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【掘り返し日記】やべーカルト集団が居座ってる山の麓の喫茶店でバイトしてた話

過去、転職が決まるまでの間にアルバイトをしていた時期の話をしたいと思う。
20代前半の1年未満の話だ。数か月間の話なのに今でも思い出すと少し心臓がバクバクする。たぶんこれが本当のトラウマというやつだと思う。

私はこの話をネットでするのがかなり怖い。なぜなら特定される要素が多すぎるからである。
主要なワードで調べたら今でも2ちゃん(5ちゃん)ヲチスレログが残っているし、その話を書いているブログなんかも出てくる。
単語で検索をかければネットに慣れてる人なら場所ぐらいはさくっと特定できてしまうのである。当時の関係者なら読むだけでなんか分かると思う。
……のでボカシとフェイクを入れたりしています。(もう何年も経過しているので調べてもらってもいいんだけど、さらっと読んで忘れていただけたらありがたいです。)

1.
 どうせバイトをするなら、なにか面白みが得られる経験値のたまるものか、好みの情報が得られるものがいいなとぼんやり考えていた私は中学生の頃にでかけ先で立ち寄った喫茶店のことを思い出していた。
山へ登る道の中腹にある立地の素晴らしいいかにもな古民家で、散歩休憩がてら父と立ち寄り店前の野点でお茶と茶菓子をいただいた。
今でこそ改装した古民家カフェが増えた印象があるが、当時はまだチェーン喫茶店よりそういった個人経営で古民家喫茶店というのは少し珍しいなといった感じだったと思う。
流行のはしりだったのだ。中学生時に見たときは憧れたものである。

思い出にふけながら、店名も知らんけどあの店ってまだやってたりすんのかな……とおもむろにワード検索をPCでかけるとなんとヒットした。まだそのままの姿で営業していた。
かなり古いタイプの手作り感あふれるWEBサイトに四季の建物の写真が潰れ気味の小さい画像でのっていた。ページをいくつか飛ぶとなんとアルバイト募集のページも残っていた。ロケーションまじでいいな、ここで働くの面白そうだな。経営している人の話も聞いてみたいし……もしかしたらおもしろレポマンガくらい描けるエピにめぐり会うかもな?などと、つくづくオタクの動機でアルバイトへ応募することにした。
一応サイトの更新はしているみたいだし、聞いてみるだけやってみるかと思い連絡を入れた。女性店員が電話をとり、一応面接しますとのことだったので再訪することとなった。

電車で片道30分、駅を降りて面接のために古民家に向かう道すがら、声をかけられて立ち止まった。
「すいませ~~~~ん!こんにちは~~~~~!」
「この先で、カフェやってるんですけどぉカレーとかお弁当とか美味しいんで~~~きてください!」
・・・・・・こんな感じだったと思う。立ち止まったらテンション高い男の人にビラを渡された。

「あ、急いでるので……」
「この上に用事ですか~~~???よかったら車出しますよ~!」
やけに馴れ馴れしい感じだ。

いやこわいわ。なんでよく知りもしない相手の車に乗ると思っているんだ。断ってるし、カフェには行かないんだけど……
そんなことより面接いけるかなという緊張でそれどころじゃなかったのだが、ここで違和感を覚えておくべきだったのだ。この出会いがすべての元凶である。

2.
喫茶店からの指定時間に合わせ、面接に来たものです。と伝えるとお客さんが続いていて少し時間がかかるのでこちらで待っていてくださいと席を案内された。
少し待って店内が空いてくると店長と思われる方からお待たせしましたと声をかけられ、面接はスタートした。
どうやってバイト要項を見つけたのかという問いに、検索してwebサイトにかかれていた旨をこたえると、かなり珍しがられたのを覚えている。(今思うと私もそうとう変な行動をとっているから怪しまれていたかもしれない。)

その時点では店はそこそこの客入りで、時々人手がいるくらいの感じだった。秋は行楽シーズンに合わせて客入りがあるのでそれまでに仕事を覚えて動いてもらえたら、お店的に助かるという話だった。私もここで働けるならありがたいと話し、ホールとキッチンに入るかたちでアルバイトはスタートした。

