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アンドロイド転生221

都内某所 ショッピングモール

アオイは嬉しかった。この店には訪れたことは無いけれど、店内など、どこも似たり寄ったりで懐かしい気持ちになった。12年間のナニー生活ではしょっちゅう足を運んだのだ。

エリカは吹き抜けの広々とした店内を見上げ、ショップに目を走らせた。多くの人が買い物を楽しんでいる。まるでパーティのように華やかで心が浮き立った。こんな世界があったのかと驚く。

彼女は初めてショッピングモールに訪れたのだ。ホームにやって来る前のタウンではパートナー(人間の夜の相手)だった。主人の豪邸と、パーティ先のホテルのみがエリカの活動範囲だった。

たった3ヶ月のタウンのでの生活。彼女は世間を知らなかった。エリカは指をさした。
「あ!あれは何?」
「着ぐるみって言うの。可愛いでしょ?」

ウサギの着ぐるみは子供達に風船を配っていた。
「あれは何?」
「風船って言うの。子供のオモチャ」
「ふうん」

アオイはニッコリとした。
「オモチャ売り場に行こう」
「う、うん」
上階の玩具売り場を目指す。

店内にやって来るとエリカは目を丸くした。大量のオモチャに驚いていた。アオイは微笑む。
「年齢によってコーナーが違うの。男の子用、女の子用も場所が違う」

アオイは手に取ってエリカに見せた。
「これは知育玩具って言うの。頭を使うオモチャなの。色々と選ぼう」
ナニーだったアオイの本領発揮だった。

「う、うん」
緊張しているエリカは可愛かった。3人は其々意見を出し合いながら玩具を選んだ。エリカは直ぐに慣れて、楽しむようになった。

何か目に引く物があると直ぐにタケルに見せる。タケルが興味を持つと大喜びだ。アオイはひっそりと2人から離れた。エリカが幸せそうにしているのが嬉しかった。

店内は幼児達が楽しんでいる。その姿を見て心が温かくなると共に懐かしくて胸が一杯になった。モネと過ごした日々が思い出された。ああ。子供なんて本当にあっという間に成長してしまう…。

買い物が済みカートは山盛りになった。次は菓子売り場に行った。最近の傾向は健康を全面にアピールしているので、添加物ゼロの自然食品を加工している物がほとんどだ。

アオイは干し芋を見つけた。思わず手に取ってタケルを振り返った。
「わぁ!懐かしい!子供の頃を思い出す!ねぇ?タケルも食べた?」

タケルは笑顔になった。
「覚えてるよ。よく食べた」
「フライパンで炙ると、美味しいんだよね!」
「そうそう」

「タケル!こっち!見て!」
エリカがバナナチップスを棚から取り出した。タケルが慌てて受け取る。凄い勢いでいくつも渡す。タケルは両手で受け止めた。

「お、おい!エリカ!ちょっと待てよ!」
アオイは顔を顰めた。失敗したと思った。エリカの前で人間だった時の想い出は禁句だ。アオイは静かにその場を離れた。

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