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アンドロイド転生26

回想 2010年12月

「耳抜きが出来れば大丈夫」
インストラクターはニッコリとした。
「後は恐れないこと」
「はい」

アオイとシュウは酸素ボンベのタンクを背負ってボートに乗っていた。照りつける日差しが眩しい。アオイは目を細めて海を見る。一面のエメラルドブルー。キラキラと宝石のようだ。

ボートには世界各国からの多くの客が乗っていた。全員資格を持ったダイバーだ。アオイは中学部に進級したのを機に両親から許可をもらい体験ダイビングに参加していた。シュウも一緒である。

今日は大晦日。2人の家族は例年通り常夏の島で年越しを迎える。夜はカウントダウンパーティーだ。この日ばかりは日付を跨いで起きていても良いのだ。楽しみでならない。

ボートが停まりダイブのポイントに到着した。ダイバー達は次々と波間に吸い込まれていく。日本人のインストラクターも海に入るとアオイ達においでと合図をした。

思った以上に酸素ボンベは重くて身体が持ち上がらない。ボートの運転手が背中を支えてくれた。ヨタヨタとボートのヘリに着く。海に入り、足にフィンを装着する。人魚の尾鰭のようだ。

口にレギュレータを加え、目元にマスクを着けると海の中に沈んでいく。直ぐに安定した空気供給がなされる。一定のリズム音は心地良かった。これぞダイビングだと実感して期待が高まる。

アオイとシュウは水中のロープを伝い潜行した。途中でインストラクターが自分の耳を指す。そして人差し指と親指で円を作り首を傾けた。耳抜きは出来ているかと聞いている。

これが上手く出来ないと水圧で鼓膜が破裂してしまうのだ。2人は指で円を作って大丈夫だと応える。彼は頷くとついて来いと合図した。アオイ達はロープから手を離し泳ぎ出した。

フィンが力強く身体を押し出す。海の中は無重力のように身軽だった。辺りを見回した。青。一面の青の世界。色とりどりの魚が舞っている。なんて幻想的な光景なんだろう。

ウミガメが我が物顔で浮遊している。魚群が帯のように通り過ぎた。潜水艦が沈んでいる。そこを根城にしているタコやウツボがいた。ああ。私は今、別世界にいる…!胸が躍った。

インストラクターがアオイにソーセージを渡した。細かく千切れと合図をする。言われた通りにすると、多くの魚がアオイの手元に集まった。自分を中心に鮮やかな紙吹雪が舞っているかのようだ。

感激してシュウを見た。シュウの周りにも魚達の群れ。綺麗綺麗!凄く綺麗!アオイは手を叩いて喜びを表した。シュウの瞳がマスク越しに微笑んで親指を立てた。アオイは何度も頷いた。

潜水艦がやってきた。窓から人々が笑顔で手を振った。ダイバー達も振り返した。アオイとシュウも倣った。今日は一生の思い出だ。何でもシュウと一緒にする。それが本当に嬉しかった。

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