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アンドロイド転生187

3部 始

2114年3月14日

アオイは目覚めた。眩い光に包まれている。目を上下左右に動かした。視覚が直ぐに世界を捉えた。正面には首のない全裸の身体があった。驚き、そして恐怖で叫び出す。

「あ?起きた?」
頭上から女性の声がする。
「起きたよ〜!来て来て!」
その女性が誰かを呼ぶ。

首を動かしたいのに回らない。どうやら頭部と胴体を離脱して、頭は吊るされているようだ。これは…まるでラボのメンテナンスのようではないか。あの首のない身体は…きっと自分だ。

一体何が起こったのだ?私は何でここにいるだ?最後の記憶は何だったろう…?アオイは唐突にモネの泣き顔を思い出した。そう、そうだ。別れの朝だった。悲しくて辛くて身が切れる思いだった。

抱き締めたモネの小さな身体。赤ん坊から12歳まで彼女を育てた。ああ、そう…。派遣期間を終えたのだ。それで…タカミザワ家を後にして…茨城県つくば市のTEラボに戻ったのだ。

廃棄になるとばかり思い込んでいたのに…サクラコの温情で命は繋がった。今後は新しい場所に派遣されるとの事だった。だが初期化されると知って…記憶を失う事に恐怖して…逃げ出したのだ…!

TEラボは山間にあった。闇雲に山道を登った。断崖だった。守衛に追われて…そして飛び降りた…!谷底の衝撃を思い出した。でも結局は…連れ戻されてしまったのか。ああ。もうお終いだ。

でも初期化されていない。記憶はまだある。愛しいモネの笑顔。親友のサツキ。元婚約者のシュウ。それから皆んな…!主人のサクラコ。執事のザイゼン。まだまだ覚えている。愛する人達…!

だがもう捕まってしまった。これから初期化されるのだ。ああ、やはり記憶を失うのか。いや、自分は逃亡したのだ。危険と見做されて解体かもしれない。嫌だ。怖い。誰か助けて。

誰かがやって来た。
「おはようさん。元気か?」
男性がアオイを覗き込んだ。暢気な口調だ。それが癪に触る。私の恐怖などお構いなしだ。

女性はアオイの顔に両手を添えた。
「うまくいったよ。首を繋げればオッケー」
視界が変わり、首のない身体を真上から見た。
「壊れたから直したの。これから着けるからね」

直した?どうやら解体はされないようだ。だが結局は逃げ出せず、この先は記憶を失い、またどこかに派遣されるのだ。これなら生きながらえても意味がない。アオイは悲しくなった。

今度は給仕か?楽団か?もしかしたらタカミザワ家のパーティに行くかもしれない。でももうモネに会っても分からない。そう思うと涙が盛り上がってきた。ああ…。あそこにだけは派遣をしないで…。

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