見出し画像

アンドロイド転生802

2118年6月19日 午後2時過ぎ
カノミドウ邸:シュウの寝室
トウマの視点

曽祖父を見舞ったモネの画策でアンドロイドのサヤカ(アオイ)がやって来た。トウマは不愉快でならなかった。曽祖父もモネも輪廻転生だなんて夢物語を本気で信じているのだ。

トウマは呆れた顔をした。
「祖父ちゃん…生まれ変わりなんてないよ」
「じゃあ…私の妄想だとでも言うのか?老いておかしくなったと?マシンに騙されていると?」

シュウはじっと曾孫を見つめる。
「世の中…見たもの聞いたものだけが真実ではない。人智を超えた不思議なことがあるものだ。私は…奇跡を望み、それが叶ったんだ」

シュウは追い払うように手を振った。
「トウマ。出ていけ。邪魔をするな。私の時間を奪わないでくれ。そして2度とアオイに対して偉そうにするな。お前にそんな権利はない」

トウマは呆然となった。いつも優しかった曽祖父のそんな口調は初めてだった。しかも最近の弱々しい風体ではなかった。悠然としていて表情には煌めきがあり声には張りがあった。

信じる者は救われると言うことか。たとえ老体とは言えトウマは曽祖父を尊敬していたし情愛があった。だからこそ守りたかった。世迷言を語るアンドロイドが許せなかったのだ。

シュウが声を張り上げた。
「おい!トウマを連れて行ってくれ!」
ナースアンドロイドがやって来るとトウマの腕をガッチリと掴んで引っ張った。

女性型で小柄なナースだがマシンの強靭な力に人間は敵わない。グイグイと引っ張られトウマはヨロヨロと歩き出した。
「祖父ちゃん…」

シュウはトウマを見ようともしなかった。曽祖父を守ろうとした自分がまるでピエロだ。追い出されて終わりなのだ。アオイはトウマを見つめてやがて深々と頭を下げた。

トウマは隣室に連れ出された。モネは笑った。
「恋人達の邪魔はしちゃいけないの。あと、年長者の言うことは聞くものだよ。サヤカ(アオイ)に偉そうにしないでよね。絶対ね」

トウマはナースの手から腕を振り払うと漸く自由になった。口を歪めてソファにどかりと腰を下ろして腕を組んだ。モネが見下ろした。
「なんでそんなに怒るの?」

実のところトウマの怒りは父親が非合法でダイヤモンドや銃を手に入れていた事だ。尊敬していた父の罪をサヤカに暴露されたのが恥ずかしかった。怒りの矛先がサヤカに向いたのだ。

モネは悲しそうに溜息をついた。
「トウマとサヤカは子供の頃からの付き合いでしょ?あんなに仲が良かったじゃん」
確かにそうだ。優しいサヤカが大好きだった。

「世の中には不思議な事が沢山あるよ。生まれ変わりだってあるよ。結婚する筈だったのに死んじゃった。その辛い気持ちを分かってよ」
トウマは無言だった。

モネは溜息をつく。
「あーあ。邪魔が入ったから時間が少なくなった。本当に空気が読めないね。あんた」
「あんたって言うな」


※トウマの父親が罪を犯したシーンです


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?