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アンドロイド転生804

2118年6月19日 午後2時過ぎ
カノミドウ邸:シュウの寝室
(シュウの視点)

アオイはやって来た。我が家にやって来た。命の終焉が近い自分の見舞いに訪れたのだ。こんなに嬉しい事はない。2度と逢う事は叶わないと思っていた。なのに再会出来たのだ。

アオイをじっと見つめた。18歳モデルの若さ溢れる美しい顔立ち。頬がほんの少し幼さを滲み出している。生前のアオイとは全く違うが口調は変わらない。愛したアオイだ。

アオイの瑞々しい肌をじっくりと眺めた。
「僕の会社は…アンドロイドの肌の研究をしたんだ。マシンの違和感は保湿のない肌のせいだと思ってね。大震災の後に閃いたんだ」

そう。第二次関東大震災が起こった。未曾有の天災だった。シュウは家族と共にハワイに旅行中で難を逃れた。だが被害の大きさは尋常ではなく日本は滅亡したと誰もが悲観した。

シュウは諦めなかった。この先の世の中にはアンドロイドが必須の時代が来る。既存の物は人間を模してはいるがまだまだ劣る。不気味さが拭えない。そうだ。肌だ。肌なのだ。

まだ日の目の見ないアンドロイドにシュウは好機を見出した。ピンチはチャンスと言わんばかりに金策に世界を飛び回り、賛同する企業を探し優秀な人材を集めて研究に精を出した。

そして成し遂げた。人間と遜色のない艶やかでしっとりとした肌を保つアンドロイドを造り出した。カノミドウ製薬はノーベル賞を受賞した。暴落した日本が再度世界に躍り出たのだ。

シュウは偉業を成し遂げたと自負している。その後、美しい肌を持ったアンドロイドが世界を闊歩する時代になったのだ。その1人がアオイだとは…。まさか輪廻転生があるなんて…。

結婚する筈だった。子宝に恵まれる筈だった。共白髪になるまで人生を歩む筈だった。突然アオイを失い神を恨んだ。仏を呪った。生きている自分を恥じた。守れなかった事を悔やんだ。

一生独身を貫くつもりだったが、由緒あるカノミドウ家の存続の為にやむなく見合いをした。相手も別に愛する者がいた。お互いに納得の上で言わば契約結婚をした。

だが同じ屋根の下で暮らせば情が湧く。それに妻のユリコは良い伴侶になった。波風を起こす事なく穏やかな暮らしだった。息子が産まれ、今では玄孫がいる身の上だ。幸せだ。

そう。僕は幸せなのだ。123年もの時を生きた。全力でアオイを愛し、またユリコも愛した。悔いのない人生だったと胸を張って言えるのだ。だから…そう。アオイ。お前も…。

シュウの手がアオイの頬にそっと触れた。
「幸せになってくれ。約束してくれ。頼む。それだけが願いだ」
「うん…うん。幸せになる。絶対に」

シュウはアオイを見つめ、鼻に装着している呼吸器を外した。シュウの顔がアオイに近付くと彼女はそっと目を閉じた。互いの唇が優しく触れ合った。クラッシックの調べが2人を包んだ。

時が戻る。26歳と24歳の婚約者達。若さ溢れるシュウ。人間のアオイ。静謐な時間。奇跡の時間。
「アオイ…愛している」
本当に…心から。

アオイの瞳から涙が迸った。
「シュウちゃん…シュウ…!私も…私も愛してる。この先もずっと!一生愛してる!」
アオイは立ち上がるとシュウを抱き締めた。


※シュウの活躍のシーンです


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