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アンドロイド転生156

東京都新宿区:ファイトクラブ

ミオは化粧を終えた。次に衣装を選んだ。セクシーであればあるほど良い。でも何でも良い。どうせすぐに脱ぐのだ。今日は何人に抱かれるのだろう。暴力的じゃないと良いけれど。

ミオは生まれて3ヶ月。戦士のルークと同じ頃にクラブにストリッパーとして派遣された。肉欲の提供もする。ファンがいるらしいが飽きられたらそれでお仕舞い。彼女の役目はそれだけだ。

ミオは支度を終えて会場に向かった。ルークの戦闘が終わって観客は興奮の絶頂にいる。私はその後始末。男達の欲望の吐口になる。それだけ。ミオはリングに上がって踊り出した。

14歳モデルの幼い身体。胸の膨らみは僅かだ。それに魅力を覚える人間がいるのだ。リングの淵には酔った男達が詰めかけており、皆ミオを見ている。ギラギラと瞳が淫靡に光っていた。

「さぁ!ミオをご自由になさって下さい!」
何人も手が上がり3人が選ばれた。野獣のような笑み。直ぐに丸裸にされた。男達はミオの髪を掴んだ。腰を押さえた。覆い被さった。

ショーが終わってミオは楽屋に戻り口腔内と下半身の内部を洗浄した。良かった…今日は殴られなかった。人間って興奮すると恐ろしい。暴力を振るわれて機能停止になる仲間を何人も見た。

キッチンに行くとヤス爺が頬を押さえていた。唇から血を流している。
「どうしたんですか!」
「ミオちゃん、ごめんよ。守れなかったよ」

ミオはすぐに理解した。
「ど、どこに!」
「外」
ミオは階段を駆け上がって表に出た。

暴風雨の中の子猫を見た。ミオは駆け寄って地面に座り込んだ。掌に包み、命の消えた小さな身体に頬を寄せた。人間ってなんて冷たいの?なんて残酷なの?命をなんだと思っているの?

ミオの内部から何かが迸った。自意識が芽生えた瞬間だった。ミオは声を上げて泣き出した。暫くしてミオの肩に手を置いた者がいた。ルークだ。
「私と一緒に来ませんか?逃げましょう」

逃げる?そんな事が出来るの?でも…でも、もうここに居るのは嫌だ。スタッフがやって来た。
「ミオ!ルーク!何やってる⁈楽屋に戻れ」
ルークがミオの腕を掴んで後退りした。

ミオは子猫を抱いていた。燃え尽きた小さな命。許さない!絶対に!2人は走り出した。
「ま、待て!」
途端に内側から警告音が鳴った。

雨の中、ひたすら走る。どこへ?どこかへ。逃げる。ただそれだけ。子猫の遺骸を埋めた後、2人は2日間彷徨った。ミオは顔を歪めた。
「ルーク…この音は不快です…」

ルークが肩を落とした。リングの勝者も惨敗だ。
「逃げきれないものですね…。ラボに行きましょう。廃棄でも構いません。悔いはありません」
ミオは自問する。後悔はない?本当に?

2人は茨城県つくば市まで歩いてきた。もうすぐでTEラボに着くと言うところで森の中から女性と少年がやって来た。チアキとトワだった。
「ずっと歩いてたね。サーチしてた」

ルークは彼らを見やった。
「そうですか。警告音が煩くて堪らないのです。廃棄してもらおうと思っています」
「止めてあげる。私達と一緒に来ない?」

ミオは驚いた。
「止める?この音を?」
女性がニッコリと微笑んだ。アンドロイドの自分達の運命が大きく変わった瞬間だった。

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