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小澤メモ|SENTIMENTAL JOURNEYMAN|おっさんの旅。

1 おっさんの旅 辺境編 イントロ。

辺境と近境と
村上春樹さんの著書『辺境・近境』を読んだ。辺境という言葉について、初めてその世界を想像したのは映画『風の谷のナウシカ』(コミック全7巻は名著で予言書だな?!)で耳にしたときだった。どこか果てにある場所。そこで暮らす人々がいる……。近境という言葉は、パソコンの文字変換でもなかなかズボっと出てこないように、この本を読むまでは使ったことはなかった。それで、なんでこの紀行本を読んだかというと、これに『海辺のカフカ』のナカタさんのような味わい深いファンタジーを求めたわけじゃなかった。ナウシカの辺境と合わせて、その昔のテレビコマーシャルの秀逸なキャッチコピー、“知らない日本を見てみたい”に影響され続けていた旅へのモチベーションをバチっと形にしようと思ったからだった。


現在の拠点、東京という近境から辺境へ。

『辺境・近境』は、村上さんが体験したもっとタフで素晴らしい旅の紀行文だった。こちらの辺境と近境はというと、それとは似て非なるものになったが、そこは凡庸なオッサンの旅。気分だけは一丁前でいいのでは。そんなありがちなパターンだった。とにかく。まずは、五輪前(どうなる?!)でハコモノが、ガンガンに確変変貌中だった東京を撮影した。落成前の国立競技場。深夜に撮ってたら、完全なアウトなオッサンと見なされ、もれなく工事責任者に通報された。アウトなのは顔だけにしてくれ。晴海のスケボーとBMXの競技コース現場。銀座線の渋谷駅の高架線路。これはNBAのボストン・セルティックスの本拠地TDガーデンにアムトラック電車が乗り入れてるノース駅の絵と似ていた。個人的にはいつもそう思って眺めていたので、渋谷駅が変貌していくのは残念だった。

日本最東端の根室。
そうやって自らの近境、変貌中の東京を撮影した後、いよいよ知らない日本、知らない日本の辺境へと出発した。メンバーはオッサン3人。この3人は今後のコラムというかメモにも何度か出てくるだろう旅仲間。あいにくパンダ旅に何度も何度も一緒に行っているカフカのナカタさんじゃなくて、フォトグラファーの中田くんはこのときは自宅待機だった。で、今回の3人の中には、パンダじゃなくて野生の熊を撮ったりしたこともある写真家・田附勝がいた。まず目指したのは日本最東端の根室。日本地図にある国境線というやつをこの目で見てみようということになった。ここは知識では少し知っていた。北方領土問題とか、国後島の友好の家とか、桜木紫乃さんの小説『霧 ラウル』とか、ショーケン萩原健一さんと食べる前に飲む田中邦衛さんの映画『アフリカの光』とか、そういうことで知った気になっていた場所。季節は3月下旬。東京では桜が咲いていた。羽田空港のパーフェクトな空調に加えていよいよユパさま辺境ですという意気揚々さでTシャツ一丁で飛行機へ乗り込んだオッサン。降り立った中標津空港は、雪が降っていた。どんな目的の旅であったとしても、なんだかんだでおてんば気取りでハシャぐオッサンほど見苦しいものはなかった。根室の旅はまた次に。1
(写真はFATmagに掲載した、変貌中だった渋谷駅/2019)

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