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アンドロイド転生214

2114年8月
茨城県の山中

子供達が川で水浴びを楽しんでいる。太陽は天高く輝き水面に陽光が反射していた。青い空は澄み入道雲が浮かんでいた。笑い声がアオイの気持ちを明るくした。モネとプールで遊んだ事を思い出す。

「えーい!」
ルイがアオイに向かって水を投げつけた。アオイも負けじと返すと、少年達が集まって来て水合戦になった。ルイが甲高い声をあげた。
「タケルも!」

タケルも笑顔で水を投げつけた。アオイは少し緊張する。彼とは極力近づかないようにしていた。タケルに恋をしているエリカに遠慮しているのだ。今はエリカの姿は見えなかった。

それだけではない。同じ転生した人間同士なのに生まれた時代が違う。約20年の差があった。タケルの方が歳下なのだ。それに生育環境に差を感じるのだ。彼は貧困で自分は裕福な家庭だった。

アオイがホームにやって来て5ヶ月が経っていた。日々は子供の世話と家事炊事。平穏な毎日だ。夜の狩と呼ばれる、タウンの金品強奪の仕事には参加せず柔術のインストールもしない。

アオイ以外のアンドロイドは月に2度交代で夜の街に繰り出す。何となくアオイは孤立していた。女性アンドロイドは5人。部屋は2人一組でアオイは1人である。其々の同室のペアが一緒にいる事が多い。

アオイはわざと自分を元気付ける。いいの。私は1人でも…!そう言い聞かせても心の奥底では寂しかった。生前は友達に囲まれていた。転生してからはモネがいつも傍にいた。

アンドロイドのサツキも親友だった。未来に転生して家族もシュウもいないのだと時折孤独を感じたが、そうではなかったと今になって気付く。ホームに自分の居場所はあるのだろうか。

心在らずなアオイに少年達が歓声を上げて激しく水を浴びせた。アオイは我に返り反撃をした。
「えーい!やったなぁ!」
子供らは歓声を上げて逃げ出す。

アオイは追いかけたが石の間に足が挟まれ激しく転んだ。驚いてもがくが立ち上がれない。水飛沫が上がるだけである。慌てれば慌てるほど嵌まった。恐怖を感じた。

誰かの手が腕を掴み、身を起こしてくれた。
「大丈夫かよ?」
タケルだった。

全身が濡れたアオイを見た。
「ドン臭えなぁ」
恥ずかしくて頬が強張る。
「あ、有難う…」

「アンドロイドが溺れるなんてあるかよ?柔術をインストールした方が良いんじゃねえ?」
アオイに反抗心が芽生えた。
「よ、余計なお世話…!」

アオイは腹が立った。柔術をインストールしてない事をまるでホームの一員ではないと言われたような気がした。穏やかな性格の彼女だが、自分の居場所が失われる不安から、怒りを覚えた。

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