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小澤メモ|NOSTALGIBLUE|思い出は青色くくり。

27 冬の映画賛美。

短い夏、長い冬、ため息をやりすごす作品について。
冬といったらさ。という映画の個人的レコメンド。これを書いてるのは、2020年コロナ禍の7月末。なかなか明けない梅雨の雨に倦んだ日々。もうね、あきらめモード。今年の夏は短い。コロナ禍でいろいろ自己責任で臨みたいからサマー・バケーション(ジャーニー)もなし。だから、今冬なんて、さらにどうなるかわからない。インフルとか風邪とか、増し増しのウイルスのカンフル剤がぶっこまれてくるんだろうか。それならば、せめて自分流いつもの冬の季節感は整えておきたい。気候変動に左右されない作品による季節感を要確認。映画や本で冬ごもりというか、冬を冬らしくやり過ごすしかない。まずは、寒い冬にあって、ハートウォームなカップルやシーンたちが散りばめられた冬の映画について。

愛とか恋とかが冠詞になる冬映画。
ザ・冬のロマンティック・コメディといえば、『恋人たちの予感』。男(ハリー)と女(サリー)の友情は存在するか。そんなことをテーマにした段階で、それはもう、後半で2人はデキちゃうってことじゃん。という身も蓋もないことをツッコミたくなる。ハリーとサリーが食事するカッツ・デリカテッセンは、ニューヨークの新名所となった。 冬到来とくればクリスマス恋愛狂想曲だぜ、『ラブ・アクチュアリー』。個人的には、クリスマスのラビコメの決定版。ありがちなすったもんだの果てにハッピーエンドがいくつかあって、往年の名曲でジ・エンドって感じ。それがいいんじゃないの! っていうド・ストライクな映画。 5つの町のタクシードライバーたちの映画は、5つの町の冬の情景を切り取った映画でもある、『ナイト・オン・ザ・プラネット』。どんなにときが経っても色褪せないジム・ジャームッシュ監督のオムニバス映画。舞台はロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキのそれぞれの冬。どの話も面白いが、ニューヨーク編のヘルムートとヨーヨーのコンビは最高。

ラストは鳥肌モノの傑作映画たち。
『リトル・ダンサー』は、『ブラス』、『シーズンチケット』と合わせて、イギリスの炭坑町の冬空3部作のひとつとして、個人的にはくくっている。バレエダンサーを夢見る主人公のエリオット少年と、身も心も女になりたい同級生マイケルとの友情も観所のひとつ。 寒さに負けない力が漲ってくるのは、『最強のふたり』。実話を元にしているだけあって、コミカル仕立てでもグッとくる部分が多い。首から下が麻痺してしまったフィリップと介護人のドリス。冬のパリ、一面雪景色となったリュクサンブール公園でこのコンビが映し出される光景はとても美しい。もっともっと!と寒さのリッターを上げた極寒のスカンジナビアの雪景色が描かれるのは、『ドラゴン・タトゥーの女』。こちらのつま先まで寒くて痛くなるほどに面白いミステリー作品。主人公の2人、記者ミカエルとリズベットの濡れ場は、疑似恋愛感情なのか同志的なものなのか判別がつかない。それがまた物語の猟奇的な冷たさを高めるのにひと役買っていて、ぐーっと引き込まれていく。これらは、自分史の冬に何度も見返す傑作映画たち。

たまらないな、冬っていうのは。
この他にも『ウインド・リバー』や『ファーゴ』、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』なんかも冬映画として、かなり好き。どれもこれも、骨身にしみてきてしまう。やっぱり寒いのがいけないのだろうか。寒いからカキーンと響いて、粉々に砕けて散ってしまうのだろうか。こちらは、静かだけれど効き目が大という作品たちが好きみたいだ。それとは別で、こんな冬もある。というか、こんな冬はきっついのうというのが、鬼ババアと2人、絶望的な冬。という感じのホラーの大家スティーブン・キングの原作を、ロブ・ライナー監督が映画化した『ミザリー』。ジワジワと鬼ババア度を増していくキャシー・ベイツが恐ろし過ぎ。雪解けする春が待ち遠しくてひたすら祈りたくなる。それと『シャイニング』。冬の映画として語り継がれるスタンリー・キューブリック監督のホラー作品は、ポスターにもなったジャック・ニコルソンの顔はもちろん、閉鎖された冬のホテルの廊下に立つ双子の少女など、監督の演出力がすさまじいため、恐怖が常に最高潮。こんな冬は、どこまでも他人事として見ていたい。そんな罪深き映画だ。

さあ、冬よ、やってこい。
寒くて染みる冬が、自分にとって良いのか悪いのかよくわからない。ただ、イヤだと思っていてもジメッとした梅雨がやってくるように、冬も必ずやってきてしまう。そんなときに、少しでも前向きに準備するための映画が1本ある。いわば、冬支度にもってこい、心とスタイルの衣替えにもってこいの映画。それが、『スナッチ』だ。ガイ・リッチー監督による軽快なストーリーに曲者キャスト陣とイカしたセリフ回し。この映画が面白い理由はたくさんあるが、なんといっても、みんな悪者だけどカッコイイ。それぞれのファッションがそれぞれに似合っていてステキ。オッサンもまあまあの若者も、みんなどこかパンチが効いている。そんな風に、冬のスタイル・サンプルが目白押しというところ。例年、この映画をだいたい11月下旬に見るようにしている。そうすると、あら不思議。(冬よ、カモン!)って気持ちになる。(チェスター・コートを羽織って革靴履いて何しようか)って気分になる。2020年冬は手強そうだ。それでも、地球は回る。サバイブ。27
(写真は荒木経惟さんの写真集『センチメンタルな旅・冬の旅 / 新潮社1991年』 。私小説的写真日記と評される今作品は、写真家は優秀な編集者でもあるということを証明している冬の1冊)


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