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アンドロイド転生877

2118年9月10日 夜
ロンドン:レストラン

リョウはとうとうミアにイギリスに来た目的を打ち明けた。ハスミエマに対する謝罪だ。自分の非道な行いを余す事なく伝えたのだ。ミアはリョウを擁護し、エリカを非難した。

確かにエリカは死を持ってその罪を償った。俺は…100日間の約束を守ることによって罪から許される…。いや、そんな事はない。もしエマの心が癒えたとしても人間として最低だ。

ミアはうんうんとひとりで何度も頷く。
「確かに…リョウは酷いね。でも。誠意があるよ。きっとその心はエマに伝わるね」
「そうかな…だと良いな」

ミアは微笑んだ。リョウの罪は重い。けれど彼を好きだと言う気持ちに変わらなかった。反対に打ち明けてくれた事が嬉しかった。信頼の証だ。きっとリョウは2度と人を傷つけない。

「私…エマのピアノの調律したい。エマが楽しく弾いているところが見たい。元気になって笑ってくれたら嬉しい。行こう。エマの家に」
「うん。有難う」


3日後 9月13日 午後
(訪問73日目)

ユリエ(母親)の視点

いつものように玄関で出迎えたユリエは目を丸くした。リョウが女性を連れて来たのだ。勝手に思い込んでいた。調律師は男性だと。ユリエはやっとの事で微笑んだ。

「まぁ…いらっしゃい…」
ユリエは力なく家に2人を迎え入れ、彼らの様子を窺い見た。もしや…そんな関係なのか?いや…ただの知り合いだ。うん。きっとそうだ。

2人をリビングに通した。ミアは早速小上がりのフロアに上がった。ピアノに優しく触れると微笑んだ。その眼差しには慈しみがあった。
「初めまして。素敵にするね」

ピアノに向かって挨拶をするミアを誰もが好ましく思った。エマも微笑んだ。
「宜しくね」
「はい」

ミアは鞄から音叉を取り出して耳に当てると鍵盤をひとつずつ叩き始めた。瞳を閉じて聴き入っている。リョウはミアのそんな姿に静謐さを感じた。それから1時間後。調律が終わった。

エマがピアノを弾き始めた。流れるように指が動く。笑みが自然に浮かんだ。
「わぁ…B♭の音が微妙に違う。素敵」
「有難う御座います」

ユリエが執事を従えてやって来た。
「さぁ。中庭でお茶にしましょう」
いつものアフタヌーンティーが並べられる。色とりどりのお菓子にミアの瞳が輝いた。

4人は暫く談笑する。ユリエはリョウとミアの関係がどうしても気になって仕方がなかった。だがプライベートな事に立ち入るのは失礼だと心が揺れるのだ。娘を窺い見た。

「エマちゃん。リョウさんにこんな可愛らしいお友達がいたなんて…驚いたわね」
母親の心配など構わずエマは平然としている。
「そうね」

ユリエは不安で堪らない。
「リョ…リョウさん?ミアさんとは古いお付き合いなのかしら…?」
「いえ。イギリスに来てからです」

そんな最近に知り合ったのか…。ユリエはミアを盗み見る。女性の勘が働いた。ミアはリョウに惚れている。だが…リョウはその気がないように見える。そうよ。リョウはエマのものよ。

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