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小澤メモ|POPCORN MOVIE|映画のこと。

12 映画とY足しな話・青春シャツ。

例えば、好きな映画たちの青春のこそばゆいシャツ。
ガキの頃に憧れてた、少し先にあるはずの青春時代。無我夢中にバブルとその崩壊後のデタラメ時代をサバイブしていたら、気づいたときには、とっくにその景色を追い越していた。なんとか淡い青春時代を思い出せ。年上のおねえさんとの初めてのデートは映画館。そんなときは一張羅よろしく襟つきシャツだった。シャツ様様な青春群像期。青春映画『レス・ザン・ゼロ』。ロバート・ダウニーJr.演じるジュリアンは、勘当された実家に忍び込んで、プールサイドで苦渋の表情をつくる。途方にくれる彼と対照的なカリフォルニア・ブルーな空気感と真っ赤な花があしらわれている白いシャツのはだけ具合。それが、とてつもなくアバンギャルドだった。早くそんなシャツ男になりたいと思った15歳の夏。

シャツを腕まくりするのは織田裕二さんよりトム・クルーズさんな時代。
トム・クルーズがまだまだアイドルしていた青春群像映画『カクテル』。主人公のブライアンはだぶついた黒シャツをまとって、シェーカーをジャグリングしてカクテルをつくる。この作品によって、フレア・カクテル・ショーをするバーテンダーが一躍時の人となった。そして、とりあえず黒シャツを着て片頬上げて笑っとけばOK、みたいな安直なモテ男観が根づいたのもこの頃だった気がする。流行りに流行ったトム・クル男なバーテン・ブームを横目に、まだ飲めない酒をかっくらう日を夢見た16歳の夏。そして、そんなシャツへの憧れをスペルミスしてしまって、バッタもののアロハ・シャツをびらびらと着て、やから感を漂わせてしまっていた20歳頃の自分とかぶるのが、若いカップルのラブロマンス『トゥルー・ロマンス』。オタク設定になっているクリスチャン・スレーター演じるクラレンスが、寒いデトロイトところからトゥー・ホットなロサンゼルスまで来たので、はしゃいで派手なアロハ~なシャツを着てみました的なズッコケ感が当時の自分とどんかぶり。シャツとフレンドリーになった今となれば、クリストファー・ウォーケン演じるマフィアのシャツの着こなしの方がずっといいのはわかる。

キーファ・サザーランドは24よりこっちのシャツだぜ。
青春映画のトップランカー『スタンド・バイ・ミー』。今は亡きリバー・フェニックスの爽やかな白のブランクTシャツが印象的だけれど、不良のエース役を演じたキーファー・サザーランドのシャツも外せない。オッサンになってから、大人気ドラマ『24』シリーズの当たり役で、懐具合もステイタスもトップランカーになったキーファ・サザーランド。そんな彼が見せてれくた青春シャツ姿。1950年代の舞台設定とはいえ、着丈、着こなし、インナーの黒いTシャツにベルト、すべての取り合わせがダサくて青春ドンズバ!

若かりし頃のシャツは大人へのひとつの壁だった。
キッズからいよいよ青春時代へ。小学生から中学生へ。そんな多感な時期に、それまでさんざん親に着せ替え人形にされてきたガキンチョに難題が立ちはだかる。本来は、スピットファイヤーやインディペンデントのスケボーTを着て、フレッシュなキャップをかぶってれば一丁上がり、のはず。しかし、青春時代というのは乱気流をはらんだ時空を飛んでいるようなもので、予期せぬ出会いから上品なおねえさんに恋心を抱いたりしてしまう、ことがある。まさか、自分が?! え、なになに、この胸の高鳴りは?! なんて、気づいたらもうウォン・カーウァイの『恋する惑星』の当事者まっただ中でダッチロールしている具合だ。とにかくがむしゃらになる。話題の映画がロードショーされているのを口実に、初めてのデートにこぎつける。相手は年上。やっぱり背伸びをしてしまう。そんなタイミング。それこそが、自らのチョイスでシャツを着るようになるときだ。感覚的には、シャツというよりも襟がついてるヤツをみつくろうって感じだったが……。ただそれだけで、少し良い男になった気になる。

あめりか・えいが先生というものから学ぶ。
当時のデートに襟がついてるやつをみつくろおうとする本能は、アメリカ映画の青春劇の影響が大きかった。よく、スクリーンの中からママが言うだろ? 「お父さんが若い頃に着てたシャツとジャケットがあるわ。それを着てくといいわ」とか「プロムでちゃんと踊れるように、ママと練習しましょう」とかって。だいたいそういうヤツは、ボタンを一番上まで締めて着る。それなのに、首周りがスカスカだったりする。着丈とかシルエットなんか二の次で、値段や見た目で選ぶくらいしかできないから、どうしようもない。つくづくパタンナーの仕事というのは重要だと思う。今はそれがよくわかる。だから、青春時代初頭の写真、それもシャツ姿の自分を見るとこそばゆくてしかたがない。だけど、どうせ散る儚い淡い恋とか、こそばゆいポートレートを経て、段々とシャツが当たり前になってくる。当たり前になってくると、自分なりのスタイルを出そうと入れ込みはじめる。しかし、まだまだ乱気流の中だから、失敗をすることになる。

乾杯、青春のこそばゆいシャツたち。
失敗例はいくらでもある。胸筋がペラペラなのに妙にはだけてしまっていたり、旅先で舞い上がって出落ち感満載のキャラクター・シャツを買ってしまったり。はたまた、酸いも甘いもまだまだわかってないのにチョイ悪ぶってみたりして、結果的に誰もツッコめないくらい痛いキメ方をしてしまったり……。そうやって失敗を繰り返しながら、思い描いていた青春群像に追いつき、その群像を追い越していくのだ。今でも青春の黒シャツといえば、『カクテル』で主役のバーテンダーを演じるトム・クルーズが着ていたシャツ。彼は、後のインタビューで自身のキャリアでもワースト5に入る作品と役だったと答えている。きっと黒シャツも脚本もこそばゆいし歯がゆかったのだろう。しかし、なかなかどうして、野望と金と挫折と成功、信頼と裏切り、そして恋愛とおおよそ青春時代にシャツの下の体中を駆け巡る要素が満載で、個人的には見どころのあるシャツ、いや映画だった。大好きだった。

青春のシャツたちの行方。
つわものどもが夢のあと。ガキンチョのシャツの夢のあと。それで、『カクテル』のトム・クルーズの黒シャツはどうなったかというと、ブロンドのヒロインとの愛を勝ち取るわけだけど、このヒロインを演じるエリザベス・シューがいい。その後も、『ベストキッド』『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』といった、青春とこそばゆい(まだまだシャツを着るのではなくシャツに着られてしまっている)シャツ映画のヒロインとして立て続けに出演している。美しいブロンドのヒロインは、いつもこちららより一歩先をいっていて翻弄してくれる。そんな彼女を振り向かせたい。それは青春真っ只中の男たちが、シャツを着ることになる最初の理由として十分だった。そんなことも今は昔。映画とY足しな私の青春シャツ話。12
(写真はスケートパークで出会えたシャツにまだまだ着られているスケートキッズ。昔の自分を見るようでジーン/2018年)

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