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アンドロイド転生220

2114年12月28日
白水村:里の出入り口

「じゃあ行ってくる」
タケルが手を振った。ミオも手を振った。
「楽しんできてね!」
チアキが嗜めた。
「慰霊祭なんだよ。楽しむってないでしょ?」

ミオはくるりと目を動かした。
「あ、そっか。じゃあアリス達は楽しんでね!」
エリカを誘ったらアリスとケイとサキも行きたいと言い出した。だが彼らは慰霊祭には行かない。

アリスは新宿で恋人のリツと会う。彼の両親に交際を認められてデートだ。ケイとサキも恋人同士。都内を思う存分楽しむらしい。タケルがたった1人で行く筈だったのに大所帯だ。

6人は歩き出した。集落も山道も雪が積もっているが、アンドロイド達には下山など容易い。サキは人間だが山の出身。山道は得意だ。1時間かけて麓まで降りて車両保管小屋に行く。都内まで車だ。

車内に乗り込み、アオイは5人を見渡した。タケルとエリカの3人で慰霊祭に行く予定だったが人数が増えた。アリスは大荷物。カフェで着替えるらしい。都内でデートするのだ。

ケイとサキは交際2年。普段は川を散歩したり山狩りをする程度なのだ。サキは初めての都内で緊張していた。頬は染まり、瞳が輝いている。ケイに寄り添って2人は手を繋いでいた。微笑ましかった。

さてはと…エリカを見ると、タケルの隣に当然のように座り満足顔だ。デート気分なのかもしれない。たとえ慰霊祭に行くのだとしても好きなタケルと出掛けるのは嬉しいのだろう。幸せそうだった。

2時間後。新宿の平家カフェに到着するとアリスとケイ達が車から降りた。翌朝に迎えに行くと約束して別れた。恋人達はダブルデートかもしれない。各々過ごすのかもしれない。

アオイはまるで母親のような気持ちになった。
「皆んな。楽しんでね」
アリスとサキは瞳をキラキラとさせている。まるで恋する乙女だ。あ、それもそうだなと思う。

車が走り出す。まだ正午前だ。慰霊祭のメインは震災時間の夜8時2分。それまでは高名な人々の演説や、歌手の鎮魂歌、ダンサーや子供達の踊り、合唱、演劇など様々な催しが開かれる。

多くの人で賑わう年末の一大イベントとなっていた。悲しい事実も時と共に美化していくものなのかもしれない。タケルがアオイとエリカを見た。
「夜までどうするかな」

アオイの胸がトクンとなる。本当はモネやサクラコ、ザイゼンに逢いたい。陰からでも見つめたい。サツキはどうしているだろう。シュ、シュウは…。だが頭を振る。自分は彼らの世界からいなくなった存在なのだ。諦めるしかない。

アオイは提案をした。
「皆んなの…お土産を買おう。子供達が喜ぶようなお菓子やオモチャ。ね?良いでしょ?」
「そうだな。よし、そうしよう」

エリカは憮然とした顔をする。
「私もそう言おうと思った。プレゼントって」
アオイは吹き出す。全くエリカの嫉妬心は可愛らしい。思春期の中学生のようだ。

アオイが笑ったので彼女は唇を尖らした。
「なに?」
「エリカの心は豊かだね」
エリカは益々憮然となった。


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