見出し画像

アンドロイド転生177

2111年7月
茨城県:白水村

エリカがホームの一員になってから1ヶ月が過ぎた。ホームは緑に囲まれた山間部にあって、美しく長閑で心が安らいだ。タウンの静謐さとはまた違った趣きだ。毎日を子供の世話をして過ごした。

当初はキリが言うように自由に楽しく生きろという意味が分からず途方に暮れた。人間と自分には主従関係はないと言うのだ。だが自分の存在意義は命令され、それを完遂する事だ。

旦那様の夜のお相手。それが幸せだった。だが3ヶ月で飽きられた。役目を終えて廃棄される運命だった。でも、終わりたくなかった。世界を知りたかった。だから逃げ出したのだ。

ある日キリが微笑んでエリカを覗き込んだ。
「それがエリカの意志で、自我が生まれた瞬間じゃないの?まぁ、追々分かるようになるよ。まずはタケルに色々教えてもらってね」

エリカはタケルの傍を離れなかった。エリカの誰かにお仕えしたいという従属感がそうさせたのだ。キリが縛りを解いたにも関わらずパートナーとしての性分はなかなか抜けなかった。

タケルは笑った。
「なんでいつも俺の後を付いて来るんだよ?」
「いや…?」
「いやじゃないけどさ」

タケルはエリカの頭をポンポンと叩く。意味は分からないけれど何だか安心する。嬉しかった。エリカの自我は日に日に育っていった。そしてある日、自由の意味を知った。

世話をしていた子供が目を離した隙に走り出し転んで顔を傷付けた。エリカは申し訳ない気持ちで一杯だった。何度も頭を下げて謝罪した。だが誰も彼女を責めなかった。

母親は朗らかに笑った。
「子供なんてそんなもんよ、元気で良いわ。これからも宜しくね」
エリカは絶句した。

そしてエリカは理解した。人間に服従するのは主従関係だったことに。私は私でいていい。ここでは人間とアンドロイドは対等関係なんだ。お互いを必要としている。持ちつ持たれつの間柄。

だけど今後、私は人間を傷付けない。絶対に。反対に守ろう。ホームがより良くなる為に努力をしよう。自分の意志で。出来る限り。それが私の存在意義。エリカは理解した途端、心が晴れた。

人間と敬語で話さなくて良いとキリに言われていたのでそうする事に決めた。なんだか自分も人間みたいで嬉しくなった。でも、そうよ!私は自由なのだから。エリカは生き生きとし始めた。

ある日キリに声を掛けられた。
「エリカ、柔術をインストールしない?」
仲間が広場で練習をしているのを見るたびに自分も出来るようになりたいと思っていた。

家事や炊事、子守以外に仕事を任されるのだと思って俄然やる気が出た。
「する!」
「よし」

本当はこの柔術を使って、何かしらの仕事に役に立てているのは知っていた。タケル達が半月に一度、夜に出掛けて朝に帰って来る。自慢出来る事ではないような気がしていた。

タケルが何も言わないので聞くまいと決めていた。
「じゃあインストールするから首を出して」
「うん!」
エリカは頸を出した。ワクワクしていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?