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アンドロイド転生1009

2119年12月19日
イギリス某所 ジュエリー店にて

「お気に召した物は御座いますか?」
店員アンドロイドは優しく微笑んだ。リョウはガラスケースを眺めていたが、お気に召すも何もどれも輝くばかりの美しさで選べない。

何でこんなに沢山あるのか。一体何が違うのか。
「指輪というものがよく分からなくて…」
「どのようなシーンでお使いですか?」
「プ…プ…プロポーズに…」

店員の笑顔が更に増した。
「それはそれは大事な場面ですね。オーダーが宜しいかと存じます。こちらへどうぞ」
「は、はい」

店員はリョウに椅子を薦めるとホログラムを立ち上げてじっくりと説明を始めた。素材、耐久性、重さ、カラー、透明度、カットなど。勿論価格も大事だ。リョウは目を白黒とさせた。

「そ…そんなに細かいんですか」
「はい。重要です。宝石は一生の物。時には子や孫や子孫にまで受け継がれます。ジュエリーは小さな物ですが大きな意味を持つのです」

リョウはアオイを思い出した。そうだ。モネから譲られたネックレスをそれはそれは大切にしていた。宝物だと言ってたじゃないか。
「分かりました。宜しくお願い致します」

「石はどうなさいますか?誕生石の場合もあり個性的です。しかしダイヤモンドは希少価値が高く硬度もしっかりしております。かつ“永遠の愛“と言う意味が込められています」

リョウの瞳が輝いた。
「そんな意味があるんですか…!じゃあ、ダイヤモンドが良いです。それでお願いします!」
「かしこまりました」

店員は別のホログラムを立ち上げた。
「こちらはデザインです。シンプル、ゴージャス、エレガント。様々御座います」
「へぇ…沢山あるんですねぇ…」

「リングはプラチナで宜しいですか?純潔や純粋を表して花嫁に相応しいと思われます」
そんな調子でリョウは店員の助けを借りてプロポーズに相応しい指輪を選んでいく。

店の外で白人と東洋人の女性2人が立ち止まりウィンドウに展示してある宝石を見つめ始めた。
「エマ。見て。綺麗ねぇ…」
「本当ね。綺麗ね」

エマは店内に目を向けた。東洋人が店員と話をしている。直ぐにリョウだと気が付いた。
「あ…。あの人…知ってる…」
「店に入る?声を掛ける?」

エマは首を横に振って微笑んだ。
「いいよ。そっとしておこう。ほら…ホログラムを見てる。指輪のモデル…婚約指輪っぽいね。プロポーズするんじゃないかな」

きっと相手はミアだ。ミアは調律師として家にやって来た。ピアノを調律してくれたのだ。彼女はリョウに惚れていると勘が働いた。リョウの真面目なところに惹かれたのだと思った。

上手くいけば良いなと密かに応援していたが…そうか。ミアの想いが通じたのか。
「幸せそう…良かった…」
友人に声をかけてエマは歩き出した。

リョウはふと顔を上げて店の外を見た。何となく視線を感じたのだ。女性2人が横切って行く。その横顔がエマに似ている気がした。
「気のせいか…」

リョウはまたホログラムに目を戻してデザインを選んでいった。1時間半後。決定した。
「ではこのモデルでお作りします。完成はおよそ3週間後。メールにてお知らせ致します」

リョウが頷くと店員はニッコリとする。
「楽しみですね」
本当にそうだと思った。一生に一度の贈り物がこんなにも楽しいものかと嬉しくなった。


※ミアが調律に訪れたシーンです

※エマが応援するシーンです


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