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アンドロイド転生722

白水村:里の出入り口

アオイは手を上げ笑顔で村から去って行く。ミアとチアキも笑って見送った。
「アオイは…東京に行っちゃった」
「ん?ミオも行きたいの?」

ミオは東の方向を見つめて首を横に振った。
「ううん。都会は怖いもん。私は前は…新宿でストリッパーをしてたでしょ?いつもいつも性の奉仕と暴力ばかり…。辛かった」

ミオはルークと同じファイトクラブに所属していた。人間の快楽の為の存在だった。チアキは暗い気持ちになった。保母だった自分とは雲泥の差の世界にミオはいたのだ。

「昔ね…猫の赤ちゃんを守れなかったの」
ある寒い雨の夜。ミオは産まれたばかりの子猫を拾った。温めてミルクを与えた。だが数時間後、クラブのスタッフに捨てられた。

土砂降りの雨の中、子猫の命は絶えてしまった。なんて人間は残酷なのだろうとミオは慟哭の叫び声を上げた。自意識が芽生えた瞬間だった。その場でルークと共にクラブから逃げ出した。

チアキに助けられてホームの一員となった。数年後、タケルが村にやって来た。お互いの過去を知るためにメモリを共有した。そこでタケルが元は人間だった事を知ったのだ。

「でね。初めてタケルと繋がった時にね?タケルの妹のミチルが赤ちゃんで…可愛いなぁ…って」
タケルとミチルは4歳離れていた為、タケルには妹の乳児の頃の記憶があった。

「タケルの想い出の中でミチルがどんどん大きくなっていくのが嬉しかった。あの子猫も大きくなって欲しかった。人間と猫は同じ生き物だもん。素敵だよ。マシンの私とは違うよ」

チアキはなるほどと頷いた。
「そうだね。同じ生き物だもんね」
「でもミチルは13歳で死んじゃった。だから…その代わり…私が…成長したくなったの」

ミチルは2040年の第二次関東大震災で命を落としたのだ。それがミオは悲しくてたまらなかった。チアキは胸が打たれた。子猫やミチルの代わりに成長したかったのか。そうだったのか。

「でも…私はいつまで経っても子供なの。人間だったら成長期だもん。たった1週間だって身長が伸びてる筈でしょ?なのに全然変わらない。それが悲しかった。大人になりたかった」

「子猫もミチルもきっと喜んでいるよ。ミオは大人になった。綺麗になった」
「本当かな?喜んでいるかな?」
「天国にいるよ。見ているよ」
 
ミオは青空を見上げて手を伸ばした。
「そうだね。きっといるね。天国に。あ!マシンだけど…きっとトワもいるね。天国に」
そして自分が決着をつけたもう1人のミオも。

チアキとミオはアンドロイドだ。その身体は機械と有機物で出来ており、頭蓋にはAIチップが埋め込まれている。だが自意識が芽生え情愛を知った。何故かは分からない。

だがそもそも人間だってよく分からない。細胞同士が連結しているだけなのだ。でも確かに心がある。アンドロイドだって心がある。宇宙から見れば両者は大差のない生き物だ。


※ミオと子猫のシーンです


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