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アンドロイド転生189

白水村:リペア室

アオイは驚いた。ここはラボじゃない?ホームって何?兎に角…助けてくれた事に感謝した。
「あ、有難う御座いました」
男女に向かって丁寧に頭を下げた。

キョロキョロと周囲を見渡す。病院のような化学室のような雰囲気。但し、物凄い荷物の多さだ。過去の遺物のような親しみを覚える。
「あの…ここは…あなた達はどなたなのですか?」

キリは微笑んだ。
「ここは茨城県と福島の県境にある集落。平家の落人って知ってる?歴史あるんだよ。私達はその子孫で56人で暮らしてるの」

平家の落人…。アオイは検索した。『治承・寿永の乱において敗北した結果、山間部などの僻地に隠遁した平家側の敗残兵などの生き残りのこと。2114年現在、全国統一の度々の国からの要請にも応じず独自の文化を築いている集団。近親婚を繰り返して遺伝的に偏りがある』などの知識を得た。

「3日前に仲間が川からアンタを拾って来たの。あちこち損傷してたから直したの」
3日も経っていたのかと驚く。
「そうですか…。何とお礼を言って良いか…」

「はい、鏡。顔を見て。ホラ、目の色を変えたの。似合うでしょ?片目ダメになってたから。まぁ…そうじゃなくても変えちゃったけど。ね?私とおんなじで色が違うの」

受け取った鏡を見ると、アオイの右眼は翠色になっていた。キリはブルーだった。
「どう?警告音も鳴ってないでしょ?」
そう言えばあの不快な音がしない。

「GPS機能も取っ払っちゃったし、壊れたのを修理したんだからもう家族だよね!」
キリはニコニコと嬉しそうだ。
「家族…」

GPS機能がない?と言うことはラボから追いかけられない?本当に?
「私は…ラボから逃げて来ました。初期化されるのが怖くて」
「わかる、わかる」
キリは口を引き締めて何度も頷いた。

「そう言うの多いんだよねぇ。アンドロイドに人間と同等の意識あるんじゃないかって、私思うんだ。結構逃げてくるよ。その度に助けてあげるの。みんな自由になって喜んでるよ」

意識?逃げる?喜ぶ?驚く事の連続でアオイは慄いた。キリは目を細めた。
「私はうちで直した証に目の色変えるの」
「私は…私は…嬉しいです。助けてくれて本当に有難う御座います」

キリはニコニコと楽しそうだ。
「殺人と暴力行為以外の禁止機構も取っ払っちゃったよ!何かする度に警告音が鳴るのって煩いでしょ?つまり自由ってこと!素敵じゃない?」

アオイは目を丸くした。この先ずっと警告音が鳴らない?自由?それは…本当に素敵だ。
「素敵…です」
「もうラボに戻らなくて良いんだよ!」

「は、本当に?」
「そう!今日からここで暮らすの。アンドロイドは他にもいるしすぐに仲良くなるよ」
「あ、有難う御座います」

アオイは呆然となっていた。私は…ここで暮らす…。私の命は繋がった…。信じられない…こんな幸運があるのだろうか。逃げ出して本当に良かった。あとはネックレスを見つけるだけだ。

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