エルンスト・マッハ(音速の単位「マッハ」や「マッハバンド」でも知られる多才な科学者である)が1875年に桟橋から川の流れを見ているときに,川の流れとは反対方向に自己身体が動いて知覚されたという記述にまで遡れる。

天動説から地動説への発想の転換には、ベクションの概念が存在すると言う指摘もある(伊藤裕之, 2019, Personal Communication)。従って、ガリレオ以前に地動説を指摘していた、レオナルド・ダヴィンチも、ベクションの存在について知っていたとしても、なんら不思議ではない。

中国の創世神話である『太平御覧』の第二巻『三五暦記』や『淮南子』には、山や大陸が実際に移動する場面が描かれており、世界と自分との相対運動という概念は、太古からあることがわかる。李白の漢詩『渡荆门送别』においても、川、月、空、雲と自分という“世界と自分との相互の位置関係の揺らぎ“を謳っている。日本においても『古事記』の天岩戸のシーンで、神々がどっと笑うことで、天地が揺れたという表現があり、周囲を囲う大きな音が自分と世界の相対的な位置関係に影響することが示されている。おそらく人類の最初期からベクションはそこにあった。

否、ヒトよりも先に。
原郷に。

定量的なベクションの計測,科学的なベクション実験の祖は,ブラントらが1973年にExperimental Brain Research誌上に発表した論文となる。彼らの実験は,コンピュータ制御の回転ドラムの内側に被験者を入れるというものだった。矩形波状に白黒に塗り分けられた内壁を観察させてベクションを生起させたのである。そして,その主観的印象(マグニチュード推定)や持続時間,主観的自己運動速度を計測した。

 ベクションの実験では3つの指標をその強度を表すものとして採用するケースが多い。3つとは,潜時,持続時間,マグニチュード(主観的強度)である。図9に模式図を示した。被験者に課す課題として,ベクションが生じている間,応答ボタンを押し続けるというものがある。このボタン押しによって,潜時と持続時間という2つの指標が取得できる。

 潜時とは,刺激提示後から一番はじめのボタン押しまでにかかった時間である。ベクションが強ければ,潜時は短くなり,ベクションがすぐに生じることが知られている。

ベクションの実験では,刺激の提示時間は,短いものでは20秒程度,長いものでは数分となる。この刺激の提示時間のうち,何秒間ボタンが押されていたか?が「持続時間」となる。すなわち,「ベクションが感じられる」としてボタン押しの報告がなされていた時間が,トータルで一体何秒間だったのかが持続時間として記録されるのである。ベクションが強ければ,ベクションが生じない脱落時間が短くなるため,結果として持続時間は長くなる。

 最後の一つ、マグニチュードについて。これは、ベクションを引き起こす刺激の提示終了後に,その刺激で得られたベクションの強度に主観的に得点を与えるというものである。その得点がそのままマグニチュードとなる。なんらかの比較対象となる刺激,専門用語で言えば,「標準刺激」で得られたベクションの強度と比較して,主観的強度に点数を付けて答える場合が一般的である。これは心理学におけるマグニチュード推定法と呼ばれる方法である。そのため、この指標のことを簡易的に「マグニチュード」と表現することがある。もちろん、「主観評価」と言い換えることも可能だし、「レーティング (Rating)」と呼ばれることもある。標準刺激を用いずに,ただ主観的な強度に0から100点満点や10点満点などで点数を与えるというような場合も存在する。それらも広い意味でベクションのマグニチュード強度と呼ばれており,多用されている。

https://journals.sagepub.com/doi/epub/10.1177/2041669517742176

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/2041669518774069

Seno et al. (2017, i-Perception)とSeno et al. (2018, i-Perception)の二つの論文で、我々はベクションの数理モデル(OPVM)を構築した。実実験で得られた3指標の実際的な振る舞いをベースにし、図のようなモデルを構築した。内的なベクションの強さは、サイン波状に上下動しながら、全体として強くなって行く(図中の波線)。ベクションが知覚的に得られるのは、この波が一定の閾値よりも大きくなった時と考えることが出来る(図中緑の線)。波がはじめて閾値を越えるまでにかかった時間が潜時である。波が閾値を越えている時間の総計が持続時間であり、波が閾値を越えている領域の面積がマグニチュードに相当する。このモデルをベースにして、ベクションの3指標のシミュレーション値を1000万回の試行で求め、実データと比較した結果、非常に良い合致が得られた。ただし、ベクションを数理モデルを用いて考えるという取り組みはまだまだ少ない。

 

生理指標との関係

 3指標以外には,身体動揺の大きさ,眼球運動の大きさや瞳孔のサイズの変化などがベクション強度を傍証するものとして検討されて来た。古くは,1974年からベクション実験の祖であるブラント達が既に眼球運動の実験でベクションとの関係性に追及している。その後も2000年代のキムとパルミザノの一連の頭部運動の研究などがある。キムによれば、ベクションの主観的強度が増加するのに先んじて特定の眼球運動が生じることが示されている.