お店の仕事は楽しく、庭の手入れや店内の装飾などしばらくは毎日楽しく過ごしていた。接客は得意ではないのだが、こういった店に来る客層は静かに過ごしたい方が多く、助かった。みんな庭を眺めて自然に癒されたい。邪魔されずに本が読みたい。ロードバイクで走っていて見かけたので立ち寄ってみた。など、そんなお客様ばかりで品がよかったのだ。
そんなに長々と話すこともなく、かといってドライなわけでもなく……時々向こうから話しかけられたら庭に咲く花の名前を答える…そんなような感じで私はこのバイトのことはそれなりに気に入っていた。
 
 夏を前に交代でホールに入っていた主婦パートさんが辞めていった。
「正直よくないよ?ここ」と言って苦笑いしていた。私は、なんでよ…いいやん?どういうこと?と主婦さんの言葉がよくわからないでいた。

 初夏に差し掛かろうという頃、テレビ局から連絡があった。
夕方のニュース番組の特集でカフェ紹介をしている。そこで紹介させてほしいとの内容だった。
店長は承諾した。日取りを決めて、撮影クルーが地元のアナウンサーを連れだって店内や飲食メニューを撮影していった。
スタッフが申し訳なさそうに「撮影で注文した珈琲は全部飲みますので!」と言っていたのを覚えている。(3、4杯出した)(そんなの当たり前である)

嫌な予感がしていた。こういう時、ろくなことにならない。
喫茶店は広くないのだ。一人でホールをまわす座席数しかない。
そして鉄道はあるものの、アクセスを考えても自家用車で来店する客が多いのは調べなくてもわかる。駐車場もそれほど広くない。
この人数ではもしかして捌けないんじゃない?心配だった。

オンエアが終わった瞬間から案の定、喫茶店は大混雑状況に陥ることとなる。
・・・・・・そらそう。

3.
 小さな古民家に一番多い日で一日200人近い客が押し寄せるようになってしまった。こちらの戦力は3人である。店長の知り合いを呼んでも最大で5人。
そしてキャパがそもそもないのである。来る客来る客が不満な顔をして長い時間座席が空くのを待つような日々になってしまった。
そこにもう癒しとかない。提供時間がないのでホールをもう走るしかない。休憩はキッチンを抜けて客の死角になる外で10分。全員がなんとかその場を回すだけの居酒屋のような雰囲気になってしまっていた。電話はひっきりなしに鳴る。場所が分からない道案内を出せ、ナビをしろ、駐車場どうなってるんだ整理しろ。待ち時間でイライラの客。後に書かれたレビューは酷評だった。・・・・・・そらそう。

あの癒しの古民家喫茶店は一瞬で崩壊してしまった。
(今思うと整理券とか予約とかやればよかったのかもしれない。増える客数の爆増が予想外すぎたのだ。)

 そして、私たちを悩ます問題がもう一つ存在した。
冒頭で出た『ビラ配り』である。

4.

件の『ビラ配り』はなんと喫茶店の入り口真ん前でビラを配り始めたのだ。
もちろん、こちらの喫茶店とビラ配りの店は同じ店でも姉妹店でもない。まったく関係ない別店の人間が、他店の前で客引きをしだしたのだ。
このビラ配りの店、弁当を駅や公共エリアで許可を取らずに販売したり、近所のお寺の敷地内で強引に客引きする店として地域から疎まれていた。
店長いわく宗教団体的な集団で、自称世界的オペラ歌手が運営人にいてオペラのレッスンを受けるためにビラを配る人たちは無賃で働かされているとのことだった。
そんな世界的オペラ歌手が、辺鄙な地方都市の小さい山にいるわけないだろ。いい加減にしろ。
当時、2ちゃんのスレッドを店長は教えてくれた。俺は書き込んでないけどね…と言っていたがどうだろう。書き込んでた気もする。
住人たちのヲチスレでは話が通じない、あれはやばい。あっちでもあそこでも見かけた、鬱陶しすぎ。などなど…と書き込まれていた。
どうやら広い地域で違法すれすれの商売をしている様子だった。

