アンドロイド転生215
2114年8月
茨城県の山中 川縁にて
アオイはタケルを見返した。何か一言でも言わないと気が済まない。いつもタケルの傍にいるエリカは今日はいない。新宿に行ってしまったのだ。エリカに遠慮して極力タケルと関わらないようにしていたが今がチャンスだ。
溺れかけたアオイを見てルイ達は当惑していた。
「大丈夫。安心してね。でもちょっと休むね」
ルイはホッとした顔をすると仲間と共に河原に走っていった。
アオイは濡れた髪を絞り、空気を入れた。身体に熱を加えて服を乾かす。
「タケル、ちょっといい?」
タケルは憮然とした表情をしている。
アオイは自分を奮い立たせた。何よ?アンタなんてちっとも怖くない。生前の暮らした世代は私の20年以上も後なのだ。息子みたいなものでしょう…?アオイは腕を組んだ。
「あなたは柔術を使って泥棒してるじゃない?恥ずかしくないの?」
タケルは目を見開いた。おとなしいアオイが自分に挑戦的な言葉を投げかけるとは思わなかった。
アオイは強気だった。
「皆んなはアンドロイドの服従性なのかもしれないけれど、あなたは心は人間でしょう?なんでそんな事が出来るの?」
タケルはニヤリとする。
「楽しいからに決まってるだろ?悪どい奴らから奪って何が悪い?」
「何を言ってるの?呆れる!」
悪びれなく言い返すタケルにアオイは腹が立った。
「そんなの大義名分。泥棒は犯罪でしょ」
「あんたみたいな世間知らずは言うことが違うな。綺麗な世界で生きてろよ」
アオイは負けなかった。
「世間知らずで悪かったわね。あなたは自分を正当化してるけど、人間としてどうなの?結局はキリの思うままじゃない」
タケルはフンと鼻を鳴らす。
「キリは関係ないね。俺は俺の好きで生きてる。それに今更人間とか関係なくねぇ?俺達は死んだんだ。今の身体はアンドロイドだ」
アオイは口を歪めて笑った。
「反対でしょ?心は人間じゃないの」
タケルも苦々しく笑った。
「誰も人間なんて思ってねぇよ」
アオイは息を吸い込んだ。
「アンドロイド達は私達を人間だと思ってる。だから、あなたはミオに過去を観せてるんでしょ?嫌じゃないの?」
「別に。恥ずかしい事なんて何もない。あんたは恥ずかしいんだ?」
アオイの頬が強張った。
「そうよ?悪い?私の想い出は私だけのもの。あなたと共有して後悔してる。あなたの過去も知りたくなかった」
「それはうちの親父が犯罪者だから?オタクの父親は裁判官だからな。さぞかし自慢なんだろうな」
頬が強張る。なんて嫌味な言い方なの?
「ええ。自慢よ?幸せだったわよ」
タケルは片頬を上げた。
「幸せで良かったな。言っておくけど俺もすげえ幸せだったぜ。あのな?自分の尺度で物事を見るんじゃねぇよ」
アオイは押し黙った。タケルは幸せだと自信を持っている。苦労の連続の生前の暮らしだったとしても彼にとってはかけがえのない日々なのだ。それは意識を共有した自分はよく分かっていた。
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