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アンドロイド転生63

回想 2042年のこと

カノミドウシュウは台湾の製薬会社と契約書を交わした。第二次関東大震災後の1年をかけて、漸くカノミドウ製薬と譲渡契約を結べる企業に出会ったのだ。シュウは薬品5つの特許権を売ったのだ。

莫大な外貨を得ると、直ぐに台湾に研究施設を作り研究員のヤマノベ教授率いるチームメンバーで人工皮膚の製作に取り掛かった。だが失敗の連続だった。だがシュウは諦めなかった。

近い将来アンドロイドは世の中になくてはならない存在になる。この人工皮膚化学の成功がこの先、日本の未来を作る。必ず日の目を見ると信じて止まなかった。社員達も一丸となって心血を注いだ。


回想 2043年のこと

全世界のアンドロイド開発のコンペティションで熊本県のある企業が優勝すると俄に日本が注目されるようになった。日本に価値ありとみた多くの国や投資家に支えられ、徐々に経済が復活し始めた。

シュウは直ぐに熊本の企業と連絡を取った。
「弊社の人工皮膚の研究が達成されれば、御社の製品もより性能が増します。いつかお力添えが出来る日がきっと来ます」

シュウの熱意に圧倒された代表者は頷いた。
「アンドロイドの皮膚に着目するとは先見の眼がありますね。期待しています」
2人は堅い握手を交わした。

カノミドウ製薬の研究開発は日夜続けられた。アンドロイドの皮膚の保湿力が高められれば、より一層人間に近付くようになるのだ。世界に遅れを取ってはならぬ。どこよりも先に発表するのだ。


回想 2048年のこと

とうとう人工皮膚が完成した。この研究成果はノーベル生理化学賞を受賞した。シュウの悲願が達成したのだ。社員一同でこの喜びを分かち合った。カノミドウ製薬の起死回生だった。


回想 2050年のこと

熊本県の企業の研究施設にシュウは赴いた。カノミドウ製薬の人工皮膚を使ったアンドロイドの試作品が完成したと言うのだ。女性型のモデルは椅子に座り目を瞑っていた。

瑞々しい肌はとても作り物とは思えなかった。既存のアンドロイドを凌ぐ完成度だった。研究員は嬉しそうにパソコンを叩いた。
「起こしますね。見てて下さい。驚きますよ」

アンドロイドは何度か目を瞬かせてゆっくりと瞼を開いた。辺りを見回しシュウに顔を向けてニッコリと微笑んだ。違和感のない愛らしい顔立ち。
「こんにちは」

すると次は眉毛を寄せ険しい顔をした。頬を膨らませ唇を尖らせた。怒った表情。次に眉間に皺寄せ悲哀感を表した。最後は満面の笑みだ。クルクルと変わる表情は多彩で生き生きとしていた。

シュウは感心した。いや。とんでもない。感激だ。まるで人間のようではないか。「不気味の谷」という人間らしさと作り物の境目を超えたのだ。自分の思いと熱意が報われた瞬間だった。

シュウは何度も頷いた。いつかアンドロイドが日常に当たり前にいる日が来る。育児や介護をすればどんなにか人間の暮らしは豊かになるだろう。そんな日はきっと近い。絶対だ。

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