……最悪だ。勘弁してくれ。こんなのもうドラマのトリックの世界観である。堤監督映画化してください。

 最初のうちは店長も「店の真ん前で配るのは遠慮いただきたい」と腰低く会話を試みたものの、まったく話が通じず、なんなら「ここは公道だから何も法に触れてない」と開き直る始末だった。店の前でこちらに客が来るのをずっと見張っている人と、ビラを配る人が常にいる異常な状態だった。
私は店に通うために朝は駅を抜けて道でビラを配る人の横を通らなければならない。店員であることは認識されていないようではあったが、毎朝通るので住人の一人としてカウントされていたのか、毎回ビラを渡されるということはなかった。……とは言え怖すぎである。毎朝ヒヤヒヤしながら通勤した。
駐車場の掃除をする際、店の真ん前に陣取るビラ配りには敵意むき出しの顔で無言でギッと睨まれた。……こ、怖すぎる。

 訪れる客に毎回「うちとは関係ないお店です」と弁明しながら提供をする。次第に疲労が溜まっていった。
いくらなんでも図々しすぎる。店長にエリア内の交番に相談電話をかけてくれと頼まれたこともあった。そんなんかけたくない。
私はこの店で働いて110番に慣れた。こんなこと得意になりたくはない。交番のお巡りさんとは知り合いになった。お巡りさんには「ほ~んと、正義感強いんだね~」と言われた。何のほほんとしとんねん。んなわけあるか、とにかくどうにかしてほしいんだよ。110番したくないってこっちだって。
警察というのは面倒なもので、事件性がなければ話を聞くくらいしかできないとのことだった。ここ以外からもよく相談されますので、パトロールは念入りにします。というのがお決まりの返答だった。店長は市会議員にも声をかけていた。どんどん大事になってる。やばすぎ。

 直接的な被害はないものの警察へ相談するために写真が必要になることがある。店長に顔が割れてない私に、店の前で張っている人物を撮ってくれないかと頼まれた。
おかのした!私は渡されたカメラで写真を撮った。アホなので頼まれたらまあいいかと引き受けてしまったのだ……断れ。
目深にかぶったチューリップハットにロングスカートで日傘の陰の中から、じっとこっちを睨み続けている女の姿がばっちり納まっている。漫画みてえなシチュだな。
トリックで見たことある気がしてくる。
そして撮った瞬間めっちゃバレた。めっちゃ逆上された。当然である。ずっと通ってんだから店の人間ってわかるだろあっちだってさ。

「おまえ!!!!今撮っただろう!!!!!!!!盗撮だ!!!!!!!!表出ろ!!!!!!」めっちゃめっちゃバチギレに叫ばれた。怖すぎ。泣いた。脚が震える。
人生で怒鳴り散らされたのはこれで二回目だ。こんなん何回も味わいたくない。怒鳴られカウント回したくない。怖すぎるって。
女は店の中までは追いかけてこなかった。店内には来ないってことは、嫌がらせとして悪いことしてる意識あるってこと?と思った。
正直仕事どころではなかったがホールスタッフとして過ごし、そのまま夜になるのをまって、全員で店から帰宅することとなった。
山の方なので街頭とかほぼないのである。闇の中で数人で歩く怖さ凄まじすぎる。

「待てぇえぇえええ!!!!!!カメラのデータ消せぇぇえええ!!!!ころすーーーー!!!!わあああああ!!!!」聞き取れない叫び声が響いていた。

え!!?やば、こ、ころすって言いましたよ!?いいから走って!相手にしたらダメ!!!お店の人たちと本気のダッシュで逃げた。まだいた。全然普通にいた。全員で明るい道まで走った。
闇の中をヤバい奴に追いかけられて、逃げるというほんとにホラーやサスペンスみたいな貴重な体験をしたと思う。生きててよかった。殺されなくてよかった。二度と味わいたくない。

生命の危機を感じることって世の中こんなにあるんですか。
ほんとに怖かった。働いていた中で一番怖い出来事だった。

この出来事のあと私は就職活動をし、牡蠣にアタる会社に入社することとなる。とほほ。

 ひととひとは話ができないこともある。そういう絶望を味わった1年だった。

 ヤバいビラ配りの店は調べたらどうやら撤退したとのことなので、ネットの海にひっそり刻んでおこうと思う。
あの人たちは今どうなっているんだろう。怖いね。

 私の働いていた喫茶店は屋号と店員を変えて、今も営業中とのことである。

終わり

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