アンドロイド転生155
白水村集落:リビング
「じゃあ、私の過去を観てくれる?」
ミオはタケルの腕に手を触れるとニッコリと笑った。頬のラインがふっくらとしていて幼い顔立ち。彼女は無線ケーブルを頸に差し込んだ。
タケルはミオを繁々と見た。こんな子供のモデルが本当にストリッパーだったのか?だが先程のルークの画像を思い出す。彼女は肉欲の犠牲になっていた。タケルの心は沈んだ。
ミオ:3年前(2107年)
新宿区歌舞伎町:ファイトクラブ
タケルの脳内に画像が形作られていく。子猫が見えた。か細く鳴いている。掌に乗るほどの小さい身体。前後の足をモゾモゾと動かしている。目がやっと開いた頃だろうか。まだ幼い。とても。
ミオは路地裏の雑草の中から子猫を拾った。雨に濡れた冷たい身体。すぐにでも温めないといけない。ミオの掌の温度が上がる。適温になると子猫を包んだ。死なないで…。お願い…!
ミオは直ぐにクラブの地下へ降りて行った。キッチンへ行く。ヤス爺と呼ばれる老人がいた。競馬のホログラムを観ながらウィスキーを飲んでいる。彼はストリッパーの世話係りだ。
「ミルクが欲しいのです。死んでしまいます」
ヤス爺はミオの掌を見た。
「こーんな小さいの、無理だよ。母猫が捨てたんだ。放棄だな。元の場所へ戻しておいで」
「雨なんです。お願いします。助けて下さい」
ミオの瞳が潤んだ。ヤス爺は優しい男だった。人間としては底辺の暮らしだったとしても、やさぐれる事はなかったしアンドロイドを尊重していた。
ヤス爺は立ち上がると冷蔵庫を開けた。牛乳を取り出し温めた。砂糖を少し入れる。
「糖分を摂らないとヤバいからな」
室内にミルクの香りが漂った。
ミルクを皿に入れてミニタオルを浸した。
「口元に持っていきな。吸えたら何とかなる」
ミオは頷くと言われるままにした。子猫は吸い出した。ミオとヤス爺は笑い合った。
暫くミルクを与えた。その間に彼は箱を開けてふんわりとタオルを入れて蓋付きの容器に温めた湯を入れて湯たんぽを作った。
「身体をよく乾かして寝かしてやんな」
「はい」
子猫は満腹になり眠った。ミオの口元が綻び目が細められた。キッチンに人間の男がやって来た。
「ミオ!今日は出番な!」
「はい」
男は子猫に気がついた。
「なぁに?拾ってんだよ。捨ててこいよ」
「お願いします…!ご迷惑はかけません」
舌打ちして男は出て行った。
「ヤス爺様。お願いがあります。私が出番の間、この子を見ていてくれますか?」
「ああ。分かったよ」
「じゃあ、行ってきます」
去り際にミオは子猫を撫でた。ホワホワとした毛が愛らしく、その姿に胸がいっぱいになった。ずっと側にいたかったが諦めて楽屋に向かった。楽屋には3体のストリッパーがいた。
其々美しかった。でも無表情だった。自分達の運命は楽しくもない。辛い…かどうか分からない。今以上の暮らしをした事がない。踊って…男達の欲望の吐口になるだけ。それだけの存在だ。
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