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アンドロイド転生178

キリはエリカに剣術・居合術・抜刀術・柔術・槍術・薙刀術・空手・体術の他、爆弾処理、毒物処理、銃器操作をインストールした。5分後、頸のケーブルを外されたエリカは自分が新しく得た知識の洪水に驚いていた。
「これは…何?」
キリは口許に微笑みを浮かべた。
「エリカ、あなたはこれからシーフになるの」 

シーフ…。訳すと泥棒、盗人…。
「えっ?」
エリカは目を丸くした。キリはトントンとデスクを叩いた。
「タウンって凄く平和でしょ?でもね?そんな事ないんだよ。影には悪い事をしている奴が一杯いるの。それが人間の本質」

エリカは言葉に詰まった。キリは溜息をついた。
「脱税したり大儲けしているのがゴマンといるの。そこからお宝を頂くのがエリカの仕事。どう?やる?エリカの好きでいいよ」

好きでいいよと言うならインストールする前に話して欲しかった。泥棒は犯罪なのに今はこの技術を発揮したいと思っている。タケル達のように役立てたい。
「うちらに主従関係はない。命令はしないよ」
そうか。選択権はあるのか。

キリは窓を見つめた。暗闇だった。
「夜の狩って言ってる。狩で得たお宝はタカオとアキラが売りに行く。2人はその仕事が担当。バイヤーって言うの。で、お宝がブラックマーケットで取引される。その資金でホームが成り立っているの」
タカオはキリの夫でアキラは従兄弟だ。

「どこに売りに行くの?」
「新宿。表向きはカフェ。あっちのバイヤーがターゲットの家を決めるの。うちらは言われるまま狩りをする。実はバイヤーも平家の落人の子孫。だからうちらの親戚。絶対に裏切らない」

キリは人差し指を立てた。
「あとは廃棄されたアンドロイドをラボの職員が横流ししてるの。金が欲しい奴らは結構いるんだよ。そいつらからうちらは買ってんの」
エリカはオペ室や倉庫のアンドロイドの部品の山を思い出して合点がいった。自分の瞳もそうやって手に入れて交換したのだろう。

キリは腕を組んで厳しい顔をした。
「世の中は明るいばかりじゃない。暗部もしっかりあるんだよ。平和な国、日本の裏側だね。議員なんか清廉潔白な顔をしてるけど、本当は悪いことを沢山してるんだよ。エリカの主人もそうだったでしょ」

エリカは何度も頷いた。エリカの主人のロシア人もきっと影で罪を犯していたのだろう。通訳をしていたけれど、あの時は物事を深く考えなかった。知ろうともしなかった。でも思い返すと金の話題で主人は目の色を変えていた。生き生きとしていた。

エリカはキリの誘いを断らなかった。断る理由がなかった。インストールされた以上、この技術を使いたかった。ホームの為になるのなら、自分の存在価値が更に高まると思った。何よりもタケルと一緒に行動を出来るのが嬉しかった。

「やる!」
「よし!じゃあ、トレーニングして。チアキに教えて貰ってね」 
「タケルがイイ」
キリは楽しそうに笑った。
「エリカは本当にタケルが好きなんだねぇ?」
好き?そうなのか?エリカには分からなかったがこれがアンドロイドの恋心だった。

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