兄弟子, Juno Kim.
He is the best genius, having the "heart", I've ever met.


重心動揺もベクションの客観的指標となる可能性がある.重心動揺とは、映像視聴時の体の揺れのことを指す.ロンベルク立位というまっすぐ立った状態で、ベクション映像を視聴し、その体験が体をどの程度揺らすのかを調べるのである。パルミザノらは、閉眼時と開眼時の重心移動の総軌跡長の比から、その人物が感じるベクションの主観的強度にある程度の相関があることを示している。つまり個人の重心動揺の特性からその人物が感じるベクションの強度をある程度予測できることが明らかにされているのである。

しかしながら生理指標には根本的な問題が存在する。それは、それらがベクションの強さと完全なる相関を示す訳ではないことがすでに知られているということだ。例えば,身体動揺は大きく出るのに,ベクションは生じないケースもあれば,ベクションは強いのに,体はまったく揺れないというケースも存在している。したがって,ベクションという主観世界を記述する際には,先に示した3指標のデータそれだけをもってして,ある意味で主観世界に閉じた完結した世界観を示してしまっても良いように著者は考えている。生理指標はあくまでも脇役として,ベクションの傍証程度に考えるのが良いように思う。 

ベクション業界では、現在、より客観的で精度が高い指標が作れないかという挑戦がなされている。しかし実際の所、圧倒的に優れた新しい指標は作れていない。例えば、ベクションの生理指標として刺激視聴後の唾液中のストレスホルモンの量を算出すると言う試みもなされているが、やはりこれも主観的なベクションの強度と綺麗に相関する訳では無い。また、ベクションに関連する脳の活動が、近年のfMRIの研究(Wada et al.、2015; Uesaki et al.、2016)で明らかになって来ている。ここから、脳の活動の程度をベクション強度の指標にすれば良いのではないかという発案も存在する。しかし、脳活動は誰でも簡単には計測出来ない。そのため、実用段階にはまだまだ遠いのが現状である。このように、現在もより良い新しいベクションの指標は、模索が続いており今後の発展が強く求められている。

Fujiiらはフレームレート数と3指標値の関係を調べ,3指標値とモーションエナジーの関係性を考察した (Fujii et al., 2018)。

モーションエナジーとは非常にざっくり誤解を恐れずに説明すれば、脳の反応量と相関する運動の物理的主観的量である。飯田らは、Fujiiらの先行研究の測定結果を用いて,これら3指標のフレームレートに応じた振る舞いを表す一般的な数理モデルを構築した (Iida et al., 2021, VSS; 飯田ら, 2020)。それによって、人間の脳の第一視覚野の活動量と対応関係のある、ベクションの心理物理量のモデル化を実現した。

Motion energyからベクションを考える思想は、斜め効果(Oblique effect)とベクションの関係について調べたFujiiの論文にも流れている。ハイパーコラムにおける、斜め線分担当の細胞は少ない。そのため、斜めへの運動から生じるmotion energyは乏しい。これに対応して、初期視覚反応は斜め方向に感度が低いことが多い。その例にベクションも漏れなかった。

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/2041669519899108

2f+3f, made by Kitaoka Akiyoshi.

Gurnseyらは1997年に、motion energyに乏しい運動刺激では、ベクションが起こりにくいことを報告しているし、HarrisやAshidaらも同時期に、motion energyと眼球運動の駆動、姿勢反応の駆動が相関することを報告している。


Mehr Licht


徳永らの実験で用いた、アニメ中に見られたベクションシーン。それを特徴次元の解析から、オプティカルフローを自動抽出し、動画を生成する。そうやって出来たオプティカルフローと元のアニメ動画で、生じるベクションの主観強度を我々は比較した。

この方法で作ったオプティカルフローと元動画を、マカクザルに見せ、彼らの脳細胞の反応の違いを、MTやV1と呼ばれる部位で確認、取得してあった。

だから2つの刺激の間で生じたベクション強度の差は、オプティカルフローのボトムアップ的処理以上のなんらかの脳内の余剰産物の効果を表している、僕たちはそう主張した。

生理学的知見が、ベクション強度(こころ)の差に利用できた。

そういう30年が終わった

NCC的アプローチ。
NCC means Neural Correlates of Consciousness…
NTT means Nao To in Tiraimi.


脳の穴はもう埋まってる。
それははじめから、そうだった。
そんなこと知っていたはずだったのにね…




Good-Bye, my brain,
Good-Bye, my Dad.






I've been, and will be



always






心理学者







forever so…


 

次回  『ベクションの解説 <波> 』 へ続く


 

 

 


 

 

 






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