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小澤メモ|POPCORN MOVIE|映画のこと。

22 なぜか食べたくなる映画の中のツーゴー中華。

アメリカものでよく見る白い箱。
男やもめの刑事。忙しくて食事をするのを忘れていたウォール・ストリートのオッサン。面倒臭がり屋で同じものを食べるレイジーな若者。なんていう、アメリカ映画の中のあるカテゴリーの男たちのステレオタイプのアイコンのひとつ。それが、テイクアウトしてきたチャイニーズ・フードが入っている(らしい)白い箱だ。少し長めの割り箸もしくを、(フォークとナイフと勝手が違いますがけっこう食べ慣れてますよ)という感じでギコギコ駆使して、中の焼きそばとかを食べる男たち。なぜだろう。それを見ると、見てるそのそばから無性にチャイニーズフードを食べたくなる。きっと味はべらぼうにうまいわけはない。そして、日本の上海エクスプレスみたいな、(本当はこちらの方が親切なんだろうけども)プラスチック容器に入っていたら、まったくそそらない。それをわかっているけれど、映画の中の白い箱(正確にはそれとセットで長い割り箸)に惹きつけられてしまう。

白い箱の正体。
白地にプリントされているのは、仏塔のグラフィックとかTHANK YOUとかのキャッチコピー。スケートビデオの金字塔ボーンズ・ブリゲードの『アニマルチン』なんかでもあったような、アメリカ人がイメージするチャイニーズのフォントといったらこれでしょというやつを使っているのが特徴。そんな白い箱は、アメリカのどこかの大手デリバリーチェーンのレストランものかと思っていた。それが違った。この白い箱の正体は、ホールドパックとかフードパイルとか呼ばれる、アメリカでかなりポピュラーかつ浸透している紙容器のことで、1960年代にはすでに誕生していたという。ということは、スケートビデオ『アニマルチン』は1980年代後期の作品だから、デザイナーはこのテイクアウト容器でチャイニーズヌードルなんかをかきこんでいたんだろうなと想像する。白い箱のチャイニーズ感が、アイデアに刷り込まれていたのだろう。

コインランドリーで喰らうツーゴーなチャイニーズフードの記憶。
“UberEats”のCM。テニスプレーヤーの錦織選手と芸人のくっきーさんがコインランドリーでデリバリーを待つやつは、どこか既視感がある。そんなところで食べるなんてマナー違反みたいな意見もあるようだけれど、オッサンはマナー云々の前に、このシーンは見まくってきたアメリカ映画で慣れ親しんでしまっていた感じがする。誰かが深夜のコインランドリーで何かを飲んでいた。誰かが週末のコインランドリーで本を読みながら恋人を待っていた。もしかしたら、男やもめの刑事がたまった洗濯物をコインランドリーにぶちこんで、腹にはツーゴーしてきた白い箱に入ったチャイニーズヌードルをぶちこんでいたシーンもあったかもしれない。そんな気がする。それは誰だったか。

食は二の次、なんていうエリアは女性にはモテないだろうなあ。
映画ですぐに思い出せるのは、『ラッシュアワー』の迷コンビ、リーとカーターが手にしていた白い箱。そして、セックス・ドラッグ・バイオレンスとラブとロマンスが散りばめられた『トゥルー・ロマンス』。(好きな俳優のひとり)ゲイリー・オールドマン演じる地元のチンピラというかポン引きのスパイビーが、ゴージャスなのか支離滅裂なのかよくわからないアジトで食べていたチャイニーズフード。もちろん、あの白い箱に入っているやつ。美しい盛り付けも料理のうちという観念の対極にある、完全に開き直った合理的な白い箱。それは、やっぱり男な刑事や粗野でクレイジーでデタラメな男みたいなのが似合う。質より量とか、食べれるだけありがたいとか、何かに備えて食っておく、というような粗さがいい。満ち足りた幸せの食卓を求める反面、こういったハードボイルド(というか終わってる感)な感じに惹かれる自分がいる。それは長くひとり暮らしを続けてきた記憶とかやさぐれ感がそうさせるのかもしれない。22

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