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Ⅹファイル事件💥深夜の咆哮💥後編

異変に気が付いたのは、通勤バッグの中に入れてあったチョコレートを見た時です。

なんと、チョコレートの包装紙ごと食べられた跡、歯形があるのです。
一瞬、「泥棒の仕業か?」と思ったけれど、包装紙は取って食べるでしょう、人間ならば…。

そう、人間ではない、謎の生命体の仕業なのです。

私の頭の中で「Ⅹファイル」のテーマ音楽が流れだし、おもむろに
「スカリーーッ❗❗」
「モルダーーーッ❗❗❗」
と叫びたい衝動に駆られました。

歯形が残るという事は、茶色い小判型のカサカサ動く者達の犯行ではありません。

歯がある生き物…

ざわめく気持ちを落ち着かせながら、私はとりあえず「ゴキブリホイホイ」を置くことにしました。

家の中の数か所に「ゴキブリホイホイ」を仕掛けながら、私は段々腹が立ってきました。

かじられたチョコレートは、仕事を終え、疲労感と達成感に浸りながら味わおうと楽しみにしていた物でした。

そんなささやかな喜びを奪うとは、何たる無法者なのでしょうか。
きっと捕まえて懲らしめてやる❗❗と、決意した私でした。

それから数日が過ぎて、報復意欲も薄らいできていたある晩でした。
正方形の狭いお風呂に、体育座りで浸かっていた、というよりハマっていた時です。
入浴の心地良さに、鼻の孔を全開にして「冬のごちそうは温かいお風呂だな♨️」と呟く私の目の前を、黒っぽい「カタマリ」が走り去りました。

❓❔❓❔

ど近眼で裸眼の私には何も判別できませんでした。
けれど、一つ分かったのは、「ゴキブリホイホイ」には入りきらないサイズだということです。

翌日、ホームセンターで、粘着シート部分だけの製品を購入してきて、昨晩の逃走ルートに設置しました。

そして、コンタクトレンズを装着してお風呂に入りました。
またしても「冬のごちそうは…♨️」と言いかけた時です。

お風呂場の入り口で「ガサッ」と音がしました。

息を詰めて耳を澄ますと、ゴソゴソと音が続いています。

そしていきなり「キイイッ❗キイイイッ❗❗」と耳をつんざく様な叫び声が響き渡りました。

金物を擦る様な不快な音の中、私は「罠にかかったな😏」と勢いよくお風呂から飛び出しました。

その瞬間、間違いなく私は勝者でした。

ところが、粘着シートにベットリと貼り付き、もがく物体を視覚が捉えた途端、一転して敗者となってしまいました。

「大きい、そしてグロい…」

体長三十センチはある、立派な「ドブネズミ」でした。

目をランランと光らせ、強靭な尻尾を鞭の様にビンビン回し、捕らわれた前足と後ろ足を自由にしようと、激しく足掻いているのです。

ネズミのイラストを描く時にチャームポイントになる、鼻から口にかけてのラインを歪ませ、あろうことか歯茎を出して憎々し気にキイキイ叫んでいます。

鬼気迫る迫力❗凶悪な犯罪者が、牢獄で「ここから出せ❗オレはやってねえ❗❗」と吠えている様です。

私は、無いはずの尻尾を丸めてその場から逃げました。
そしてすごいスピードで固定電話の受話器を掴み上げました。
ダイヤルボタンを押そうとして、私の指は空で止まります。
「こんな夜中にどこへ電話すればいいんだ❓」
動揺を隠せないまま、背中を丸めて受話器を握りしめます。

神よ❗私にワイルド&タフなハートをお与えください…💫

そんな願いも虚しく、背後では悪夢が続いています。
ネズミは一向に弱る気配がありません。
その時、嫌な考えがよぎりました。
「粘着シートからネズミが剝れなかった場合、どうすればいいの❓」
私、触れそうにないんですケド…😭

私のか細い神経は、今にもちぎれそうです。
もはや泣き笑いの表情で「こんな分かりやすい罠に掛からないでよ❗」と、ネズミに文句を言いだす始末。

今夜は眠れないかも、と覚悟していると、ふいにネズミの右前足がシートから離れ、それに力を得たのか、一気に他の足も自分の物にしていきました。
そして、硬直している私を尻目に、ドタドタとお風呂場の排水口の方へ消えていきました。

私は深く息を吐き、ようやく受話器を置きました。
辺りは静まり返り、先程までの騒動が幻だったかの様です。
しかし、お風呂場の足拭きマットには、ベッタリと粘着シートが付着し、ネズミの足跡をまざまざと刻み付けていました。

🍫🐭🍫🐭🍫🐭🍫🐭🍫

数日後、会社の同僚から、東京ディズニーランドのお土産をいただいた時、とても複雑な心境になりました。

美味しいチョコレートが入った缶には、笑顔のミッキーマウスの絵が描かれています。

「あの夜の出来事が私を変えてしまった…」

お土産を受け取りながら、私は寂しそうな表情をしていただろう…と思うのです。




 




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